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グリムワース

「屋台も美味しいけど」

「なんか肉とかばっかりで種類少ないわね」


「甘いものなんて果物系しかないもの」

「ケーキとまでは言わないけれどクッキーや菓子パンもあまり無いのよね」


甘いものが少ないのでシンシアはご機嫌斜めだ


確かに肉や魚は多いがパンやお菓子等はあまり見ない

少ない菓子パンやクッキーの店は女性が並んでいて繁盛している


やはりジンが言っていたように作り手が少ないのだろう


だが冷やした果物やジュースが売っているので甘い物の需要は高く砂糖も生産されているようだった


「ここでお店開いたらそれだけで一生食べていけそうね」


「この街の人達は皆舌が肥えてるのにゃ」

「生半可なお店にゃと1ヶ月ももたないにゃよ?」


「ふふふ」

「お店をやるならコレね」


ポケットから取り出すフリをして飴を創造してフェリシアの渡した


「何にゃ?」

「硬くて半透明で綺麗だにゃ」


「あら」

「いつの間にアメなんか作ってたの?」

「久しぶりに食べたいわね」


甘味に飢えていたシンシアが直ぐに食い付いた

全員に渡すと再びポケットから小さな革袋に入ったキャラメルを創造して皆に渡す


「今度のは茶色にゃ」

「これへ食べ物なのかにゃ?」


「この赤い飴は外界で食べたことがあるな」

「ソコでも非常に高価だったと記憶しておる」


ジンは飴を食べたことがあるようだ

だがキャラメルの方は首をかしげていた


「飴とはまた懐かしいな」


「そうですね」

「子供の頃リグルが時々お土産に買ってきてくれていましたね」


私は露店で苺の串を買うと飴を一つ手に取り〈加熱〉の魔法を使い苺の上で溶かした


「綺麗な苺飴ね」

「私にも作ってくれるわよね?」


「勿論これはシンシアの分だよ」


出来上がった苺飴をシンシアに渡すと少女のように喜んでくれた


「あっ」

「あれは何なのにゃ???」

「始めてみるにゃ」


「これは苺飴と言うお菓子よ」

「中身は何でも良いから溶かした飴でコーティングするの」

「カリッとして甘いし中の素材の味や食間も楽しめて美味しいわよ」

「私の故郷ではお祭りの定番ね」


更に5本の果物串を買い同じように飴でコーティングしていく


そうする内にあっという間に人だかりが出来てしまった


「アーリエルちゃん?」

「またやらかしやがりましたわねw」


苺飴を噛りながらシンシアが笑ったリグルは定番のりんご飴を頼まれたので小さいのを選んで作った


ラルクにはバナナ飴

ジンとフェリシアには苺飴を作って渡した


「なっなぁあんた」

「俺にも作ってくれないか?」


「わっ私も欲しい」

「お金なら払うから」


「そんなこと言われても材料が無いわ」

「他を当たってくれるかな?」


「他って」

「誰もこんなの作ってるところ見たこと無いわ!」

「どこで手に入るって言うのよ?」


「とにかく材料が無いと話になら無いわ」

「御免なさいね」


「ならそのあんたの食べかけでも良い!」

「せめて1口分けてくれ!」


なんだか大変なことになってしまった


食べ物への執念はここまでなのか?

それとも甘い物だからか?


