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草原にて 〈ロスガルン平野〉

「これって本当に平原狼なの?」

「けっこうイケるじゃない」


「普通に干し肉にしても硬いわ臭いわで美味しくなかったからね」


「これなら狼狩りも楽しめるかもねw」


「村や町なら農園の防衛なんかで狼を狩ったりするんじゃないの?」

「肉は棄てちゃうから逆に魔物を引き寄せかねないから危ないって話だし」

「肉を食べるようになれば廃棄も減って処理は楽になるんじゃないかな?」


「それは言えてる」

「ウチの系列農園でも狼の被害は家畜を食べられるだけじゃなくて食べ残しや倒した狼の死骸の処理にかかる時間や費用も有るから・・・」

「このレシピ教えてくれたら助かるわ」


「狼の食用レシピは既にマリー達に教えてあるから近い内に普及するんじゃないかな?」


「勿体無いなぁ」


「魔物や肉食獣のレシピは皆が共有できる方が良い」

「それに・・・」


「それに?」


「これは既に改良レシピだから普及するのとは別なんだよね」


「ちゃっかりしてるわねw」


「食の探求は個人が進めて摸倣されて広まるものでしょ?」

「ならば私は先駆者でありたいと思うわ」


「それはご立派で」

「この改良レシピは教えてもらえるのかしら?」


「教えても再現出来ないんじゃないかな?」

「だって日本酒と醤油とヨーグルト使うんだもの」


「日本酒かぁ」

「まだ麹黴見付かってないんだよね」

「やっぱり創造魔法?」


「ですね」

「教えたレシピはワインを使うけどこれは日本酒」

「先ずは日本酒を作らないとね」


「落ち着いたらまたノッキングヒルに行く必用があるわね」


「どうして?」


「ノッキングヒルの地名なんだけどね」

「地中からノックされるような音が聞こえるのが由来なの」


「聞いた覚えないなぁ・・・」


「まぁね四六時中鳴ってるわけじゃ無いから」

「誰も気にしてなかったんだけど私は気になってね・・・」

「調べてみたら面白い事が分かったのよ」


「何があったの?」


「ノッキングヒルの地下にはロスガルンからの地下水が大量に流れてるみたいでね」

「知られていないけど巨大な地下空洞が有るのよ」

「その空洞で岩が当たったり崩れたりする音がノックの正体だったわ」


「この空洞はノッキングヒルの中心地からちょっとずれてるから井戸を掘る時に見付からなかったのね」

「そしてその空洞は天然の保冷庫になってるのよ」


「何それ最高じゃない?」


「だから日本酒作るのも熟成させるのもノッキングヒルは最適なのよ」

「これはリグルにも秘密にしてる事なのよ?」

「だから今ウチのグループでノッキングヒルの土地を買ったり開拓して所有地増やしてるの」


「なんかやり手だなぁw」


「でも土地は押さえても醸造技術が無くて困ってたのよねー」

「このままだと単なるワインセラーになるとこだったわ」


「そう言えば海中で保管されたお酒は地上の何倍も熟成するって話があったな」


「何それ?」

「ちょっと詳しく教えてよ」


昔読んだ記事と論文をかいつまんで説明するとシンシアの顔はヴァレンシアのソレに戻っていた


「それなら地下水脈に合わせて地底湖を作れば海のように熟成出来そうね」

「そうなるとノッキングヒルは一大ブランド地になるわね」


「なんなら開拓しまくって領主になれば?」

「シンシアの財力なら可能なんじゃないの?」


「それは・・・」

「アリね」

「何かもっともらしい理由探さないと」


「20年住んで気に入ったとかじゃダメなの?」

