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63 さらば、海底都市

「そういえばアーサー様。白い蛇のようなものを見たとおっしゃってましたよね?」


 サリューアと別れ、会議室を後にして割り当てられた部屋へ向かう途中、ソフィーラがそんな事を聞いてきた。魔酒を飲んだ時に見た話のことだ。


「そうだけど?」


「もしかすると、それは海神様かもしれません。私達も姿を見たことはありませんが、伝承でそんな姿が伝わっているのです。姉なら会ったことがあるので知っているでしょうが。」


「ナディアは会ったことあるの?」


 同じ巫女で、しかも双子であるにもかかわらず、ソフィーラは見たこともなく、ナディアは会ってさえいるという。どういうことだ?


「私達が海神様の巫女となった時、姉は海神様に選ばれ契約を結んだのです。姉の話では、私達には見えない思念体のような存在らしいのです。」


 契約を結んだナディアだけがその姿が見えるという事のようだ。


「姉が幼い姿であるのも、実はそこに理由の一つがあります。海神様と契約を結んだ巫女は、その力を行使できる権限を持つ代わりにマナを捧げなければならないのです。」


 マナ不足ということか?しかし、それで成長が止まるものなのだろうか?


「普通の巫女が契約を結んだならば、問題なく成長します。それは歴代の巫女が証明しています。しかし、姉には水のアーティファクトが宿っていまして、いろいろ考察した結果、どうもそれがマナを常時消費していると推測されたのです。片方であれば影響はないとしても、二ヶ所でマナが消費されているので自然供給では追いつかず、成長に必要な分を消費することで平衡を保っているというのが研究者の見解だそうです。」


 よく分からないが、『流出口が二つになったため、普通の人が自由に使えるマナ量では足りなくなり、成長用のマナを使ってようやくイーブンになった』という考え方で良さそうだ。この世界でマナは成長にも使われているのか。


 頭で整理していると、シャルアが付け加えた。


「僕らの見解はそーなんすけど、実際マナの量を測れる訳でもないですし、正解かどうか分からないっす。あくまで状況分析っす。」


「マナを測定することはできないのか。アーティファクトは切り離せないだろうし………。じゃあ契約は解除するとかは?契約って重要なものなの?」


「それはできません。海神様にマナを送ることでその力が海を安定させているのです。海神様とのマナの相性もあるので私が代わりを務めるなども出来ないのです。」


 姉の力になれないのが悔しいのだろう。ソフィーラは少し俯き気味にそう言った。



 ルーはそんなソフィーラの丸まったの背中をバンと叩いた。


「シャキッとしなさい!ナディアの事は全部終わったら解決してあげるから。セフィリアはマナが見えるのよ?そして私は天才大賢者。余裕よ、余裕!」


 腕を組み、ふふーんと自信に満ちた顔のルー。

 セフィリアはソフィーラを見てコクリと頷いた。


「本当に、そんな事が可能なのですか?」


 驚いて顔を上げたソフィーラの目には、わずかに希望の色が生まれていた。


「地上に舞い降りた女神、ルーテシア様をナメないでちょうだい?モチのロンよ!」


「ええ、ルーテシアさんに不可能はありませんから。安心してください。」


 ソフィーラの目に涙が溜まっていく。一定量を越えたそれは、やがて頬を伝って流れ落ちた。


「泣くのはまだ早いよ?ソフィーラ。その前に大仕事があるんだから。」


「はい、すみません。でも大丈夫です!アーサー様達ならば直ぐに世界を救えるはずですから!そうですよねっ?」


「は、ははは……相変わらず期待が重いなぁ。うん、でもその期待に応えてみせるよ!」


 そんな感じで自室に着き、一旦休憩することにした。ソフィーラとはそこで別れた。




 ドリンクを飲みながらくつろいでいると、今回の戦いに関して海皇の放送が行われた。都市部からは凄まじい歓声が響き、それは城内にいる俺達の元へも届いた。


「なんか照れるな。」


「そうですね。ですが、これが私達が動いた結果、守れたものという事でしょう。」


 セフィリアがちょっと格好良く見える。やはり聖騎士を率いる隊長なだけはある。



「さて、休憩もできた事だし、アリアス観光でも行っとく?」


 せっかくの海底都市だ。珍しい物も多いだろうし、見て回りたいと思うのは当然だと思う。


「なら僕が案内するっすよ!」

「うおっ!びっくりした~。シャルアいたの?」


「いたのって………アーサー様ひどいっす。さっきからいたっす。今日はいろいろ傷ついたっすけど、今のがトドメっす。」


 やらかしてしまったようだ。シャルアの目が虚ろすぎる。これは俺が悪いのか?ルー達に目で助けを求めるが、彼女らは目を逸らした。ルーやセフィリアだけではない。ノアやフェイまでも視線を逸らし、気にしたら負けというようにおやつを食べ始めたのだ。

