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二章一話 毛、ハゲんで転職活動

二章一話 毛、ハゲんで転職活動


剛田毛は、転職活動にハゲんでいた。


いや、正確には。


ハゲないように必死だった。


「次の職場はどうしようかな」


スマホで求人サイトを眺めながら、毛は真剣な顔をしていた。


前の職場は工場だった。


毎日同じ場所。


同じ機械。


同じ作業。


悪い場所ではなかった。


給料ももらえていた。


生活もできていた。


でも。


「俺は、このままでいいのか」


そう思うようになっていた。


理由はいくつもあった。


上司。


環境。


将来。


そして何より。


「帽子がなぁ……」


毛は自分の髪を触った。


工場では安全のため帽子を被る。


それ自体は必要なことだ。


理解している。


だが。


蒸れる。


とにかく蒸れる。


毛にとって髪とはただの髪ではない。


大切な仲間だった。


「今日も一日ありがとう」


毎晩風呂上がりに全身の毛へ感謝する男。


それが剛田毛だった。


「次は人と関わる仕事もいいな」


毛は求人を見ながら呟いた。


工場では人と話すことは少なかった。


もちろん同僚はいた。


でも。


誰かと深く関わることは少なかった。


美月と出会ってから。


毛の中で少し変化が起きていた。


誰かと話す楽しさ。


誰かと時間を共有する嬉しさ。


それを知ってしまった。


「お客さんと話す仕事とかいいかもしれない」


「俺にもできるかな」


少し不安になる。


でも。


「いや、俺には魔法がある」


毛は拳を握った。


空を飛べる。


水をワインに変えられる。


普通の人間にはできないことができる。


「なら仕事くらい何とかなるだろ」


そう思った。


そして。


「車運転できる仕事とかいいな」


求人を見る。


「免許はある」


「でもペーパードライバー」


毛は遠い目をした。


「ここを教育してくれる会社なら最高だな」


そして。


少し想像する。


仕事で車を運転する。


休日。


綺麗なお姉さんを助手席に乗せる。


海。


夜景。


ドライブデート。


「……」


毛はニヤけた。


「ドライブデートって女性側からしたらどうなんだろ」


「田中さんに聞いてみるか」


毛はスマホを手に取った。


だが。


そこで気付いた。


「いや待て」


「まだ仕事決まってない」


そう。


毛はまだ何も成し遂げていない。


だが。


頭の中ではもう就職後の未来を考えていた。


これが剛田毛という男だった。


そして現実は。


そんなに甘くなかった。


一社。


二社。


三社。


不採用通知。


「……」


毛はスマホを見る。


また不採用。


「まあ、最初はこんなもんだろ」


そう思った。


十社。


二十社。


三十社。


「……」


五十社。


「え?」


毛は履歴書を見つめた。


「俺、そんなに駄目なの?」


理由は様々だった。


経験不足。


条件不一致。


しかし。


一番多かった理由。


「身だしなみについて」


だった。


毛は鏡を見る。


顔。


髪。


髭。


そして体毛。


「俺ってそんなに駄目なのかな」


少しだけ落ち込む。


でも。


「いや」


毛は首を振る。


「俺の毛達は悪くない」


そこは譲れなかった。


ようやく面接まで進んだ会社があった。


毛はスーツを着て向かった。


緊張した。


人生を変えるチャンス。


そう思った。


面接官は優しそうな人だった。


最初は普通だった。


経験。


志望理由。


質問。


順調だった。


しかし。


最後。


「ちなみに」


面接官が言った。


「お客様の前に出る仕事になりますが」


「その体毛については……」


毛は察した。


「あ」


「やっぱりそこですか」


面接官は困った顔をする。


「いや、個性だとは思うんですが」


「お客様からどう見られるかという部分もありまして」


毛は黙った。


そして。


心の中で叫んだ。


(雷落としたい)


(めちゃくちゃ雷落としたい)


だが。


思い出した。


美月の言葉。


力には責任がある。


魔法は便利だからこそ。


使う意味を考えなければいけない。


毛は拳を握った。


「……分かりました」


頭を下げる。


そして会社を出た。


「大人になったな俺」


少しだけ自分を褒めた。


だが。


現実は続く。


六十社。


七十社。


そして。


八十社目。


ようやく二次面接まで進んだ。


「剛田さん」


面接官が言う。


「体毛について確認したいのですが」


毛は深呼吸した。


もう逃げない。


「はい」


「生まれつき体毛が濃いです」


「髭も普通に剃ろうとすると刃が折れて絡まるので」


「完全に剃ることは難しいです」


「ただ、長さを整えることはしています」


面接官は少し驚いた。


「そうなんですね」


「大変ですね」


その言葉に。


毛は少し救われた。


否定ではなく。


理解しようとしてくれた。


一次面接。


合格。


そして。


役員面接。


毛は緊張していた。


ここを通れば。


人生が変わる。


しかし。


役員は開口一番。


「君、すごいね」


「何がですか?」


「いや、その毛」


笑いながら言った。


「珍しいよ」


別の役員も笑う。


「手入れ大変じゃない?」


「奥さんとか嫌がらない?」


毛の表情が変わった。


奥さん。


まだいない。


でも。


何かが引っかかった。


笑われたこと。


馬鹿にされたこと。


そして。


大切なものを軽く扱われたこと。


毛は立ち上がった。


「それ」


「セクハラですよね」


空気が止まる。


役員達を見る。


「どうせ落とされると思うので言わせてもらいます」


「非常に不快です」


「私の身体的特徴について、本人の前で笑うのは違うと思います」


「体毛達が怯えています」


役員が目を丸くする。


毛は頭を下げた。


「失礼します」


帰ろうとした。


その時。


「待って」


声がした。


振り返る。


「君」


「今時、上の人間にそこまで言える人間は少ない」


「ただし」


役員は続ける。


「お客様相手に同じことをしてはいけない」


「そこは理解してくれ」


「その上で」


「ぜひうちで働いてほしい」


毛は固まった。


「え?」


「自分の意見を言える人間は貴重だ」


毛は少し笑った。


そして。


「ちなみに」


「車移動があると聞いていますが」


「私、ペーパードライバーです」


役員の顔が固まった。


「……え?」


「運転も教育していただけますか?」


沈黙。


毛はすぐ察した。


「……」


「セクハラ」


「この会社……セクハラ……毛達…怯えてた…」


小声で呟く。


役員が慌てる。


「いやいや!」


「いいよ!」


「未来への投資だ!」


毛は笑った。


「よろしくお願いします」


握手をする。


その時。


役員が聞いた。


「ちなみに」


「多汗症とかでは?」


毛は笑顔で答えた。


「多分そうです!」


「治療は?」


「大丈夫です」


「この手汗のおかげで火傷防いだことありますから!」


役員は苦笑した。


「君、面白いね」


毛は会社を出た。


空を見上げる。


「やっとだ」


「俺、次に進める」


毛は歩き出した。


体毛達と一緒に。


新しい人生へ。

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