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不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第三章:愛と精霊の鎮魂歌
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第54話:今後に向けて

『乾杯!』


 真っ昼間の帝都の酒場に、陽気な声が響く。

 席を三つほど占拠するほどの大所帯──それこそが今の俺たちを表すに相応しい。

 並んで座るのは、俺とノエル、それからセスカ。

 そして向かいには──


「おめでとう、本当におめでとう……ヴァニ!」


 既に出来上がってる(・・・・・・・)のか、顔を真っ赤にして漢泣(おとこな)きするシリウス。

 そして彼の仲間たちが座っていた。


「なんていうか、その……個性的な人ね」

「ああ、いや……まぁそうだな」


 その様子を見て、セスカが引き()ったような笑みを浮かべる。


「だーっはっは! 何にせよめでてぇ! 大英雄様の帰還じゃあ!」

「いえーい!」


 シリウスの斜め後方、体の大きさのせいかジョッキが小さく見えるほどの巨漢──ガイウスがそう言って笑い、おかっぱ頭の少女──マヤが彼とジョッキをぶつけ合って笑った。


 フレデリックの街、千剣の迷宮(ラビリンス)の一件の後、俺たちは〝英雄〟と呼ばれるようになった。

 正直な話をすれば、やめて欲しいし受け入れていない。

 だって俺はむしろ、迷宮(ラビリンス)という、あの街の財産を崩壊させて奪った大罪人なのだから。

 

 恨まれることはあれど、賞賛されることなどあっていいはずがない。


 しかし感謝の声に理由がないわけじゃないことも知っている。

 特に大きかったのは、千剣の迷宮で散っていった冒険者の遺族の声だ。

 

 生きてるか死んでるかも分からないままずっとその身を案じていた遺族にとって、死の報告を受けるのは確かに悲しかっただろう。

 それでも、知れば弔うことができる。いつかは受け入れることができる。


 だから(しら)せてくれてありがとうというものだった。


「街の復興も、順調に進んでいて安心しました」


 隣に座るノエルが、ジュースの入ったジョッキを傾けながら言う。

 彼らに感謝される理由の中でも二つ目に大きいのはそれだった。


 俺たちはあの後、街の復興を積極的に手伝った。

 せめてもの罪滅ぼし……という気持ちでやっていたんだが、あの街の人々にとっては迷宮(ラビリンス)大氾濫(フラッド)を解決した上に、街を元に戻す手伝いまでしてくれる聖人、という認識になったらしい。


 とにかく……そういう理由で、俺たちは今では〝英雄〟だ。

 

「やっとお前が認められたのもそうだけどさ、俺は、俺は……お前に信頼できる仲間が増えたことが何よりも嬉しいんだよ……!」

「ごめんなさいね、彼ったら一週間前からずっとこんな調子なの」

 

 おいおいと泣くシリウスの肩を(さす)りながら、金髪の美女──クリスティナが言う。


「……ああ、疲れた。耳にタコができそうですよ」

 

 シリウスたちから少し離れた席では、フードを目深に被った少年──ロイがため息を吐きながら嘆いていた。


 彼らのパーティ、『白翼の鷹』のメンバーはこれで全員だ。

 

 今日は俺たちが帝都に帰ってきた帰還祝いとセスカの加入祝い、それから、(かね)てよりシリウスがしたがっていた互いのメンバーの顔合わせで、こうして集まっている。


「愛されてますね、ヴァニさん」

「……だな」

 

 ノエルの言葉に俺は肩を竦めて苦笑した。

  

「ところで、ヴァニ」

「ん?」

「アタシたちのパーティ、名前はどうするの?」

 

 セスカが頬杖を突きながら俺に問いかける。

 

 なるほど……パーティ名か、全く考えてなかったな。

 別にパーティを組む=パーティ名が必須になるわけじゃないから、その必要性を感じてなかったというのが一番大きいが。


「うーむ……パーティ名、パーティ名なぁ……」


 俺は眉間を指で押さえながら目を(つむ)る。 

 いざ考えようとしても、全く出てこない。


「おう、ヴァニ! 悩んでるなら俺様が名付けてやろうか? 『超覇者街道』なんてどうだ!」

「……ダサいんですよ、あなたの命名センスは」

「んだとぉぉぉッ!? ロイ坊! なんてこと言いやがる!?」

「………………はぁ、暑苦しいなぁ」


 うん、こいつら手助けしてくれる気ゼロだな。

 漫才を始めたガイアスとロイは放っておいて、俺は再び頭を悩ませる。


 俺たちに相応しくて、尚且(なおか)つダサくない名前。

 何かあるか……?


