それぞれの過ごし方
遅れてすみません(もう一週間を締め切りって考えるのやめるか……)。ニコニコのdアニメでロボットもの漁っていたら時間が過ぎ去っていました。
いやぁ、いいですね、異世界の聖機師物語。久しぶりに見ましたけど、あの剣士の嫌味のないハーレムぶりが!(笑) 二期はまだですかいのぅ……
――そうして、一週間はあっという間に過ぎ去っていった。
小春は、ジン隊長の指示する無茶苦茶な育成計画に文句一つ言わず、食らいついていった。
基礎体力を伸ばす筋トレは程々に、とにかくトールディオに搭乗している時間を増やす。そして、念動力を嫌になるほど行使させ続けていた。筋肉と同じく、念動力も使用すればするほど鍛えられる……とかなんとか。
そうして念動疲労をギリギリ起こさない状態を見極めて、ジン隊長の指導は続いていた。鮫介もたまに戦闘訓練で出撃を依頼されることがあったが、小春のジェレの腕輪による念動力の削減は、どうにか鍛えられてなんとかなるかもしれない……というレベルまで成長していた。小春は疲労でぐてっとしていたけども。
決闘の開始日まで、残り三日。
その夜半、鮫介がふと目を覚ますと、糸を両手の指に巻いた小春がベッドに迫っていて激しく動揺した。
鮫介が驚きの声を上げて飛び起きると、慌てたように廊下へと逃げ去っていったが……なんだったんだ? 念入りに自分の服装の乱れをチェックしてみたが、別に何とも無いし……あの糸は何だったのだろう?
決闘の開始日まで、残りニ日。
早朝、鮫介が小春に昨夜のアレは何だったのか問い詰めようと食堂で出待ちしていたら、ゴードンに既に外出済みだと聞かされた。ジン隊長の許可も取っているらしい。
トールディオで飛行しながらエベリスの街へ向かったとか。この忙しい時期に何をやっているんだろう……?
とりあえず、昨夜小春が忍び込んでいたことを報告すると、ゴードンはニヤニヤして、
「ほほぅ、夜這いとはやりますねぇ……」
とか感心した風に言っていたので頭をはたいておいた。料理を持ってきたカルディアが、苦笑して告げる。
「この屋敷は、外側からの潜入等には強いですけど、内側からの暗殺者なんかには弱いですからね」
「何とかならないか? 護衛を雇って、僕の部屋の扉の前に置いておくとか」
「近衛騎士の選抜には、アルキウス様の精査と許可が必要です。オトナシ近衛兵団の誰かを使うなら、話は早いのですが」
「いや、それは……彼らを徹夜させるのは、どうかな……」
「命令ならば、従うと思いますけどね」
悩みだす鮫介に、カルディアは苦笑を深める。するとそこにゴードンがひょっこり顔を出し、
「まぁ、コハル様は糸を指に巻いていたんでしょう? なら、心配することありませんよ。ご帰還なさったら……そうですね、頭でも撫でてあげればよろしいかと」
「ん……? ゴードンは知っているのか? 小春が僕の部屋に忍び込んだ理由を」
「おおよその検討は付きますよ。そして私の予想通りであれば……ふふ。決闘へのモチベーションは最高潮に高まるでしょうね」
「……ゴードンがそう言うなら、従うけど……」
ひとまずゴードンを信用して、放置することにする。
果たして、小春は何を企んでいるのだろう? 鮫介は頭を悩ましながら、カルディアの用意してくれた朝食に取り掛かるのであった。
孤児院への訪問は、恙無く終了した。
そこにいる子どもたちは、皆目を輝かせてマホマニテの訪問を歓迎した。マホマニテも微笑を浮かべて、それらを受け入れている。
各領にて五年に一度開催される領主選挙において、マホマニテは数十年、その地位を他の誰かへと譲ったことがない。それは、マホマニテ様の存在がガムルド領になくてはならないものなのだ――と、側に侍っているドランガは思う。
事実、マホマニテはこうして足繁く住人のもとへ通い、自ら悩みや不安を聞いて回っている。今日は領主の屋敷のある首都ビドスコモスの孤児院を訪問していた。マスコミのカメラが周り、孤児たちに囲まれた笑顔のマホマニテを写している。
