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003 アイラ神が迎えに来た

 着火魔法、発動だ!


 人差し指を立てて呪文を唱えた。……ダメだ。指先に火が灯るようにイメージしてみたり、魔力の流れを想像してみたり、色々とやり方を変えてやってみたがやっぱりダメだった。


 かなり期待していたのだが、考えてみたら俺が魔法を使えないのは当然かもしれない。なにせ、俺は地球生まれの人間だからな。俺の体では魔力が生成されてないか、魔力の変換機能が無いか、その両方か……。


 だが、まだ諦めるのは早い。テオドが戻ってきたら何が原因か尋ねてみよう。


 しかし遅いな。時計も何もないから時間が分からないが、1時間くらい待っている気がする。時計とか、ポケットに入ってないかな?


 自分の着衣を調べてみた。俺が着てるのは布の長袖シャツの上に革の上着、革のズボンだ。ズボンのポケットを探ると一枚の紙が出てきた。手書きで何か書いてある。どうやら簡単な地図のようだ。


 紙面の右端に「*」の印が入れてあり「マリエル」と書かれていた。左端にも*印があり「カイエン」と書かれている。その間は直線が引かれていて、その上に「700ギモラ」と記されていた。〈知識〉によるとギモラとは距離を現わす言葉で1ギモラが約1キロメートルだ。


 マリエルというのは俺が出発した国の名前で、カイエンは目的地の名前だ。700ギモラと書かれているから、これは出発地のマリエル王国と目的地のカイエン共和国の間は700キロの距離があるということだろう。


 マリエルとカイエンを結ぶ直線の少し下にも*印が2つある。左側の*印には「ベルドラン」、その少し右にある*印には「ブライデン」と書かれていた。これは、ベルドラン王国とブライデン王国のことだな。


 紙面のほぼ全体に斜線が入っていて魔樹海と書かれている。マリエル王国とカイエン共和国の間はすべて魔樹海だ。魔樹海の中の所々に+印が打たれていて、紙面の下の方に「+印は島で、人族が住んでいる島も多い」と注釈が書かれていた。島って何だろう? 魔樹海の中に島があるのか?


 俺の頭の中にもっと正確な地図が浮かび上がってきた。俺が疑問に思ったことで、例の〈知識〉の中から該当する情報が引き出されたようだ。


 島というのは魔樹海から突き出ている山のことらしい。小さな山ではない。魔樹海の所々に、山麓の端から端までが数十キロ、高さは千メートルを超える独立峰があって、それがあたかも魔樹海に浮かぶ島のように見えるのだ。


 魔樹海の中では唯一、島が人族や亜人が住める場所だ。島の海岸というか、正しくは山の麓だが、そこに人族や亜人が比較的平坦な場所を見つけて街や村を作っている――。というのが知識から得られた情報だ。


 そういう島が魔樹海の中に大小30以上点在していて、その中には何千キロも離れたところにある王国によって植民地として支配されていたり、海賊たちの根城になっていたりする島もあるらしい。


 各王国は仲が悪いところが多く、大半の国は戦争状態にあるようだ。だから、この魔樹海の上空でも魔空船による海戦が頻繁に起こっているらしい。国同士の争いだけでなく海賊も横行している。特に厄介なのが私掠船しりゃくせんだ。敵国の船を襲って積荷を奪ったり乗員乗客を拉致したりすることを、それぞれの国の王様から正式に許された海賊だ。中には荒くれ達を集めて数千人規模の傭兵組織になっているものもあるようだ。


 さっき、俺たちが乗っていた船を襲ってきたのもテオドは海賊船だと言ってたな……。……。……。


 ………………


「起きろ、ダイル。魔樹のてっぺんで居眠りするとは、なかなかの度胸だな」


 体を揺すられて俺は目を覚ました。目の前にテオドがいた。いつの間にか魔樹の幹にもたれて眠ってしまったらしい。とにかく枝から落ちなくてよかった。


「掴まれ。アイラ神様が迎えに来てくださった。上空でお待ちだ」


 言われるままに俺はテオドの腕を掴んで立ち上がった。


「アイラ神が迎えに来たって、どうしてだ? 俺たちがカイエンまで会いにいくんじゃないのか?」


「船が襲われたから事情が変わったんだ。上がるぞ!」


 テオドの浮遊魔法で魔樹海の上空に出た。見渡すと遠くに何人かの人影が見えた。三人だ。こっちと同じように空中に浮かんでいる。俺たちを見つけたようだ。そいつらが急速に近寄ってきた。


