悩める子供達
翌日、真由は公園のベンチに座り、小学ニ年生の従兄弟の照彦と話していた。照彦は、父親である朝日にずっと憧れていて、死神になる為に頑張っている。
「真由姉ちゃんは、どうなの?」
「えっ?」
「真由姉ちゃんは、伯母さんみたいな陰陽師になりたいの?」
「う〜ん…、どうなんだろ…」
真由は、自分に力がある事は分かっていたが、それをこれからどうするかは全く考えていなかった。
「俺はどんなに頑張っても、お祖父ちゃんやお父さんみたいに強くなれない…」
照彦は、昴や朝日のように強くなりたいと思っていたが、努力だけではそうなる事が出来ないと分かっていた。
「それでも、俺は自分の力で死神になって、誰かを助けたいんだよ」
「そっか…」
「だから、今も頑張ってるんだよ。俺にも何か力があるって信じて」
「私も自分の力で何が出来るか考えてみよう」
照彦は立ち上がり、自分の鎌を取り出した。
「俺は、もっと強くなるんだ!」
「そっか…、頑張れ」
真由は立ち上がると照彦の頭を撫でた。
「私も、もっと頑張ってみようかな」
そして、真由は照彦と別れ、有佐の所へ向かった。
真由は、有佐に近づき、風月華を見せた。
「大分手慣れてきたね」
「まぁね」
そう言って刀を振る真由は、何処か得意気である。
「冥界で造られた刃物って事は、形は違うけど死神の鎌と同じなんでしょ?真由ちゃんに合ってるんだと思う」
「そうなんだね」
「私、最初は真由ちゃんに力があるのが信じられなくてね、絶対にいつもの変なノリで言ってるって思ったの。だけど、ずっと付き添ってるうちに、真由ちゃんの力が本物である事が分かったよ。風月華の封印を解いて自分の力にした事は物凄く驚いたけどね」
有佐は、真由の風月華を持つ手を、強く握った。
「真由ちゃんならきっと、その力を正しく使ってくれる」
「そう…、かな、今の私ならビガラスを助ける事だって出来るのかな…」
「ビガラス君の事気になるの?」
「うん…」
真由は、ビガラスの事を何処か心配していた。
そのビガラスはと言うと、自分の部屋でずっと笛を眺めていた。
「俺は…、どうすれば良いんだよ」
ビガラスは、悪魔の力を使い続けているから、自分が蝕まれているとは分かっていた。だが、真由や死神に出会うと、どうしてもこの力を使ってしまう。ビガラスは、自ら進んで魂を生死の狭間に追いやっていた。
「もう良いさ、俺が人間として生きる価値なんて無いだろ」
ビガラスはそう吐き捨て、自分の影を見つめた。するとその影は、人間の形から悪魔の形へと変わった。
「ようやく姿を現す事が出来た」
影は一人でに喋り、ビガラスを見つめる。
「えっ…」
「これで我も、力を取り戻す…」
悪魔は、ビガラスの笛を握ると、その姿を現した。それは、ビガラスが変異した時の姿とよく似ていて、身体中に蔦の文様が浮かび上がり、目は黒く濁っており、羽は墨のように真っ黒だった。悪魔はビガラスの心臓を握り潰し、ニヤリと笑った。
「うっ…」
「もうすぐ楽になる」
悪魔は、ビガラスの魂を吸収すると、身体を投げ捨てた。抜け殻になったビガラスはその場に倒れ、意識を失ったが、死んではいなかった。真由の花の力で、魂の欠片が残されていたのだ。
だが、それを信じられないビガラスは、自分が何故死んでいないのか、考えるだけでやるせない気持ちになった。