「農地開拓して葡萄植えるとか」


「それ良いわね♪」

「次の町についたら早速手紙で指示出すわ」


「そろそろ出発しますか」


「そうね」

「狼の干し肉はまた食べてみたいかな」


「そんなに気に入ったの?」

「まだ残ってるから明日にでも食べましょうか」


「楽しみだわー」


ランチは簡単に済ませるため町から持ってきた黒パンに以前作って保管魔法で置いといた狼の干し肉を焼いた物を挟んで食べた


これはある意味実験だった

保管魔法で品質が劣化しないかどうかと言う奴だ

常温保存した干し肉は直ぐにカチカチになり日が経つにつれて1度煮て戻さないと普通の人では歯が立たないレベルで味も臭みが増して美味しくなかった

しかし今回保管魔法で取り出したものは入れた時と変わらない状態で恐らく生肉も腐らない

だから今回平原豹を生のまま保管してみたのだ


「それにしても・・・」

「アリエル一人で今の文明が崩壊しそうね」


「革命とかする気無いですよ」


「でも機織り機は服飾革命起こすわよ」


「やっちゃったか・・・」

「シンシアは気付いてるだろうけどさ」

「アタシ、女神に見付かったら近くの人巻き込んで抹殺されるんだよね」


「えーなにー」

「そんなのしらなかったー」

「だれかたすけてー」


「棒読み&無表情は止めてw」


「そんな事改めて言わないでよね」


「ごめんごめん」

「それにしてもホントに何もないね」


「見渡す限りの草原だもんね」

「定期的に火龍が来たりしなかったらここにも町が出来るんだろうけどね」

「それはそうとさっきからホントに平和ね」

「このルートは餌になる小動物や草食動物が多いからゴブリンとかもよってくるんだけどな?」


「あーそれはね」

「たぶんコレのせいかな」


さっき見付けた手頃な棒の先に小さな袋をぶら下げていた


「さっきから気になってたんだけどアレ何?」


「捌いた平原豹の内臓から取り出した排泄物の一部」


「どうりで臭いわけね」

「あー」

「食物連鎖の上位者の臭いぶら下げてるから弱い奴はよってこないのね」


「そう言うこと」


「アリエルはそう言うことよく知ってるよね」


「害獣対策の忌避剤として猛獣の排泄物とか売ってたからね」

「それを応用してるだけだよ」


「そんなのあるんだ」


「猿とかアライグマ対策に虎とか熊の排泄物使うんだよね」

「ゴブリンとかにも効くとは思わなかったけど」


「アイツらからすれば天敵だものね」

「近付きたくはないか」


「同族には効き目無いだろうから気を付けないとね」

「逆に縄張り意識で襲ってくるかも」


「それはあるね」

「もう少し行ったら旅人の小屋があるわ」

「川の傍だから解体とかしようか」

「ここは常駐してる人達もいるから手前の方で先に出して運んだ方が良いかもね」


「了解」


街道を進むと遠くに林と石の橋が見えてきた

馬車の通れるような立派な橋でこの街道を支える重要な役割を担う

その傍らに小屋が作られており高い塀に守られている

町からもそう遠くなく要所でもあるので兵士も数人常駐している


「小さな村みたいだね」

「あの家なんか2階建ての旅館みたい」


「あそこが宿泊施設」

「この塀際の建物が兵士の詰所」

「屋上が物見櫓になってるのが見えるでしょ?」


手前の四角い建物から梯子のついた櫓が突き出ている

早目に出させたのはコレの為か


「入る前に川で血抜きしましょ」


喉を一閃された平原豹の頭は胴体に付いたままだ

外れないように河原に横たわらせるとお腹の白い柔らかい毛に沿って切り裂いていく