 先頭は髪の長い美女だ。これがアイラ神だろう。その後ろにも女が二人いる。しかし、二人とも空中で横になって寝ている。ちょっと見たときには死体かと思ったが、顔色は良さそうだし怪我をしている様子でもない。眠っているだけのようだ。アイラ神がこの二人を魔法か何かで引っ張っているのだと分かった。


「お待たせしました、アイラ神様」


「じゃあ、行くわよ」


 アイラ神が俺の方をちらっと見て微笑んだ。あれっ? かわいい。20歳くらいにしか見えないぞ。ホントに何百年も生きているのか? 神族の女性に対しては、なんとなく魔法使いのお婆さんのようなイメージを持っていたから意外だ。


 そんなことを考えていると、俺の体は急速に引っ張られて加速した。魔樹海の樹々がどんどん後ろに流れていく。〈知識〉から俺の頭に魔法の情報が流れ込んできた。これは飛行魔法だ。この魔法を使うには魔力が〈1000〉以上必要で、更に飛行のスキルも要る。つまりアイラ神の魔力は〈1000〉以上あるってことだ。さすがは神族だ。


 時速は百キロくらい出ているのだろうが、風圧は感じない。たぶんバリアが張られているのだろう。


 遥か彼方に魔樹海に浮かぶ島が見えていた。円錐形の山だ。どうやらそこに向かって飛んでいるようだ。少しずつ島が近付いてくる。頂きが雪で覆われている。山の高さは富士山よりも低いと思うが、裾野の広さは同じくらいあるかもしれない。高さ2千メートル級の独立峰のようだ。


 あっと言う間にその山に近付いて魔樹海が途切れた。眼下には雑木林や草原が広がっている。これがこの世界で原野と呼ばれている荒地なのだろう。この山は魔樹海と原野の境に位置しているようだ。魔樹海と原野の境は延々と続いていた。その先にあるはずの地平線は霞がかかって見ることができない。


 アイラ神は山の周囲に沿って飛んでいる。やがて村らしきものが見えてきた。茅葺かやぶきの平屋が点在していて、村の周囲は低い土塀で囲まれている。


 飛び始めてから10分も経っていないと思うが、ここが目的地らしい。


 俺たちは村の手前で着地した。乾いた土の小道が村の方向へ続いている。着地した場所は道から少し外れた草地だ。雑木林に遮られて、村や道は見えない。


 アイラ神は女たちを草の上に横たえた。念力魔法を使ったようだ。俺たちを空中で引っ張っていたのも、たぶんその魔法なのだろう。


 この女たちはさっき沈んだ船に乗っていた乗客だろうな。一人は若い。20歳前だな。ロングヘアで可愛い顔をしている。もう一人は30歳くらいだろうか。ショートヘアで引き締まった顔をしている。二人の顔立ちがなんとなく似ている気がするが、もしかすると年が離れた姉妹か、従姉妹いとこ同士かもしれない。アイラ神とはどういう関係なのだろう?


「大丈夫よ。この二人は魔法で眠っているだけよ」


 俺に向かってアイラ神が呟いた。不審そうな俺の視線に気付いたらしい。


「この女性たちは?」


 俺が女たちを指さしながら尋ねた。アイラ神はテオドに顔を向けた。テオドはコクリと頷いて俺に向かって口を開いた。


「さっきの番頭が心配していたご令嬢がこの女性だ」


 テオドが若い方の女を指さしながら答えた。


「マイダールという大商人の娘だ。たしか、次女か三女だったはずだ。マイダール商会はダールム共和国に本店を持っているオーブ商だ。こっちの女性はその護衛だな。ロードナイトで魔力は〈150〉くらいありそうだ」


