ギフトレス ~子から親へ~
めでたしめでたし。ボクがそう結ぶと、娘はありったけの不満をぶつけてくる。それが自分の時そのままで、ボクはちょっと笑ってしまった。
きっとこの子も、正解にたどり着くまでには、ボクと同じくらいの時間がかかるのだろう。そう考えて、あの日の母さんの表情の意味を理解したボクは、娘を寝かしつけた後で、母さんに贈る絵本作りを再開した。
それは、あのお話の、空白部分を埋める物語――
生まれた赤ん坊は光り輝くようでした。
生まれたばかりだというのに、自分たちとはまるで違うということがわかります。それはそれは美しく、この世のものとは思えないその子は、本当にこの世のものではありませんでした。
生まれた子は、けれど生まれられていませんでした。
息をしていなかったのです。
驚き慌てる欲深い夫婦を、さらに驚かせることが起こります。
どこからともなく舞い降りた天使が、産声を上げることの無かった赤子を抱き上げたのです。天使は欲深い夫婦に言いました。
この子は本当に素晴らしい。あまりに素晴らしく、ひとの世には似つかわしくないので、生まれながらにして神の国に招かれることとなった、と。そう、心からの称賛と、祝福を与えます。
これに欲深い夫婦はおどろき、あわてて、天使にすがります。
待ってください、まだその子を連れて行かないでください、そう、必死に願い出ます。
これが天使には不思議でしょうがありません。
生まれて、生きて、成し遂げたことで神の国に招かれるということは珍しいなりにありましたが、生まれながらにして、その存在の素晴らしさを理由にというのは、天使ですら聞いたことがないくらいでした。
そんな、天使にとってはこの上なく名誉なことを、この夫婦は嫌がっているようなのです。
なので天使は説得します。それがどれくらい素晴らしいことなのか、夫婦に語って聞かせます。
これに欲深い、欲深かった夫婦は答えます。
天使様のような美しさは要りません。ちからも、足の速さもひとなみで充分です。不器用でも、空なんて飛べなくても、そもそも泳げなくたって構いません。
だからどうか、どうかわたしたちの子を、まだ連れていかないでください。
天使は不思議そうに答えます。
それではおくりものをすべて手放すのと同じだ、と。
夫婦はこれに、いいえ、と答えました。
「いいえ、天使様。一番のおくりものは残ります」
描き終えて、ボクはペンを置いた。
眠る娘のところへ、おやすみを告げに向かう。
実を言うと、『正解』それ自体になら、ずっと前から気づいていた。こざかしい子どもだったボクは、物語を斜めに読み解いて、どうせそういうことなんでしょ、と全部わかった気になっていた。
だから。母さんが言っていた、大人になる頃にはわかる、という言葉の意味を正しく理解するのには、随分時間がかかってしまった。
娘の寝顔に、自然と笑みがこぼれるのがわかった。
「愛しい君よ、生まれてきてくれてありがとう」
なるほど、この気持ちは大人に――親にならないとわからない。
かような物を語りましたが、私に子どもは居ませんし独身です。なのでこの物語はフィクションです。現実世界とは一切関係の無い、ただの絵空事です。
想像で、空想で、妄想でしかない、けれど作家未満のちっぽけな私の、ささやかな祈りです。
願わくは、やさしい世界でありますように。




