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不死刑—世界を救えば死ねるらしい—  作者: 茄子田わさび
第二章:万魔のラビリンス
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第48話:謎の男

 俺たちは寺院の前に辿り着く。そして高い階段の先を見据えた。

 この先に、きっと全ての元凶がいる。

 そいつは果たしてボスか、あるいは人間か──


 まぁ、十中八九後者だろうな。


「お前ら、覚悟はいいか?」

「当然」

「行きましょう」


 その言葉に頷き、階段を登る。

 所々に建てられた柱には鈴が巻き付けられており、それが風に揺れて鳴っている。

 かなり宗教的な雰囲気を感じる場所だ。

 迷宮らしくない、と言えばいいだろうか。どうにも違和感がある。


 長い階段を登り切り、いよいよ寺院へ。

 中に足を踏み入れると、そこには一人の男が座禅を組んで座っていた。

 

「よくぞ参られた」


 男はこちらに背を向けたまま言う。

 (おごそ)かな雰囲気の声だ。年代から察するに……四十代中盤辺りだろうか。

 頭はスキンヘッド、背はぴしっと伸びており、隙が感じられない。

 紅を基調とした服に、黄色い肩掛けを巻いている。

 所謂(いわゆる)、僧侶服というやつだ。


「アンタがこの迷宮に異変を引き起こしてる元凶?」


 セスカがその背中に鋭く質問を投げかける。


「ふむ、実に即物的な質問だ。しかし敢えて答えるのなら──そうなるな」


 男は静かに立ち上がり、こちらに振り返る。

 まるで猛禽類を思わせる眼に、鷲鼻(わしばな)が印象的な男だった。


「申し遅れた、私の名はサビン・ドゥワディと申す。【終末の使者(ヴォリオノ・ラフィネ)】第十一の座、《破戒僧》の名を冠する者也」


 男──サビンは片方の掌に拳を突き合わせ、深く腰を曲げて礼をする。

 妙に礼儀正しい男だ。それが不気味で仕方がない。

 だが、気になることがいくつもある。


「その【終末の使者(ヴォリオノ・ラフィネ)】ってのは何だ?」

「ここで貴殿らが知る必要はない。いずれ嫌でも知ることになる故」

「この……っ! 気取ってないで答えなさい!」


 苛立った様子でセスカが剣を突き出した。

 しかしサビンは動じる様子を見せず、静かにその様子を観察している。


「どうして、こんなことをしたんですか?」


 ノエルの質問に、サビンは僅かに首を傾げる。


「何故? あらゆる物事に理由は無い。ただ静かに、因果と天命のままに決まり流れてゆくものだ」

「つまりお前は、ただそうしたかったからそうしたってことか」

「それも違う。全ては神がお決めになられたことだ」

「あの女神がそんなことを定めるわけがねぇだろうが」


 直後、サビンの(まと)う雰囲気が変わった。


「女神……? 貴殿は今、あの偽りの女神(・・・・・)のことを口に出したのだろうか?」

「何言って──」

「神はかの女狐に非ず! 天理を司るは虚無ただ一つのみ也ッ!!」


 一喝。サビンは目を見開いて怒りを露にする。

 しかし、すぐに穏やかな顔に戻った。


「……怒りは何も生み出さず、全ては無においてのみ在り。失礼致した」

「……こいつ、イカれてるわ」


 セスカが小声で囁く。俺も同感だ。

 話が通じるようで、まるで通じない。


「まぁいい、とりあえずテメェはぶっ倒す。そしてその後で話を聞く。覚悟は出来てんだろ?」

「争い、これもまたやむを得ず、対話とは言葉のみになし。──よかろう」

「その気取った態度、すぐに崩してあげるわッ!」

「……私は、あなたを許すことができません。絶対に止めて見せます!」


 俺たちが武器を構えるのを見て、サビンは拳を静かに握った。

 成程、武器はないと見た。格闘戦がメインか。


 油断はしない。

 こいつが全ての事件の大元だとするなら、かなりの実力者のはずだ。 

 それにさっき言ってた【終末の使者(ヴォリオノ・ラフィネ)】……そいつがどうにも引っ掛かる。


「参られよ」

「言われなくてもッ!」

 