こうする事でお腹の毛皮を綺麗に使えるようになる


「案外大きいわね」

「血で汚れた所も綺麗に洗わないとね」


頭と毛皮を剥いだ身体にロープを結んで川に晒す

これで暫くすると綺麗に血が抜ける


橋桁近くの杭にロープを結びつけると1度中に入ることにした

扉は既に開いており門番もいない

物見櫓に見張りがいるので日中は開け放っているのだろう


「こんにちはー」


「こんにちは」

「お嬢さん方がソレを仕留めたのかい?」


見張りに聞いたのだろう兵士が話しかけてきた


「だいぶ弱っていたみたいですね」

「なんとか倒せました」


「弱ってても2人で豹を倒すとは大したもんだ」


「皮を干したいのだけれどどちらに干させてもらえば宜しいかしら?」


「こっちに来てくれ」


そこは普段装備を陰干しする場所なのだろう

2本のロープが張られ幾つかの台も置かれている


「今日明日は使う予定ないから自由に使ってくれ」


案内してくれた兵士に礼を言うと宿泊所へと向かった

塀の中はちょっとした公園くらいはある


門の左手には詰所があり左奥は馬屋と馬車置き場

右手には宿泊施設があり右の奥に平屋の一軒家があるが窓が無いので恐らく倉庫だろう


「こんにちは、お世話になります」


「こんにちは」

「一応通行手形を見せてくれ」


「これがギルドの通行証です」


「うむ」

「護衛も無しで大変だな」

「部屋は2階の好きな部屋を使ってくれ」


2階に上がると4部屋有るようだ

通路は広く窓と塀の間は3mぐらいだろうか?

有事にはこの廊下から外を弓で射るようだ


「けっこう広いわね」


「1パーティ1部屋の割り当てなんでしょう」

「一応ベッドはあるけど2つしかないのね」

「2人旅だから良いけど6人パーティだと床で雑魚寝になっちゃうわねw」


そのベッドにも布団はなく寝れるだけましと言う程度だ

荷物を置くと剣を腰に下げ川に晒した肉を取りに行く

かれこれ1時間以上たっているのでそろそろ良いだろうか

本当ならもっと晒したいのだがここで一晩晒すと恐らく朝には無くなっているだろう


「けっこう重いですねー」


「2人でやっとだもんね」


水に晒した肉はマントにくるみ2人で担いで持ってきた

宿泊所の厨房は大きく兵士達の晩御飯を作るため当番の人が急いで料理している

幸い外に大きな燻製室があったので私達はそちらに行く事にした


「因みにアリエルさん?」


「なぁに?」


「平原豹も不味いって有名なんですけどどうやって食べるの?」

「私達って余程の貧乏人か物好きだと思われてるわよ?」


「・・・・・・・・」

「やっぱり肉食動物は不味いのが多いよね」

「でもそこはそれだし」

「奪った命はなるべく食べましょう」


予想はしていたがやはり不味いのか・・・


と言うことで

剣を片手に周囲を散策してくる事にした

散策と言っても猛スピードなんですが・・・


「あの林なら何か食材有るでしょ」

「果物なんかもあったら良いんだけどな」


小屋の周りは切り倒されているが川の傍だけあってある程度大きな林がある

その中で使えそうな植物を物色する


先ずキノコ

鑑定の結果は

「美味しくなく不味くもない毒はないので食べられます」だそうな

数種類のハーブが自生していたので幾つか摘み取る

小屋にあった籠を借りてきて正解だったな


続いて木を鑑定して回る

可もなく不可もなく食事に使えそうなものは無いがしっかり生い茂っているローズマリーを発見


この世界にも同じ植物や動物がいるのは意外だがそれは前回の採取でも気付いていた

転生者が持ち込んだのかなんなのか・・・?