「これはヤバいね」

「どうしようかしら?」


回りを見渡すが既に店からも離れてしまっているため戻るに戻れない


「こうなりゃ自棄だw」

「皆の者控えよっ!!」

「妾を前にしても未だそのような我が儘を申すかっっ!!」


「えっ?」

「アリエルちょっと!」


「アリエル様何をするのにゃ?!」


狼狽えるシンシアとフェリシア


ジンとラルクは察したようでアイコンタクトを取っている

ラルクは何が起こっても対応出来るように身構えた


「姫様お止めをっっ!!」

「ここは私めが納めまするゆえ!!」


ジンの言葉に合わせて変化する


1m程宙に浮き両手を合わせ胸の前で印を結ぶ


一瞬〈閃光〉の魔法でフラッシュさせると印を解き腕を組んで見下ろした


「頭が高い!!」

「控えよっ!!」


そう叫んだその姿は白銀の髪を靡かせ黄金の瞳で睨み付ける九尾の妖狐であった


ー・ー


「ははぁぁあああ!!」

「ご無礼どうかご容赦の程を!!」


ある者はひれ伏し

ある者は逃げ惑い

ある者は気絶し

ある者は命乞いをしていた


フェリシアの反応からみて効果が有るとは思ったが・・・・・


まさかこれ程とは


「もう良い」

「妾に道を開けよ」


「ははぁぁあああ!!」

「どうぞっ」

「どうぞっお通り下さいましっ!!」


「大儀である」

「そのまま暫く控えておれ」

「妾は忍んで民草の営みを垣間見ておったのじゃ」

「願わくばこのままそっとしておいてたもれ」

「・・・・・・・・・」

「きっとじゃぞ?」


わざとらしくはあるが仕方がない

これで聞いてくれれば良いのだが


懐から扇子を取り出しバッと広げる


ヒラヒラと舞い落ちる木の葉のような仕種で扇子をヒラめかせクルリと回転すると尾は一つになり髪は輝きを失い白銀から純白へと変わった


そしてどこからともなく白い霧が流れてきて辺りを閉ざした


「今のうちに行きましょう」


皆を引き連れて足早に立ち去ったのだった


ー・ー


「アリエルちゃーん」


「ごめんね」

「ほんとゴメン」

「やり過ぎたわ」


流石の私も今回は大失敗である


飴に加え妖狐顕現で霧に撒いて逃げるとか非常識甚だしい


「これが話に聞くアリエル様のやらかしですか」

「次元が違いますにゃ」


「ホントそうですな」


ジンもフェリシアも呆然としていた


街中を濃霧で包むと一気に街を横断して手近な建物に隠れて全員の姿を変えた


念のため領主の館までジンとフェリシアにも認識阻害魔法をかけておく


「今度は白猫なのね」

「アリエルは三毛猫?」


シンシアは懐から鏡を取り出し姿を確認しながら呟いた


「ワシはなんじゃ?」

「この毛並みは犬系か?」


「・・・・・・・・」

「すいません」

「リグルが一瞬狼猿に見えました」


「それは失礼じゃな」


「リグルが大きすぎるのじゃ」

「私も狼猿に見えた」


「やっぱりリグルは熊のままでいきましょう」


「それだとバレませんか?」


「こうすればどうかな?」


リグルを月ノ輪熊の獣人に変えると片眼を跨ぐ大きな傷痕を作った


「これならバレないかも」

「でも鎧がねぇ?」


漆黒の鎧を深い朱に染める


「器用なものじゃな」

「私も外界で色んなものを見てきたが・・・・」

「こんなにも複雑で精巧な幻術を容易く扱う人間は初めて見た」


「そらそうにゃ」

「白銀の妖狐様なのにゃ」


何故かドヤ顔で言い放つフェリシア


白銀の妖狐って・・・・・


悪い気はしないのだが自分ではない誰かの威光をかざしているようで居心地が悪い


最後にラルクを山猫タイプの猫娘にした


「これで準備は出来たかな」

「じゃあ行きましょうか」


潜伏していた家屋を出て先へ進むのだった


ー・ー


「ねぇ聞いた?」

「白銀の妖狐様がお忍びで視察なされているらしいわよ?」

「妖狐様はお姫様らしいわね」

「御付きの方がいるって話よ?」

「向こうの通りにお出でになられたらしいわよ?」

「行ってみましょう!」

「でも妖狐様はそっとしておいて欲しいって・・・・・」

「見るだけよ見るだけ!」

「なんたって伝説の妖狐様よ?」

「一目だけでも目に焼き付けたいわ・・・・」


通りのあちら此方で噂話が花を咲かせている


そっとしておいてくれと言っても構わぬわけにはいかないのが民衆の性である


「なんだか騒がしいわねー」

「何かあったの?」


「おや?」

「あんた知らないのかい?」

「あっちの通りで伝説の妖狐様が現れたそうだよ」

「アタシも店が無けりゃあ見に行けるんだがねぇ」

「はぃよ」

「鳥串お待ち」


