第二十話:情けは人のためならず
第二十話
ユウカからの連絡を開け、していの時間にはまだ早かったが目的地へとたどり着く。
屋上へ通じる扉を開けようとすると開かなかった。
「おーい、ユウカ」
「あ、来たんだ」
扉から顔だけ突き出して微笑んでいる。実にシュールな光景だった。
由乃が見たら間違いなく失神ものだろう。しかし、俺は既に慣れているのでそうでもない。
「何で開かないんだ? ここ、鍵もかかってないだろう?」
立派な錠前があるわけもなく、サムターンも見つからない。
「何か強い力で抑えられている……だったかな」
「は?」
「うろ覚えでごめんね……」
よくわからなかったので話を促す事にしよう。
屋上へと出て首をかしげる。
「それでターゲットは?」
「捕まえたよ。ちょっとダメージ喰らったけど、耳元で聞かないよって言ったら震えあがってた」
「どこかで聞いた事のある話だな」
「よくあることだよ」
傷つきながらもやり遂げたと言う表情を俺に見せ、ユウカはどこか誇らしげだった。
「よくやったなぁ」
「もっと褒めて」
「あんたは偉いっ」
「もっと」
「OK, good job!」
「冬治君は満足した?」
「それは俺のセリフだ」
一通りのやり取りを終えたところで由乃に連絡を入れる。
すぐに来るとのことで、俺とユウカは先に捕まえた相手を確認することにしたのだった。
「見た目が超やばいから気をつけて」
「あ、ああ……」
幽霊から見た目で注意を受けるとかどんな見た目してるんだよ。
頭の中にはグロイ感じの目が爛々と光り輝く背中から手が生えた化け物を想像していたりする。
「ん゛あぁーっ」
「どうかしたの?」
「いや、踏みつける練習を……」
「女の子を踏みつけちゃ、駄目だよ」
そうだった、ここは女学園だ。
ばれないように屋上の物陰に転がしたと言うユウカの案内でその場所へ。
「んーっ」
「富木さん……成るほど、確かにこれは見た目が超危険だ」
「でしょう?」
前の肌蹴た巫女服で、胸の部分がお札で隠され、ローブが至る所に絡みついて非常に目に毒な感じになっていた。
目にはお札がつけられ、口にもガムテープが張りついて喋れなくなっているようだ。
「なるほど、これならユウカが見えるって言うのも頷けるな」
「もうちょっと眺める? なんなら触れるよ」
実に魅力的な提案ではあるが、触ると言う選択肢は無理だ。お触り禁止である。
「いや、やめとく。富木さんは男性恐怖症らしいから今後が怖い」
「この学園追い出されるだろうね」
そうだろうよ。こんなところを女子生徒の誰かに見られれば俺の趣味だと勘違いされて理事長に報告され、終わりだ。
「最初から巫女さんを捕まえたって言ってくれればよかったじゃないか」
「驚かそうと思って。冬治君が喜ぶかなーと」
「こういうアブノーマルなのは喜ばないよ」
「そっか、普通で安心した」
ユウカが富木さんを解放している間に由乃に事情を説明すると呆れかえっていたようだ。
『候補の一つを潰せたのならよしとするわ』
「それもそうだな」
報告を終え、俺は富木さんの所へ向かう。
「ひっ……」
富木さんの反応には慣れっこなので(悲鳴をあげたらそれ以上近づかない)いつものように笑顔で対応する。
「ユウカは別に、悪い幽霊じゃないよ。俺に協力してくれているんだ」
「協力?」
「そう、協力。わけあって、この学園に人以外の何かがいないか調べてるんだ。たとえば……」
狼男とか、吸血鬼とかそんなのと言ったらどんな顔をするのだろう。おそらく変な奴と思われる可能性の方が高い。
「冬治君冬治君、何だか怪しまれているよ?」
「他におもいつかねぇしなぁ……って、あれ?」
神主さんが持ってそうなひらひらした棒を手にしていた。
「ゆ、夢川君っ。その幽霊に憑かれてるんだよっ。祓ってあげるっ」
「うっ……次もらったら危ないかも」
男が嫌いな富木さんがここまでしてくれるなんてこの人、意外といい人なのでは? そう思ったけれど、ユウカを危険にさらすのはまずい。
「……富木さん、違うんだ。ユウカは悪い幽霊では……」
「幽霊はそうやって騙すんだよ」
はっきりとした口調で言われたので俺はユウカを見る。
そこにはどこだか不安げな調子のユウカがいた。
「ユウカ、逃げるぞ」
「え?」
「ほら、早くっ」
幽霊に触れられるのが不思議でならないが、俺はユウカの手を引いて屋上から逃げ出すのであった。
「待ってっ」
富木さんの言葉を耳にしても、振り返る事はない。
「ここまでくれば大丈夫だろ」
ユウカと最初に出会った河川敷まで走って、あの時と同じようにジュースを買う。
「ユウカは?」
「オレンジジュースで」
「あいよ」
飲むわけでもなく、ユウカは俺からもらった缶を自分の近くに置いたのだった。
「さっきはありがとう」
「ん? 何の事だ」
「わたしを選んでくれて」
俺をまっすぐ見ることはなく、彼女は夜空に染まりつつある夕焼けを眺めていた。俺もそれに倣う。
「他に誰を選ぶんだ」
「あの巫女」
俺が富木さんを選ぶなんてありえないな。というか、拒絶されるのがオチだろう。
「さて、そろそろ朱音さんから連絡が来るだろうから家に帰ろうぜ? お互い、居候だけどな」
「うん」
長髪を宙にふわふわと漂わせ、俺の後をついてくる。
幽霊のくせに、触れる事が出来るユウカを俺は出会った頃より身近に感じるのであった。