 俺は仕方なくシャルアのご機嫌取りをすることにした。


「ごめん、シャルア。じ、じゃあガイドはシャルアにお願いしようかな?」


 その言葉を聞くと同時に、シャルアの顔がぱぁーっと明るくなった。


「ホントっすか!?じゃあ早速行くっすよー!!」


「私達は女のショッピングがあるからパスね。」


「は?ルー、ちょっと待──」

「了解っす!じゃあアーサー様は僕がしっかり海底都市の人気スポットに案内するっす!ルーテシア様達も楽しんでくださいっす!」


「だから、ちょ、待っ、うわぁーーっ!!」


 ルーに異議を申し立てようとしたが、すでに目の色が違うシャルアに腕を掴まれ、引きずられるようにアリアスの街へ繰り出すことになった。



 シャルアに連行されたアリアス観光は舞台や本屋から始まった。舞台はさすが街中の人が夢中になるだけあって、意外にもかなり面白かった。魔法があると臨場感も迫力も大違いだ。その後は本屋で小説の話をされたが、よくあるパターンというか、どこかで聞いたような話ばかりでいまいち惹かれる話はなかった。その後も人気スポットという名の舞台の聖地巡礼が行われた。こうして熱を帯びたシャルアに振り回され続け、予想通りの微妙な観光で締めくくることとなった。


 部屋に戻ると誰もいなかったが、いくらも待たずにルー達も帰ってきた。向こうは良い物でも見つかったのか、ホクホク顔だ。


「アーサー、お疲れさま。楽しかった?」


「お、おぅ………めちゃくちゃ楽しかったよ?」


「なにも顔引きつらせて強がらなくても。」


 俺の苦笑気味の返事にセフィリアも苦笑しながら返してきた。


「逃げた君たちにはシャルアからお土産があるよ。はい、どうぞ!」


 俺は魔法の鞄から紙束を取り出した。もちろんシャルアお薦めのの小説だ。


「ええっ!?」


 やはり仲間は分かち合うものだと思うんだ。いろいろとね。


「そんな物いらないのに………さっさと海底都市はおさらばしよっか。」


「………そうしよう。」


 良い思い出は作れなかった気がするが、とりあえず水のファクター確保は達成したのだ。良しとしよう。





「またいつでも来るがよい。アリアスはお主らの味方だ。ナディアの事もよろしく頼むぞ。」


「この海よりアーサー様達の御無事をお祈りしております。」


「ええ、それではまた。サリューア様もソフィーラもお元気で!」


 旅立ちの挨拶をした俺達は、ゲートを開き、海底都市を後にした。海中散歩もしたかったが、それでもゲートを使った理由は主にシャルアの感想攻めを避けたためだった。そして着いた先はカドカニの町。酒場のマスターに挨拶と届け物である。


「お世話になりました。マスターのおかげで無事目的も達成できましたよ。ありがとうございます!あと、ソフィーラという海人の巫女から御手紙です。」


「なんだとっ!?貸せっ!!」


 これまで無口でノアやフェイを見ても動揺も見せなかったマスターは、それまでとは違う予想外の勢いで手紙をぶんどっていった。


 手紙に目を通すと、マスターは顔を上げこちらを見た。


「ソフィーラは昔助けた海人なんだ。お互いに好き合っていたんだが、いろいろ事情のある姉を差し置いて結婚などできないと、距離を置くことにしたんだ。」


 ………なにぃ!?

 マスターとソフィーラができてる………だと!?

 ソフィーラのやつ、一言もそんな事言ってなかったじゃないか!


「だが、それもお前らが解決してくれるんだろ?最悪でもお前が嫁に貰うらしいじゃないか。そうなるとお前は俺の義兄か?はっはっは!」


 強い眼力と肩を掴む握力が俺にプレッシャーをかける。


「頼んだぞ、お、に、い、さ、ん!何の旅かは知らないが本気で頑張ってくれっ!!」


「うっ………善処します。」



 俺達は次の目標へ旅立った。

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