第2話 効率重視の令嬢
熱が下がった翌日、朝食を摂るため初めて自室から出た。
公爵令嬢である私の部屋は当然のごとくバス・トイレ完備だったので、熱を出している間は部屋から出る必要がなかったのだ。
天井の高い廊下に飾られてる高価であろう絵を眺めつつダイニングに到着した。
白を基調とした広々としたダイニングではお父様とお母様が私の到着を待っていてくれた。
「お父様、お母様おはようございます。ご心配をおかけしました。私を待っていてくださったのですね。嬉しいです」
「レティ!!まだ具合が悪いのかい?」
「レティ。いつもと様子が違うわね。マリー!レティの熱は下がっていないのかしら?」
お父様もお母様もびっくりした顔して何を言っているのだろう。
あ!スカーレットはこんな風には言わないか。
えーっと、
「お父様もお母様も私のことなんてお待ちにならなくってよくってよ。時間の無駄です。料理が冷めてしまうではありませんか。冷めた料理では本来の味を堪能出来ません。温め直していては待つのが面倒です」
フンッと言い切った。
「あ、熱は下がっているようだね」
お父様……これでいいのですか。
スカーレットは「効率重視の面倒なことはしたくない令嬢」なのだ。
今までの侍女のクビも
侍女1人目→全体的に手際が悪い→時間を要する
侍女2人目→技術が拙い→出来も悪いし、時間も要する
侍女3人目→センスがない→修正するのが面倒、時間も要する
侍女4人目→知識が少ない→理解出来る説明するのに時間を要する
こんな感じで侍女5人目のマリーまでたどり着いた。
マリーは子爵令嬢なので知識・センスは問題なく、卒業した学園でも侍女コースを選択していたので手際もよい。
スカーレットの思っていることを先回りして用意するなど気が利くので彼女も気に入っていたようだ。
「レティ。あと4か月で学園が始まるがやっぱり家から通わないかい?公爵令嬢ならば寮に入らずともいいのだよ。昔は王族だって王城から通っていたんだ。今回のこともあったし僕たちは心配だよ」
「そうよ。レティがいないとわたしたち寂しいのよ。ロータスだってお仕事で隣国に行っているし」
お父様もお母様もお優しいけど、そうもいかないじゃない。でも、お兄様もお仕事で家を空けているし、寂しい気持ちもわかるわ。
「お父様、お母様。昨年入学された第一王子も入寮されていますし、今年入学される第二王子・第三王子も入寮することを明言されています。公爵令嬢でしかない私が寮に入らず通うことは王室のご意向に逆らうと同義。よろしくないことですわ」
「でも。レティは女の子だし。同じと言う訳でも……」
「王城に近い我が家でも学園までの馬車での通学は時間がかかり時間の無駄です。私はその時間で休息や勉学に励みたいのです」
王都にある我が公爵家は、学園は王城を挟んでちょうど反対側に位置する。正直、前の世界での記憶を取り戻した今乗り物酔いが心配。
私がはっきり言うと両親は渋々諦めてくれた。
「レティ。離れ離れになる前に一緒にお買い物に行きましょう。制服の採寸にマリーと一緒に行くと言っていたわよね。ついでにお洋服も仕立てましょう。1回で済むから効率的よ〜。かわいい娘としばらくお買い物が出来なくなるなんて耐えられないわ。お母様のお願い聞いてくれるわよねぇ?」
お母様の泣き落としもあり、一緒に出かけることになった。
―――――――――――
前の世界ではお母さんが早くに亡くなったから母娘でショッピングなんてしたことがない。お父さんは忙しくて家にいることが少なかったけど、お金には困らないように生活をさせてくれた。そんな父も私が就職して親孝行しようとした矢先に事故で呆気なく逝ってしまった。
悲しみに浸る間もなく仕事も忙しくなり、ストレスフルな毎日だった。自分しか食べない料理を作る気にもなれず毎日出来合いばかり食べていた。
もともとぽっちゃり体型だった私は……だいぶ大きくなったのだ。
命日を前にお父さんが似合うと言ってくれたワンピースを久々に着ようとしたら、生地がミシミシいってボタンが留まらなかった。
たしか、ワンピースを着るためにダイエッターになったんだよね。