6話:美希
わたしは、家の都合で、新しい学校に転校することになりました。理由は二つ。一つは《劉水》家と《水飛沫》家の二家に命を狙われているから逃げるため。もう一つは、強い戦力を仲間に引き入れること。《艶魔》は《炎魔》。つまり、炎の魔法。わたしは、魔法使い。いえ、魔女と言うべきなのでしょうか。それとも、魔法少女かな。家系に連なる強い力を持って産まれたので、必然的に次期当主になっていました。ですが、《劉水》家との闘いで、仲間も怪我を負い、力の減少が危険視されている、我が家は、戦力を失わないために、わたしをこの地に送ったのでした。
そもそも、《炎魔》家が《劉水》家と《水飛沫》家に狙われた理由は、バラバラになってしまった《水素》家を再び統一するために、どちらの当主をリーダーとするかを決めるために、|《炎魔》家を倒した方が、リーダーという勝手な事に巻き込まれた状態だ。|《炎魔》家としては、そんな勝手にされては堪らない。
そうして、転校初日です。索敵のために、教師に頼んで、学校内を案内してもらった。敵の潜めそうな場所。自分の隠れられそうな場所。そう言った、場所を探しながら、歩きます。そして、一瞬、凄い魔力を感じました。ですが、その方向から歩いてきたのは、二十代くらいの女性。一体彼女は何者…?
「《炎魔》の縁者か、面白い…」
彼女は、通り過ぎるときに、耳元で、そう囁いた。その声は、暗く、深く、それでいて、少し明るい、夜明け前の空のような声でした。わたしのことを知っている。あの人は一体何者なのか。《劉水》家か《水飛沫》家のどちらかの人間なのか。いえ、だとしたら、今、殺されているはず。魔法使いなのは、確かでも、敵かどうかは分かりませんね。
教室に通されました。そして、教室で、初めて見たのに、さっきの女性と同じ気配、強さを持っている少年がいました。さっきの女性と同じく、強い、それは分かりますが、気配が明るい。あの女性が暗なら、この人は明です。
「初めまして」
「え、ああ、初めまして。俺は、四之宮ヒノキだ」
「ヒノキくんか…、うん、よろしく」
シノミヤ、と言う名も、ヒノキと言う名も聞いた事がない。無名の一族なのだろうか。わたしにも匹敵する魔力を持っていながら、それを隠している。そんな感じがします。
「ああ、よろしくな、美希」
わりとフレンドリーなのか、彼は、わたしのことを美希と呼んでくれました。父以外に下の名前で呼ばれたのは初めてな気もします。
「あの、さ。四之宮くん。今、艶魔さんのこと、何て呼んだの?」
わたしの隣の女生徒が肩を震わせながら聞いています。何事?
「いや、美希、だけど」
「(わたしのことは、一度も名前で呼んだことないのに…)」
女生徒は、ものすごく小さい声で、呟いていた。それを辛うじて聞き取れた。何?ヒノキくんに名前で呼んで欲しいのかしら?よく分からないけど。
「お、おい。ど、どうしたんだ。その…『時雨』さん」
空気を読んだのか、ヒノキくんは下の名前で呼んであげた。すると、ばっと顔をあげて、目を丸くしながら、ヒノキくんを見ていた。わたしは、その様子に、思わず、声を出していた。
「なっ、何?」
「どうしたの?雨月さん?」
「えっと、四之宮くん。今の、もう一回言って」
「どうしたんだ、時雨さん」
雨月さんは、少し顔を赤らめると、恥らうように、また言った。
「もう一回言って」
「どうしたんだ、時雨さん」
と言うより、もうこの状況が「どうしたんだ」である。よく分からないけれど、この関係は、不可解なものの様である。
その夜、父からの電話(盗聴防止、阻害は完全である)を受け、答える。
「お父様、どうかいたしましたか」
「ああ、少し、そちらの状況を聞きたくてな」
つまりは、目的が果たせそうか、と言うことでしょう。今回、戦力を確保できるかどうかは、彼の実力次第です。
「一人、確実に、魔力を抑えてもなお、わたしと同等の人間がいました。その人なら、《劉水》家と《水飛沫》家を倒せるかもしれません」
「?!抑えてもなお、それほどの力がある人間がいるのか…。………、そうか、あいつなら、可能性があるか」
小さな声でぶつぶつと呟いています。独り言、大丈夫でしょうか。
「一つ聞くが、そいつは、紫色の女だったか…?」
「い、いえ。確かにその方にも、お会いしましたが、別の方ですよ」
紫の女性、父も知っている方のようですが、一体何者なのでしょうか。
翌日、朝の登校時に、偶然にも、ヒノキくんを見かけたので、声を掛けてみました。
「ヒノキくん、おはよ」
「ん?ああ、美希か。おはよう」
きちんと答えてくれてよかった。そんな風に思っていると、不意をつくように、疑問を投げかけられた。
「美希、お前って、何のために転校してきたんだ?」
そんなことを聞いてきそうなのは、敵。もしかしたら、敵…。不意に過ぎったが、違う事がすぐに分かった。
「ふぇ?何のためにか…?う~ん、お父さんの都合って昨日言ったじゃない、あれって嘘なの。実はね…」
と、其処で、きる。しかし、その瞬間、背後に、殺気を感じた。もう、嗅ぎ付けられたようだ。相変わらず鼻の良い奴ら。
そして、確認した。それを見ている、ヒノキくんを。間違いない、あれは、奴らを確認している。得体の知れない敵を観察する眼だ。つまり、敵の敵。味方ではない第三者。なんとしても、この戦力を、味方に引き込まなければ…。
だから、平常を装う。
「どったの?ヒノキくん」
「ん?ああ。ちょっとな」