「まぁ、今すぐに決めなくてもいいんじゃないか?」


 そこで助け舟を出してくれたのは、シリウス。

 奴のイケメンスマイルが、今日は三割増しで輝いて見える。


「そうか……そうだよな! また今度でいいよな!」

「そうやってズルズル先延ばしにするからいつまでも決まんないのよ」

「もうちょっとオブラートに包んでくんない?」

「おぶら……何それ?」


 セスカは怪訝そうな顔で首を傾げる。

 そうか、オブラートはこの世界に無いもんな。そりゃ通じないわ。

 

 俺は咳ばらいをして、椅子に座り直す。


「まぁアレだ。こういうのは一生モンの大切な名前だからな。しっかり考えて決めないとだろ?」

「はいはい、口だけは達者なんだから」

「あはは……」


 二人は呆れたように笑った。


「随分と手厳しいな、お前ん所のお嬢さんがたは」

「分かってくれるか友よ……やっぱ持つべきは親友だよな」

「ああ!」


 そう言って、俺とシリウスはガシっと握手を交わすんだが……今度はノエルとセスカだけでなく、『白翼の鷹』の面々までもが天を仰ぎ始めた。

 だが知らん、俺のことを理解(わか)ってくれるのはシリウスだけでいい。

 そして俺もシリウスのことをよく理解しているつもりである。


 マブダチの絆を舐めるなよ!


 と……ふざけてみたが、一応真面目に検討するつもりではある。

 名付けに関してはよく考えてしないと後悔するのも事実だからな。


「ところで、ヴァニたちはこれからどうするんだ?」

「というと?」

「ほら、三人パーティになったわけだし……色々と出来ることの幅も広がっただろ?」

「ああ、それか……」


 実を言うと、あと一人仲間が欲しいと考えている。

 こんなことを昔の俺に聞かせたら「正気か」と言われるんだろうが、俺も色々変わったんだ。

 

 欲しいのは斥候(スカウト)

 それも遠距離攻撃だけでなく、近距離戦もこなせる奴だと尚良い。


 今の俺たちのパーティ構成は、俺とセスカが近距離アタッカー。

 そしてノエルが後衛の魔法士。

 バランスとしては今のままでも悪くないが、どうしても俺たちが前衛で戦闘に集中している間、ノエルを守る人員が足りていない。


 だから、遊撃のような役割をこなせる人物が欲しいんだ。


 ──そんな話をシリウスにすると、彼は「ふむ」と顎に手をやった。


「ひとつだけ心当たりがある」

「ほう」

「ここからずっと東──ルナンザっていう小さな町の近くに、かなり腕利きの弓使いがいたって聞いたことがあってな。昔のことだから、今もそこにいるかは分からないが」

「いや、ありがたい情報だ。早速近いうちに向かってみるよ。ノエルたちも構わないか?」


 そう問いかけてみれば、彼女たちは頷いた。


「いずれにしろ、ノエルを守ってあげられる人は増えた方がいいものね」

「仲間が増えるのは、凄く冒険者らしくてわくわくしますし!」

「じゃ決まりだな」


 こうして、数日後にルナンザ行きが決定した。


 帝都に戻ってきてすぐ、また遠出にはなるが……今後の【終末の使者(ヴォリオノ・ラフィネ)】との遭遇も考えれば早い方がいい。


「ところで」

「あなたたち」

「「!?」」

 

 そんなことを考えていると、ノエルの隣にマヤが、セスカの隣にクリスティナが座った。しかしその距離が妙に近い。

 見ろよ、二人ともぎょっとしてるじゃないか。


「この前の討伐作戦で見かけてた時から思ってたけど、すっごい可愛いね! えへへ、年の近い女の子ってあんまりいないから気になってたんだ。お願い! お友達になって!」

「え、あ、は、はい! 私のほうこそ是非!」

「あなた、凄く綺麗な顔をしてるわね……うふふ、どう? 今度二人きりで食事でも行かない?」

「はぁ? いや、まぁそれは構わないけど……何かちょっと近くない?」


 片や健全、片や危ない匂いを漂わせている。

 シリウスが怪訝そうな顔を浮かべるが、俺は無言で奴の隣に座り直した。


「おい、アレ大丈夫なのか?」

「大丈夫だ。シリウス、これは俺からの忠告なんだがな」

「お、おう」

「女同士の友情の間に男が挟まっちゃ駄目だ。死刑になるぞ」

「なるわけないだろ!?」


 百合、大いに結構。

 鏡花のかつての教えを守り、そして邪魔させないために。

 

 俺はシリウスの肩を組んで一緒に酒を飲み明かした。


 ガイアス? 酔った勢いでロイと場外乱闘になって(しばら)く帰ってこなかったぞ。

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