表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/15

二人の決意

 四人は、ビガラスの屋敷にやって来た。中に入ると、リビングで先に来ていた智と、ベルが居て暖かく迎え入れてくれる。

「智さん、ベルさん、こんにちは!」

「みんな、来たのか」

「こんにちは」

ベルは四人を見てソファーから立ち上がり、キッチンの方に向かい、紅茶とスコーンを持ってきた。

「皆さん、お茶を飲んでゆっくり話しましょうか」

「悪魔が来てるのに、何呑気そうにしてるんだよ」

ビガラスは肘を机に置き、ベルを睨みつけた。

「ビガラス、焦っても何も変わらないわよ」

「そうだけど…」

苛立っているビガラスに対してリトはかなり呑気そうで、何も言わずにティーセットとスコーンを取って、美味しそうに食べていた。

「しかし…、この紅茶とスコーン美味しいですね!手作りですか?」

「そうなの、家に居る時よく作ってて…」

真由と有沙と智も、スコーンに手を伸ばし、食べ始めた。皿に盛られたスコーンには色々な種類があり、ナッツが混ぜられているものや、レーズンやドライクランベリーが入っているもの、更には抹茶味や黒豆が混ざっているものもあった。どれも美味しく、紅茶によく合った。

「ホントだ、美味しい!」

「イギリスでは、優雅にアフタヌーンティーとかするんですか?」

「そう、仕事の合間にするのよ」

「そういえば…、ベルさんのお仕事って?」

「通訳をしてるのよ、今はパソコンを使って家でしてるけど…」

ベルはクスクスと笑いながら、バラの模様が書かれたカップを手に取った。

「リトさんは昔村を治めていた死神の子孫なんですよね?」

「そうなんですよ、最もボクはその当時の事を知りませんがね」

「ご先祖様が迷惑をかけましたね」

ベルがそう言ってお辞儀をすると、リトは首を振った。

「そんな事ないですよ、あの地は冥府にとっても重要な場所ですし…」

「悪魔を追ったから、あの地から消えましたか?」

「そうですが…、でも、あの村の事はずっと見張ってましたよ?」

「そうなのですね…」

ベルはなるほどと頷き、リトに向かってもう一度お辞儀をした。


 ベルとリトの話が終わった後、真由はベルにずっと気になっていた事を聞く事にした。

「そういえば…、ビガラス君はお母さんに、陰陽師と死神には気をつけろって言われたんだよね?」

「うん、そういう人が居るって話はしたけど…、何も憎めとは言ってないわ…。多分、ビガラスの中にあった悪魔の本能が、陰陽師や死神を嫌がっていたのかも…」

悪魔が抜けてからビガラスは真由の事を変に嫌ってない。乱暴な態度を取ることも、冷たい顔をすることも無くなった。だが、力が今までに比べてない事に、ビガラスは落ち込んでいた。それなのか、ビガラスは目の前にあるスコーンや紅茶に手を出そうとしない。

「ビガラス君はスコーン食べないの?」 

「いらない」

「ビガラスが好きなベルギーチョコレートのスコーンもあるけど?」

すると、ビガラスは急に態度を変え、興奮気味の声でベルにこう言った。

「いる!てか、なんで最初から出さないんだ?!」

「そう、いるのね、分かったわ」

ベルは立ち上がり、ビガラス用にチョコレートのスコーンを盛った皿を持ってきた。ビガラスはすぐさまそれを手に取り、両手に持って必死そうにせっせと口の中に運んでいた。

「お腹空いていたのね」

「ビガラス君チョコ好きなんだね…、意外」

有沙は紅茶のカップを手に取った。

「元気そうで良かったわ、魂の欠片だけになった時は心配したけど…」

「ベルさん、その件なんですが…」

智がスコーンから手を止め、姿勢を正してこう言った。


 智は、五人の視線を集めてこう言った。

「実は…、ビガラスの魂は元々完全なものじゃないんです…。蔦の悪魔の魂の一部が身体に植え付けられていて、それが少しずつ大きくなっていきました。そして、肥大化した魂を悪魔は吸収し、真由の力によって残された僅かな欠片だけが、ビガラスに残っています。悪魔の力はもうありませんが、ビガラス自体の力は残っています。ですが、欠片だけの状態なら、魔力を使い果たした瞬間、命を落としてしまう危険性が…」 

ビガラスは自分の胸を押さえた。

「悪魔の魂を俺に移せば、完全な魂になれるんですか?」

「まぁ…、それが出来るならな」

「でも、悪魔の力が戻ってしまうかもしれないよ」 

リトはビガラスに悪魔の力が戻る事を危惧していた。リトの家族は長年悪魔に悩まされいる。もし、ビガラスによって悪魔の力が増してしまえば、自分達で抑えられなくなってしまう。

