兵太夫の真相
灰色のローブを纏った死神は、智の姿を見ると恭しく頭を下げた。
「これはこれは智様、どうなさいましたか…?」
「ジク、こちらこそどうしてここに…?」
ジクと呼ばれた死神は一同に向かって微笑み、真由と照彦の横に付いた。
「兵太夫の霊を留めたものも、風月華を造らせたのも、私でございますよ」
「えっ…?!」
ジクは死神達を自分の周囲に集め、近くにあった切り株に座って昔の事を語り始めた。
「あれは…、日本が戦国の世と呼ばれた時代でございます。当時は大勢の人々が亡くなり、死神の人数が追い付かなくなっておりました。そうなると、冥界への道に迷い、彷徨う魂が増えます。また、戦によって身を滅ぼした者は、怨念の力で悪霊や妖になって人々を襲い、罪なき者たちが次々亡くなっていきます。怪共も戦を狙い、亡くなる人々は増え続ける一方でした。それらの事で月輪様や弓姫様は気を揉んでおりました。そこで私は、現世に降りて戦で亡くなった落ち武者、兵太夫に話し掛け、霊刀の風月華を使って悪霊や妖、怪共を退治するように命じます。兵太夫はそれを快く受け入れ、実際にそれを行いました。その結果、冥界に渡る魂達は少し減り、現世も騒ぎが少なくなりました。
しばらく経って戦国の世が終わった頃、私は兵太夫の魂を開放しようとしました。ところが、兵太夫の魂は風月華に繋がれていました。私の力ではどうやっても解く事は出来ません。本当は、役目が終えてから開放しようと思ったのですが…、仕方なく私は兵太夫を風月華ごと箱の中に収めて封印し、兵太夫の家の蔵の奥に入れました。」
その長い話を、有沙と真由は一生懸命聞いていたが、死神達は自分に関係ない話を聞かされていると感じて、うんざりしていた。
「ジクさん…、話が長いですよ…」
「まぁ、若い者達はしょうがないな」
「それで、風月華に兵太夫の怨霊が居たのですね…」
「兵太夫の魂が冥界にやって来て、安心しました」
ジクは真由に向かって深々とお辞儀をした。
「ありがとうございます、風月華はこれからも真由様がお使いなさいませ」
「こちらこそ、ありがとうございます!」
真由は風月華を握り締め、笑顔になった。
「霊水晶とか、冥界の鍵が蔵にあったのは、ジクさんが置いたからですか?」
「昔の事だから忘れましたが…、恐らくそうですね」
「あの…、つかぬ事を伺いますが、ジクさんってお幾つでしょうか…?」
有沙が冷や汗を垂らしながらジクにそう尋ねた。
「正確な数字は忘れましたが…、千二百年は生きております」
「千二百年…?!智さん、死神の千二百年って、人間で例えるとどれくらいなんですか?」
「まぁ…、百二十歳だな。死神は低級神とはいえ寿命が長く、人間の十倍は生きるからな。死神の相場が七百から八百、上級神だと生まれ変わりによる魂の入れ替えはあるが、千年以上は普通に生きる。死神でも神化した真莉奈や朝日や太一は、もっと生きるかもな…。昴、あいつはもっと凄いぞ?あいつには寿命が無いからな」
「じゃあ、智さんの年って死神でいったら大分若い事になるじゃないですか?!」
有沙は、智や他の死神達を見て驚いた。
「まぁ、そうだな」
智はそう言ってウォルとシェイルの顔をチラッと見た。
「何か、俺が置いてけぼりにされてる気がするんだけど?!」
ビガラスは、自分を置いて話がどんどん進んでいる事にようやく気づき、大きな声を出した。
「ああ…そうだね、ごめんごめん」
真由はビガラスに詫びる気は無いのか、笑いながら背中を勢い良く叩いた。
「そもそも、風月華を手に入れようと思ったのは、ビガラス君を止める為なんだけどね…」
「そうか、そんなに俺は大変な事になっていたのか…」
「もしかして、自覚なかった?」
「自分の身体が大変なのは分かってたけど、周りの事は、全く考えられてなかった。」
ビガラスは、死神達を見て深々とお辞儀をした。
「なんか…、すみません」
ビガラスはジクの方を見つめた。
「ビガラス君も苦しんだのですね…。もうビガラス君に悪魔の力は感じません。暴走する事もありませんし、冥府のお尋ね者から外しておきましょうか」
「ありがとうございます!」
「良かったね、ビガラス君!」
「あぁ…!」
ビガラスは笑って真由の方を見つめた。
「それじゃあ、私達帰りますね」
真由達四人はラメルとシオナの横に立った。
「冥界の鍵は真由様と照彦様に譲りますよ、また何かありましたらいつでもいらして下さい」
「ありがとうございます!」
照彦は鍵を、鎌と同じように腰にぶら下げた。
「それじゃあ、行こっか」
そして、行きと同じように、ラメルとシオナに付いていき、門まで行った。
「良い来孫達だな」
ウォルが真由と照彦を指差してそう言った。
「そうか?」
「ひいひいおじいさん想いの優しい子達じゃないか」
「俺からして見れば…、ラメルやシオナもいい子達だと思うな」
「そうかな?」
「シオナはフォレスに似てるよ」
「シェイルにも似ている所はあるわよ」
シェイルとフォレスが仲良く言い合う様子を、智とウォルは微笑ましく見ていた。
「智さんって本当に色んな人から慕われてますね!どうしてなんでしょうか?」
リトが智の周りの死神にそう尋ねた。
「智は家柄が良い事や強さもあるかも知れないけど、やっぱり人が良いからだな?自分の信条はずっと貫いているし、困っている人は放っておかないからな」
「そうなのですか…」
「別に俺、そんなに凄くないのに…」
「謙遜するのか?もっと自信を持てよ」
智は顔を赤く染め、居心地が悪いように縮こまった。
「長年死神を見てきたが、智のような奴はあまり居ないな」
グルーチョは人間の姿になって智をじっと見つめてくる。
「いや、そんな事は…」
智は周囲から目を反らした。
「また照れてるのか?」
「は、恥ずかしいよ…」
ウォルやシェイルは、そんな智を面白そうに眺めていた。