そう――マホマニテは善なる存在なのだ。
能力主義で役立たずに厳しく、その鋭い眼差しはよく恐怖の対象となるが――それは領主として、当然の判断だろう。少なくとも、おかしいところは何一つない。
それなのに――と、ドランガの顔は曇る。
息子を殺害した先代勇者、クヤカツトシ――そしてその娘、クヤコハルに関してだけ、マホマニテは豹変する。残酷に、冷酷に……
その感情の発生原因は、理解出来る。相手は息子の仇だ。そんな輩に笑顔で相対するよりは、憎しみの目を向けるほうが、ドランガには納得出来る。
しかし……その憎しみが行き過ぎていないか、とドランガは老婆の背中を見て思う。
トールディオに選ばれた、とコハルは言っていた。虹の七騎士の搭乗者は、月日の経過と共に年々数を減らしている。これを憂いて、ナロニ領のイリカ家のように近親相姦を繰り返して血が薄れないようにしている家系すら出てくる始末だ。
トホ領のナレッシュ殿のように、市井に偶然生まれた搭乗の資格を有する者を養子として引き取り、娘の婿にして家系の強化を図る――というのが、一般的な神官のやり方だ。そうやって虹の七騎士を預かる家系が領主に選ばれやすいのは有名税――と、話が逸れた。
とにかくトールディオが動いた以上、搭乗者がどれだけ精神破綻者だろうと祝うというのが、この国の常識だ。虹の七騎士が選んだ以上性格は悪いものではないだろうし、何よりも搭乗者の存在はあまりにも貴重なのだから。
それを考えれば、マホマニテの行動は――彼女の憎しみを考慮したとしても――少々、異常とも言える。
コハルの存在を認めないのは、分かる。決闘でトールディオの所有権を賭けることを許可するのも、分かる。敗北したコハルをガムルド領所属にするのというのも、まぁ、分かる。
だが――そのコハルを洗脳し、婚姻を結ばせてガムルド領から離れさせないようにするというのは、どうであろうか。
卑劣、という単語がドランガの脳内を掠める。騎士として、不名誉なことだ。事実、この世界に召喚された勇者――コースケ殿は結婚の話を聞いた後、非常に怒っていた。いや、あれは怒りの矛先が違ってる気もしたが……
マホマニテ様は言う。コハルと数多く子を成せ、と。
狙いは――分かってしまう。子供を置いて去れないだろうという情に訴えた引き止めが一つ。その子供がトールディオの新たな搭乗者となりうる可能性があるから、というのがもう一つ。
これが、復讐か。息子を殺した相手への。
『それは……パパのやったことだ。悪いとは思うし、必要なら頭も下げよう』
コハルの言葉を思い出す。
そう。クヤ・カツトシ本人ならともかく、その娘にまでこの仕打ちは……やりすぎではないだろうか。
確かに。確かにクヤコハルは無礼で、無知で、ガムルド領の事情を何も分かっていない。
だが、しかし……
「……ドランガ? 何をしているのです?」
「――は?」
「カメラを向けられているときは、にっこりしないと。あなたは女性領民によく好かれているのですから」
「はっ……申し訳ありません」
マホマニテに振られて、慌てて笑顔を形作る。途端、遠巻きに見ていた女性の野次馬が湧き、カメラのフラッシュが盛んに焚かれる。
それを見ていたマホマニテがにこりと笑顔を浮かべるのを見て、ドランガは己の疑念を振り払う。
今は……ただ、マホマニテ様のために剣を取ろう。己の知っているマホマニテ様は、善なる存在なのだから。
小春が屋敷へ帰宅したのは、十時を回った頃だった。
一体、何をしにエベリスへ向かったのか。鮫介は昨夜の小春が紐を持っていたことを思い出し、まさか僕の首元を狙っていたのでは……と戦々恐々としていたが、特にそういうことはなく。
屋敷に戻った小春は人目を気にするようにやけにキョロキョロしていて、鮫介が背中側から声をかけると背筋をぴんと伸ばして驚き竦み上がった。何を購入したのか問い詰めると赤面して、
「決闘が始まるまでのお楽しみだっ! 楽しみに待ってるといいぞっ!?」
と、甲高い声で叫ぶ始末。