「ありがとね」


何食わぬ顔で屋台の買い食いを再開する私達


この通りは市場でもあるらしく食べ物だけでなく食材やスパイス等も扱っていた


「ちょっと買いすぎたかな?」

「予備のバックまでパンパンだわ」


珍しい香辛料や塩に砂糖と果物の類いをたっぷり買い込んだ為荷物で一杯になってしまった


「アリエル様」

「そんなに買い込んでどうするのにゃ?」

「旅はまだ長いにゃよ?」


「ソコは気にしなくても大丈夫」

「館についたら整理してスッキリするわ」


「整理でどうこうなる量じゃないのにゃ」

「それとも今夜全部食べる気なのにゃ?」


ストレージの事を知らないフェリシアは釈然としないようだがそれも仕方がないだろう


食べ歩きも終わりアレコレと買い物を済ませると陽は傾き始めていた


「そろそろ館へ行きましょう」

「あまり遅く行くのも失礼じゃろうから」


ジンに促され領主の館を目指す


このグリムワースには防壁らしき物が無い


木造2階建ての細長い建物が防壁的な役割を担っているようだが戦闘に耐えられるとは思えない

どちらかと言えば移動や見張りが主な役割のようだった


それは争い事の無い平和な国であることを示していた


「大きな街ね」

「あの騒動から逃げるのにけっこう離れたはずなのにまだ館までは遠いわ」


買い物と食べ歩きの為に中心地を迂回して回り込んでいたのもある


しかしそれでも街の大きさは相当なものでドルジュまではいかないもののヴァルムートぐらいの大きさはある


「街の西側まで来ているからちょっと遠回りなのにゃ」

「あのまま南側を進んでいたら今頃ついているのにゃ」


寄り道のし過ぎだと言わんばかりにむくれるフェリシア

ジンはそれを宥めていた


「流石にルートを修正しましょう」

「南大通りから北上する方が早いのじゃ」


ジンに連れられ通りを抜けて大通りに抜けた


やはり領主の館へ続く正面だけあって活気が違う

昼の3時を回ったと言うのに人は途切れること無く行き交っている


「これだけの人がいてコモン人がいないのはなかなか凄いわよね」


「基本的には獣人しかいないからの」

「エルフやドワーフでも限られた者しか入れぬゆえこの国では珍しい」

「まぁ獣神様の国じゃからな」


ジンの言う通り本当に獣人ばかりだ


中には長い奴隷時代や乱獲の時代に逃れるためこの国に逃げて来た種もいるのだとか


「猛獣や魔獣がいるのはやっぱり生態系を維持するためなの?」


「そう言う難しいことはよく分からないにゃ」

「気になるなら直接獣神様に聞くと良いのにゃ」


確かに機会があれば聞くのも良いだろう


これだけの世界でこれだけの人口であれば生態系は必然的に必要になる


ただ


危険な魔物を生態系に組み込む必要性は無いはず

何か理由は有るのだろうか?


「立派なお屋敷ね」

「この異空間が街ではなくて国だって言うのも頷けるわ」


領主の館は小高い丘の上に建っていた


鉄格子の柵に囲われたその敷地は戦争などの無い平和さを象徴している


「この鉄柵ってあまり防犯には役に立たないよね?」


高さは4m程で装飾が施されており防衛と言うよりも敷地の境界線を示すと同時に獣の侵入を阻むのが目的のようだ


実際殆どの獣人種はこの程度の高さは飛び越えられるだろう


「まぁ獣避けじゃな」

「この国では盗みや傷害を犯した者は厳しい罰が与えられる」

「殺人等はもっての他じゃ」

「たまにそう言う犯罪は起きるが剣牙族を初めとする警備隊から逃れるのは容易ではないからの」

「この国の警備隊の主な仕事ははぐれ魔物の討伐や防衛じゃわ」


成る程


確かに犬系の獣人に追われて逃げきれる者等そうはいないだろう

必然的に治安も良いわけだ


「なんだか理想郷みたいな国ね」

「国交を開いたら入国希望者で溢れてしまいそう」


「人の間ではそれだけで戦争が起きるのにゃ」

「その上獣神様がお隠れになっている事がバレると他の神、特にミリアが黙っていないのにゃ」


「国交を開けば間違いなく聖戦(ジハード)を仕掛けられて滅亡してしまう」

「我等は隠れるしか生きる術は残されとらんのじゃ」


フェリシアとジンの表情は沈んでいた


いかに発展し平和であったとしても孤立していてはいつかは下降し終息する


孤立した平和は緩やかな滅亡を意味しているのだろう


「門番すらいないの?」

「流石に不用心じゃないかな?」


全く衛兵がいないわけではないようだが鉄柵の門扉は開け放たれたままになっている


街には門番がいたが外壁は無くやはり柵程度の物しかなかった


領主の館は更に門番すらいない


平和ボケしたりはしないのだろうか?