 挑発と同時、セスカが地を蹴ってサビンに接近する。

 そして目にも止まらぬ速度で剣を振るうが、サビンは全てを(かわ)した。

 大きな動きじゃない。必要最低限の動き、紙一重でだ。


「浅いな」

「!? が、は……っ!」


 掌底。

 もろに鳩尾(みぞおち)に喰らったセスカは、体をくの字に折り曲げて吹き飛ぶ。

 そして俺たちの後方にある寺院の壁に激突した。


「セスカさん!?」

「平、気よ……クソッ、ふざけないでよね……!」


 ノエルが慌てて駆け寄り、治癒を施す。

 しかしセスカは口の端から血を流しつつも、自力で起き上がった。


「蛮勇それ自体は悪くない。されど実力に盲目となりて(おご)り怠るはこれまた愚か也」

「さっきから聞いたことねぇ教えばっかり口にしてるな。どこの宗教だ?」

「我が悟りの一端につき」

「なるほど、教祖様でもやった方が向いてるぜ」

「畏れ多い」


 軽口を叩き、俺はサビンの目の前に出現する。

 奴は一瞬驚いたように眉を(ひそ)めたが、次の瞬間には拳を繰り出してくる。

 顔を右に逸らし、これを回避。

 お返しにその肩口目掛けて剣を振るえば、サビンもまた上体を半身ずらして避けた。


「ほう、良い太刀筋だ」

「そりゃどう……もっ!」


 俺は得た異常な俊敏性を活かして斬撃の嵐を浴びせる。

 袈裟斬り、突き、切り上げ……時折フェイントも混ぜながら息をつかせる暇もなく攻撃を繰り返すが、サビンはまるで全てを見切っているかのように全てを避け、そして俺の音速の動きについてきていた。


 だが、奴の背後には音を殺して忍び寄るセスカの姿が。


「…………ッ!」


 その無防備な背中目掛けて繰り出されたセスカの剣は、しかし当然かのようにサビンの指で止められる。


「セスカ!」


 援護のために蹴りを放つが、こちらもまた腕によって受け止められた。


 そして──


「ぬぅぅぅぅぅぅぅんッ!」

「きゃあああっ!?」

「チッ……!」

 

 俺たちはそれぞれの方向に投げ飛ばされた。

 何とか受け身を取って互いの無事を確認した後、サビンの動向を観察する。

 

 サビンは何をするでもなく、ただじっとその場に立っていた。

 奴は、最初から一歩もそこを動いていない。


「実に見事也。互いの絆を育み、信じ合う姿のなんと尊きことか」

「ふざけないでちょうだい……!」

「……このバケモノが」

 

 俺たちは少なからず消耗している。

 対するサビンは未だ余裕。

 ここまで力の差があるとは泣ける話だ。


 だが、まだやれる。

 奴がこれから何をしてこようと、そしてどれだけかかろうとも。

 俺の心が折れない限り、いずれは俺たちの勝ちだ。


「うおおおおおおおッ!」


 再びサビンに斬りかかる。

 右、左、ゆらゆらと体を揺らしながら、サビンはただ避けに徹する。


 落ち着け、よく観察しろ、こいつの動きの癖を。

 どこかに綻びがあるはずだ、そしてそこを突けば殺せる。


「≪縛侵水(アクエスタ)≫!」

「ぬぅ……ッ!?」


 丁度いいところに、ノエルの援護が入る。

 サビンは水の鎖に縛られ、身動きが取れなくなった。

 しかしそれも一瞬のことで、すぐに拘束は解かれてしまう。


 だがそれで充分だ。


「そこだッ!」

「笑止!」


 俺の剣と奴の腕が交差する。

 

「な……ッ!」


 切り落とす覚悟で振り下ろした。

 しかし、巨人の鋼鉄の鎧すら紙のように斬り裂くはずの今の俺の剣が、傷一つ付けられず奴の剥き出しの腕に阻まれている。どういうことだ?


「慢心と自信は表裏一体、(すなわ)ち怠惰。若人よ、思考を放棄すること(なか)れ。──破ッ!!」

「ぐ、う……ッ!?」


 奴の拳が俺の腹にめり込む。

 見えなかった。

 そしてそのまま吹き飛ばされ、派手に壁に激突して突き刺さる。


 なんとか抜け出して立ち上がるも、視界がチカチカと明滅する、足がふらふらと笑って(しっか)りと立つことができない。


 奴の一撃は、こんなにも重いのか。

 こりゃあ……ちと本気でヤバいかもしれないな。

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