本当に何を買ったんだか……とりあえずゴードンの指示通り、頭を撫でる。
「ひ、ひへぇ!? ひ、ふ、ふぅ……!」
なんか奇声を上げて、俯いて固まってしまった……本当にこれで良かったんだろうか。
鮫介は小春の頭を撫で続けながら、首を捻るのだった。
その後、小春は訓練に、鮫介は筋トレの続きに舞い戻った。
トールディオに搭乗し、小春はフライトで空を飛び続けながらギガント・サイクロンを撃ちまくっている。よく見れば風の勢いは二、三日前より格段に高まっていた。削れた分を取り戻した……いや、念動力が目覚ましく成長しているから、か。
鮫介は筋トレ(今日は武術の基礎訓練。要するに素振りだ)をしながら、小春の様子を見ているジン隊長に問いかける。
「小春の調子は、どんなもんです?」
「ふぅむ、そうですな……」
ジン隊長は己の口ひげを撫でながら、念動力を連発しているトールディオを注視して静かに答える。
「見ての通り、念動力そのものは鍛えられています。ギガント・サイクロンは元より、エア・ニードルも10本まで精製可能となりました。他の念動力も、腕輪をつけた当時と比べてニ~三割減、といった感じになるでしょう」
「へえ。訓練の成果が出てるな」
「私の指示にちゃんと従ってくれた成果です。他に戦闘訓練も平行して開始していますが、こちらはどうも……」
「一手遅れる、だろう?」
言い淀むジン隊長に対し、鮫介が片手を振って気楽に答える。
初回の戦闘訓練より、気になっていた部分だ。攻撃と攻撃を繋げることなく、様子を見ている風だったのだ。
「……その通りです。先手を取って攻撃を開始しますが、次の行動が、どうにも一手遅れてしまい……」
「うぅん……前の訓練でひょっとしてと思っていたけど……」
鮫介はトールディオを見上げながら、低い声で唸った。
「あくまで、素人の僕の予想だけど……小春は支援する仲間を見てる……というか、探してる、んじゃないかな」
「仲間を……?」
「普段の行動がね。前に草刈りしているときにちょっと指を傷付けてしまったんだけど、側に居たカルディアが気付く前に絆創膏持って駆け付けてきてね……」
「成程。仲間を支援するために、空いた時間でチラ見……というわけですか」
「まぁ、時間は空いてるわけじゃないんだけど……援護対象がいたほうが分かりやすいかな。ヒューインと組ませて一度戦ってみるか」
「お願いします」
困ったものだな、と鮫介は苦笑する。だがその苦笑に悪意はなく、どちらかといえばしょうがないなぁ、といった呆れを含んだ笑みだった。
「毎日矯正してるのに、変わらないのか……筋金入りの援護職人だな」
鮫介の好きな戦術シミュレーションゲームで例えるなら、小春は間違いなく「援護攻撃」と「援護防御」を所持していることだろう。
常に誰かを助けられないかと考えている、勇気と優しさを持ち合わせた人種ということだ。
「しかし、仮にそれが事実だとすると……困りましたな。コハル殿の戦法は、仲間が多いほど有効ですが……彼女の部下はヒューイン一人だけです。それでは、まともに機能しますまい」
「ああ、そのことなんだが……」
鮫介は眉根を寄せ、ジン隊長を側に呼び寄せる。
「決闘に参加出来るのは、コハルの部下のみ。つまりヒューインは参加出来るけど、僕の部下であるオトナシ近衛部隊は参加出来ない。そうだな?」
「その通りです」
「そこで……」
鮫介が、ぼそりと小声で呟いた。その声は酷く小さく、トールディオの起こす風で遠くまでは届かない。
だが、ジン隊長にはしっかりと届いたようで。しきりに目をぱちくり瞬いている。
「……可能だと思うか?」
「はっ……その。可能、だと、思いますが」
「じゃあ、そういうことで頼む。絶対に、小春を負けさせるわけにはいかないからな」
話は終わったとばかりに、鮫介は素振りを再開する。
ジン隊長はトールディオと鮫介の顔を順繰り見渡して、大きくため息を付いた。
そうして、約束の一週間が経過し。
約束通り、小春の進退を決める決闘の舞台が、ガムルド領に整ったのである。