 「ロードナイト?」


 テオドの言ってる言葉が分からなくて、その言葉を思わず呟いてしまった。


 「おいおい、ロードナイトの意味が分からないとか言うなよ?」


 初めて聞く言葉に対して〈知識〉から必要な情報が流れ込んでくる。ダールム共和国とは……、オーブ商とは……、ロードナイトとは……。ダメだ。理解が追いつかない。


「ちょっと……待ってくれ。頭の中を整理するから……」


「いいのよ、ゆっくり整理して。でも、あなたをすぐにでもロードナイトにしたいと思っているの。だから、ロードナイトのことは早めに理解してほしいのよ」


 アイラ神が微笑みながら話しかけてくる。俺も笑みを返そうと思うが、頭に流れ込んでくる情報を整理して理解するので精いっぱいだ。


 頭の中に世界地図が浮かんでいる。ダールム共和国というのはここから南東に千数百キロ離れたところにある国だ。商人と職人たちが集まって統治している商業国家で、人族が多いが人種は雑多だ。この国の通貨ダールが各国の共通通貨になっている。


 オーブ商というのはソウルオーブなどの宝玉を商いする商人のことだ。


 ソウルオーブというのは直径1センチくらいの宝玉だ。この宝玉を身に着ければ人族でも強力な魔法やスキルを使うことができるらしい。〈知識〉によると、この宝玉に魔力を蓄積したり、ソウル(魂)を格納したりできるらしいが、何のことやらよく分からない。


 スキルとは武器・魔法などを使いこなす技能や戦闘の技などをソウルオーブの魔力と制御機構でアシストして増幅する機能だ。人族の膂力りょりょくや魔力は弱いから、魔族や魔物と戦うためにはソウルオーブが必携品らしい。


 ソウルオーブは貴重だ。人族がソウルオーブの原材料を入手するためには魔樹海を渡って遥か彼方にあるドワーフとエルフの国へ行かねばならず、たいへんな危険を伴うことになるからだ。そのためソウルオーブは非常に高価だ。


 これを店で商うことができるのは国から許可を得た一部の大商人だけだ。得られる利益も大きい。つまり、マイダールという商人は大金持ちであり、その娘が俺の目の前で眠っているということだ。


 ロードナイト……。アイラ神は俺をロードナイトにしてくれると言った。これが本当ならすごいことらしい。ロードナイトとはロードオーブという特殊な宝玉を装着した人族や亜人のことだ。そのロードオーブを装着することで圧倒的な魔力を持つことができるようになるのだ。


 ロードオーブというのはソウルオーブに妖魔や魔獣のソウルを格納した宝玉だ。

ロードオーブを装着すると格段に魔力が高まるのだが、どれくらいの魔力になるのかはオーブの中に格納されているソウルの種族に応じて決まるようだ。それと不思議な話だが、ロードオーブを装着していれば、そこから無尽蔵に魔力を得ることができるらしい。これは魔力切れを恐れることなく魔法を使えるってことだ。


 なぜ無尽蔵に魔力を得ることができるのか。それはこのウィンキアという星には知性と無尽蔵の魔力を持った偉大なソウルが宿っていて、妖魔や魔獣のソウルはそこから尽きることなく魔力を得ることができるからだ。この偉大なソウルはウィンキアソウルと呼ばれている。妖魔や魔獣のソウルは亜空間を通るパイプでこのウィンキアソウルと常に繋がっていて、魔力の供給を受けているらしい。その妖魔や魔獣のソウルを格納したロードオーブも無尽蔵に魔力を得ることができるってことだ。どうやらそれはこの世界では常識のようだ。


 自分の知らない言語と知識がいつの間にか頭の中に埋め込まれていて、そこから溢れ出た情報が俺の脳みそをぐるぐると掻き回しているような気がする。


 俺はテオドとアイラ神が話している言葉の意味を理解しようと頑張っているが、なかなか理解が追いつかない。


「ごめんなさいね、急かしてしまったみたいで。前言は撤回するわ。ロードナイトのことは今すぐに理解しなくても大丈夫よ。これから色々と経験すればイヤでも分かるようになるからね」


 アイラ神は俺が困っているのを見て、優しく微笑みながら言葉を続けた。


「安心しなさい。あなたを優れたロードナイトにしてあげる。そうなるまであたしたちがしっかりサポートするから。きっと天の神様が導いてくださるはずよ」


 俺をロードナイトっていうのにしてくれるらしいが、喜んでいいのか?


 いや、そんなことよりも自分の状況がまだ理解できてなくて、不安感や焦燥感しょうそうかんだけがつのっていく。どうすりゃいいんだ?


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