第16話 それでも手に入れたい物
勇者一行の荷物持ち16話掲載させていただきました。
揺れる馬車の中で、バルト公爵は自分の口元から溢れる笑みを堪えていた。
「やけに楽しそうだな。」
今まで無口だった女が気だるそうに口を開く。
「そりゃあそうでしょう。あの目障りだった領主を蹴落とせるんですから。」
何もかも上手くいっている。私の手助けがいらないと言われた時は多少焦ったが、今になってはどうでもいいことだ。
盗賊を雇って積荷を奪い、御者たちは最悪殺してしまえば証拠も残らない。
積荷を納品できないあの田舎貴族は王都からの信用も無くし貴族の地位と領地の剥奪。その後、その領地をそのまま私が貰い受ける算段だ。
少々強引かもしれませんが、あのお方がうまく運んでくれるらしい。
「それはいいとして、ブラッド。あの話は本当なのでしょうね?」
バルトは目の前に座るブラッドに話しかける。ブラッドは、あのお方から遣わされた所謂、用心棒といったところだろうか。
「心配するな。彼の方は嘘はつかない。お前がしくじらなければ…の話だがな。」
時折、この女は言葉の端々に嫌味を含めて返答してくるのが腹立たしい。だが、それも今日までの辛抱。
あのお方は、約束してくださった。この件が成功すれば私を新世界へと連れて行ってくれると。
誰よりもこの私を信用してくださっている。そのお気持ちにお応えせねばならない。
そう思えば、この女の言葉など取るに足らない戯言と一緒だ。
「失敗などするわけないでしょう。こんなこと、いつもと比べれば造作もない。」
そう、いつもと変わらない。今まで私に楯突く貴族たちは全員蹴落とし、全てを奪ってきた。誰にも気付かれないように。
あの田舎貴族には申し訳ないが私の糧となってもらう。むしろそうなることをありがたく思ってもらいたい物だ。
頃合い的にも、あちらは仕事を終えているだろう。この商談が終われば、すぐに私の兵を遣わせ積荷を回収しよう。
昼前に検問兵がいる詰所に馬車が襲われたと情報も入れてある。
今頃、あの田舎貴族は慌てふためいているはず。早くその顔を拝みたい物だ。
「話では、お前が出てくるのを待っておけばいいんだな。」
「そうです。この私に何か起きれば、あのお方はさぞ悲しむでしょうから。必ず守りなさい。」
ブラッドも軽い返事しかしないため、多少不安になるが、バルトの崇拝している人物から送られてきたこともあり、実力は申し分ないのであろう。
「そう言えば、あのお方からワインをいただきましてね。独特の風味はありましたが、大変美味でした。今回の先祝いだとのことで。やはり、私は期待されているのでしょうね。」
どうだ。悔しいだろう。この私が誰よりも彼の方に期待されているのが。
目の前の女が悔しさに滲む表情が見てみたい…と思っていたが、
「そうか。美味かったのならそう伝えておく。主人様も悩んでいたみたいだし。」
自分のネイルを見つめていて、バルトには全く見向きもしていなかった。拍子抜けもいいとこだった。
その後も何か話しかけても、ああ。とかそうだな。ぐらいの簡単な返事しかしなかった。
こうなってくると、呆気に取られるというよりより楽しくない。
そのうち、バルトも喋らなくなり車内に変な静けさが訪れる。
それに、何を考えているかもわからない小娘と話すよりも、これからの事を想像している方が何倍、何十倍も有意義だと思えた。
物思いに耽っていると、だんだん眠気に襲われてくる。
きっと頂いたワインのアルコールが馬車の揺れと合わさり酔いが回ってきたのだろう。
バルトは眠気の波に呑まれるように、深い闇に身を委ねていく。体の中心があやふやになり、軽い浮遊感を与えてくれる頃には、バルトは寝息をたてていた。
「…い。…ったぞ。」
誰かが、体を軽く叩いている。意識がハッキリとするのに時間がかかる。そこまで深く眠りに落ちていたのだろうか。
「おい。いい加減にしろ。着いたぞ、起きろ。」
ブラッドが苛立ちながらバルトを叩き起こしている。が、それでもまだ寝ぼけているのか起きようとしない。
「少し、入れすぎたか…」
ブラッドが何か言っているようだが、脳が機能を果たしていないからかよく聞き取れない。
「仕方ないか。」
何かブラッドがつぶやいた時、突然何かで強く叩かれたような衝撃がバルトの体を襲う。
一瞬で眠気が覚め飛び起きる。
「やっと起きたか。手間を取らせるなよ。」
そう呆れたようにブラッドが呟いている。眠気覚ましの魔法でも使ったのだろうか。
「着いたぞ。仕事の時間だ。」
ぶっきらぼうにブラッドが馬車の外を指差す。いつのまにか、目的地に着いていたようだ。
「では、頼みましたよ。ブラッド。」
二人は馬車をおりギルドの前まで行く。まだ、酔いが残っているのか頭がクラクラするが問題はないだろう。
バルトは意気揚々とギルドの中へ入ろうとする。
「おい。バルト。」
そう一言、ブラッドがバルトを呼び止める。今まで名前を呼ぶことのなかった彼女が、一度だけ
「足元掬われるなよ。」
たった、その一言だけ。
「誰に言ってるんですか。ヘマなんてしませんよ。」
結局、何を考えているのかわからない女だった。そう思いながら、バルトはギルドの中へ消えていくのだった。
バルトを見送った後、ブラッドはしばらくその場に立ったままだった。
一応、用心棒という名目上、バルトについてきたがギルドへは関係者以外入ることができない。
それに、何かあったとしてもバルトの居場所はわかるようにしてある。
「ここにずっといるのも怪しまれるし、どうしよっかなぁ。」
先ほどとは打って変わり、砕けた口調で独り言を言いながら辺りを見渡す。
やはり、商業都市といわれるだけありたくさんの店が並んでいる。
唐突に、ブラッドは何かを思い出したように自分の指を見つめる。
そういえば、今朝ネイルちょっと欠けたんだった。別にすぐ何か起きるわけじゃないし良いよね。
そう思うと、自分が行くべき場所は決まった。というより、体が勝手に動き出していた。
王都には腕のいいネイリストがいるらしい。高鳴る衝動に突き動かされる。
「いらっしゃいませ。ご希望のカラーはございますか?」
愛想のいい店員が話しかけてくる。カラーリストはどれも魅力的で目移りしてしまう。
でもこんな時はいつだって、こう伝えるのだ。
「お姉さんさんのおまかせで!」
「かしこまりました。」
バルトには悪いが、これも私なりの戦いなのだ。
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