「自分や他人を傷つけてしまう力なんて、いらない」

悪魔の力が無くなって落ち込んでいるはずのビガラスが、悪魔の力はいらないと言う事に真由と有沙は驚いた。

「俺は、自分の力がどんなものか、何に使えるか見たいんだ。

もしも、俺に力があるのなら…その力というものを一度信じてみたい」

「ビガラス君…」

「真由とビガラスが協力して、悪魔の力を抑える事が出来るなら、いけるかもしれない」

「でも、それで死んでしまうかもしれないんでしょ?本当にいいの?」

「正直、自分が生きたいか、生きたくないか分からない。だからこそ、やりたいんだ」

「ビガラスがそう言うのなら…、俺達も協力しよう。な、リト?リトも協力するだろ?」

「智さんの頼みでしたら…、是非とも協力しますよ!」

リトはすぐさま乗り気になった。

「智さんって…、凄いの?」

「まぁ…、冥界でも一目置かれる存在みたい」

真由は智の事を遠目で見た。

「私、頑張るよ!」

「真由、協力してくれるのか?」

「ビガラス君が向き合ってる事に、私も向き合いたいよ!」

ビガラスはビガラスの手を掴んだ。

「そうか…、ありがとう」

ビガラスが真由にお礼を言う事は初めてだった。

 四人は、屋敷から出ていき、帰って行った。

「それじゃあ、俺達は一度冥界に戻るからな」

「ありがとうございました!」

真由は二人に対って手を振り、有沙と一緒に歩いた。

「でも、真由ちゃん本当に大丈夫なの?」

「うん?」

「本当に悪魔に敵うと思ってるの?」

「仲間が居る事に越した事は無いよ」

真由は平然とそう言った。

「戦うんじゃなくて、向き合うんだよって、太一さんは言ってたよ」

「凄いね…、自分の事じゃなくて、他人の事に向き合おうって思うのは…」

「有沙ちゃんだって、充分私の事に向き合ってるじゃないの」

「えっ?」

真由は、有沙の先を歩いていた。

「それとおんなじだと思うよ」

真由は有沙の方を振り向いてそう言った。


「とは言ったものの…、本当に大丈夫かな」

 家に帰ってソファーに座ると、真由はため息を吐いた。真由は珍しく考え過ぎて頭が疲れている。普段、真由は何も考えず無鉄砲に行動している。父親である晃譲りで頭が良いが、人に理解されない考えや行動に走る事がある。そんな真由を有沙は心配し、ずっと支えてきた。また、ビガラスは真由の力を信じて、自分を信じようとしている。真由は、二人が自分に期待していると思い、それを重荷に感じていた。

「あぁ…本当にやれるのかな…、自分で言った事に自信無くしてきた…」

「真由、どうしたの?」

母親である陽和は、そんな真由を見かねて、ソファーの隣に座ってきた。

「私、期待や心配されてるけど、それが重荷なんだ…」

「真由は真由が出来る事をすれば良いだけよ」

陽和は冷たい麦茶を真由に差し出した。

「私だって、朝日に敵わないって思う事は多々あるわ。何で自分自身はそこまで強く無いんだろうって思った時もあった。だけど、それに決して焦らずに、自分が何が出来るか考えて、行動していったわ」

「私、本当にビガラス君の力になれるのかな…」

「真由なら出来るんじゃないか?」

二人の間にひょっこり現れたのは、晃だった。

「お父さん?!今日は早いね」

晃は普段会社員だが、ごく稀に町のイベントに参加して、ごく稀に町のイベントに参加して、一芸を披露している。頭は良いらしいがやる事成す事が、一部の人間にしか理解出来ない。真由は、晃の事を面白い人間で、陽和とは別の部分で憧れていた。晃が幼馴染の陽和や朝日、雪花を振り回すのは相変わらずだが、昔のようにすぐに忘れる事は無くなった。

「朝日君は昔、自分の力を信じてみようって言ってたな」

「そういえば…、ビガラス君もそんな事を言ってたような…」

晃はラッパとバトンを混ぜたような手作りの楽器、ラッバトンを取り出した。 

「何でそれを造ろうと思ったの?」

「造りたいから造っただけだよ」

晃がそれを吹こうとした時、ラッパの部分の先から花が咲いた。それは、『風の花』で仄かな光を放っている。

「真由!」

真由も意識してそれをした訳では無かったので、驚いていた。

「えっ、どうして…」

「凄いじゃないか、真由!そのいきだよ!」

「お父さん…」

晃の、子供のような無邪気な笑顔に、真由は救われたような気がした。

「私も、自分の力を信じてみようかな…」

真由は、晃に向かって笑い返し、ラッバトンの先を花束のように花で一杯にした。

「凄い、力が強くなってる…」

「真由!次はこっちだ!」

「合点承知!」

 真由のテンションは、普段の調子に戻り、晃に似た無邪気な笑顔で晃にどんどん花を咲かせていく。そして、真由は陽和と晃の腕を掴んでこう言った。

「お父さんもお母さんも、私は好きだよ!」

陽和は晃に向かって困った顔をした。

「別に好きで結婚した訳じゃないのに…」

「まぁまぁ、良いじゃないの」

晃の方はというと、相変わらず二人に向かって笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