不思議ではあるがそのお陰で以前の記憶が役立てられるのだから気にしないことにしてる


しかし・・・

なんとまぁ


竹まであるとは驚きだ

しかも真竹と細い篠竹がある

篠竹は別名を矢竹と言い日本でも矢として使われてきた

真っ直ぐなのを選んで切って束にして担ぐ

真竹も節の長いものを選んで1本伐る

ちょうど良い長さに切り揃えてこれを束にしたものを天秤代わりにして荷物をぶら下げ担いでいく


使えそうなものを粗方集めると足早に小屋へと戻った


「お姉ちゃん力持ちだな」

「この短時間でそんなに採ってきたのか?」

「その竹なんか硬かったろう」


「道具が良ければすぐ伐れますよw」


本当は鋸が無ければ伐るのは難しい

居合の経験がある私にかかればちょろいものだが


水場でハーブを洗って乾かしておく

林で見付けたローズマリーとナツメグを使い採取した野生の人参を切っていく

施設に備品として鍋が置いてあるのが有り難い

人が常駐しているからこそ備品も有る


鍋に水を張り肉を入れる

火にかけコトコト煮えるまでは他の下準備

水がフツフツと言い始める頃にはアクも出てきて丁寧に取り除きながらローズマリーとナツメグを入れる

塩を加えて中火に調整しておく


更にアクを取り取り人参とキノコを入れて更に煮る

最後に自生していたトマトを潰していれて少し煮れば完成

既に日も沈み兵士達は交替で夕食を食べていた


「アリエルさん・・・」

「おなかすいた」


「おなかすいたね」


「おなかすいた!」


これじゃどちらが歳上か分からないなw


兵士達は干し肉に芋と人参を炊いて塩で味付けしたシチューだ

良い香りはしているが味の方は期待できないだろう


煮えるまでの間燻製も作っていた


竹を切り分け部品ごとに削り出す

この竹も肉と一緒に入れて燻しておく


火にかけてかれこれ2時間

シンシアが完全にふて腐れているのを横目に篠竹を選別して扱きながら形を整える

羽根がないので不恰好だが使えないことはない


鍋の味見をして手持ちの調味料を使って味を整えると完成


この頃には湯気と共に芳しい香りが辺りを包み込みなんとも言えぬ食欲をそそる


「もう・・・・・・」

「我慢できない」

「食べさせてぇ・・・」


お腹を抱えてテーブルに突っ伏しているシンシアの前に借りた器にシチューを注いで渡す


「おまたせ」


「もしかして空腹が最後のスパイス?」


「そう思うなら食べなくて良いわよ」


「ごめんなさい」

「食べます食べますとも食べさせてください!!」


この人本当に大富豪か?

持ってきた黒パンを燻製室に吊るしておいたのでローズマリーの香りが移っていた


「あ・・・」

「ちゃんと美味しいやつだ」


目を丸くしたシンシアはがっつくわけではないがあっという間に平らげ2杯目を食べ始める


「思ったより上出来だね」


臭みはまだあるが不味いと言うほどではない

肉の硬さは残るが良い出汁が出ているとは思う


食べながらシンシアと話をしているとどうにも視線が気にかかる

だが完全に無視

気付かないフリを貫く

どうせ食べたいとかレシピ教えてとかでしょ?


残さず食べ終え手早く後片付けを済ませて燻製室の様子を見る


「だいぶ良さそうね・・・」


まだ火を焚いているのでけっこうな温度だが気にしない

肉の状態を確認して竹を回して均等に熱が加わるようにする


「ふぅ」

「流石に熱いかな」


出る前にブレンドしたハーブの束を投げ入れると再び燻製室の扉を閉めた

火加減を見て薪を足しておく


「これで朝まで放置だからさっさと寝ましょ♪」


「なんか・・・」

「アリエルから美味しそうな香りがするわw」


「夜中にお腹空いたからって食べないでねw」


「アリエルが言うと違う意味に聞こえるわ」


「そう言う意味でもないからね」


ー・ー


「おはよー」

「アリエルは今日も朝から美味しそうね」


「朝ごはん食べましょうか」


おはようとは言ったものの

既に夜明け前に起きて燻製の出来映えをチェックしていた

匂いはその時に移ったのだろう


そして出来たての燻製肉とパンが今朝の食事である


「これもけっこう美味しいわね」

「ローズマリーが良く効いてるわ」


昨夜も思ったがシンシアは良く食べる

あっという間に食べ終わると荷物をまとめて出発する事にした


「もう出るのかい?」


「お世話になりましたー」


「気を付けて行けよー」


旅はまだ始まったばかり

あまり休んでばかりもいられない


雲一つ無い青空に草原を照らす朝日が眩しかった

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