「ん?」

「見張りはちゃんといるんだね」


「こっ」

「この距離で見張りに気付いたのか???」


私の呟きにジンが驚いた


それもその筈


この街の見張りは外周の物見櫓と街中の尖塔に設置されている

見張り番は主に鷹系の鳥人が勤めていて見廻りも半数が空から防空警備隊が行っているのだ


私達を見ていたのも最低でも100mは離れている


「熱い視線には敏感なの」

「警備なんかを調べちゃうのは単なる癖だし別に悪さをするつもりなんか無いわ」


微笑みながら言っては見たものの流石に超人離れした索敵範囲に引かれてしまった


「まぁアリエルだもんね」

「これくらいの視線感知くらいお手のものよ」

「気にしてたら疲れちゃうわよw」


シンシアが笑顔で流す


最早2人も笑うしかなかった


ー・ー


パチンッ


「とりあえず入る前に幻術を解いて良かったわよね?」


「そうにゃ」

「普通なら入った時点で幻術が破られるはずにゃんだけども・・・・・」


「アリエルだからね」

「ちょっとやそっとじゃ破られたりしないわ」


「そっ」

「そうみたいにゃ」

「本当なら幻術は解けて警報が鳴って警備兵がすっ飛んで来るにゃ」

「なんで警報も鳴らないのにゃ?」


「偽装魔法もかけてあるからね」


「偽装魔法も普通なら解除されて警報が鳴るはずにゃ・・・・・・」


「まぁアリエルだからね」


何かがある度このようなやり取りがされていた


門扉をくぐり抜け歩いて行くと正面には噴水がありその周りには花壇や生け垣がある


「綺麗な庭園ね」

「・・・・・・・・」

「アレは躑躅(つつじ)?」

「本当に日本の動植物多いね」


「ニホンですか」

「やはりアリエル様は獣神様と同じ国からの転生者のようじゃな」

「昔獣神様からニホンの話を幾度か聞いたことがある」


ジンの言う昔とはどれくらい前の事なのだろう?


遠くを見つめるその顔からははかり知ることは出来なかった


「良く手入れされてるわ」

「あの人達は庭師みたいね」


50mぐらい離れたところで剪定している人がいた

他にも草を引いたり水を撒いたりしている


噴水の近くにはベンチや東屋がありさながら公園のようである


「あら?」

「どなたかお茶を飲んでいらっしゃるようですね」


玄関前の東屋で家の者が休憩をすると言うのは違和感がある


そもそもティータイム等は中庭や奥の方でやるもので玄関先のような落ち着かない場所では不自然である


それを言えば玄関前の広場に噴水とベンチを置いているのもおかしな話なのだが


「またですか」

「アレはこの街を統べるグリムワース候にゃ」


呆れた口調で鼻を鳴らすフェリシア

対してジンの顔は少しひきつっていた


近付いていくと耳と髪が黒い狼系の獣人が椅子に背を預けティーカップ片手に本を読んでいる


仕立ての良いスーツに身を包み胸元は大きく開いてフサフサの毛が風に靡いている


「おお」

「フェリシア様にジン殿ではありませぬか」

「予定よりも随分早いおこしですね」

「見張り番から報告を受けてお待ちしておりました」


白と黒の美しい体毛からシベリアンハスキーのような印象を受ける彼は本を閉じてテーブルに置くと立ち上がって礼をしてきた


どうやらこの気さくな人物がこの街の最高権力者のようだ


「アルベルト・ヨアヒム・フォン・グリムワース伯爵と申します」

「どうぞお見知り置きを」


館の玄関前で館の主から名乗り礼をされる等普通はあり得ない

戸惑いながらも会釈を返した


「アリエル・フォン・イルシュタント」

「旅の鍛冶屋にございます」

「以後お見知り置きを」


「やはりこの匂い」

「リグレット殿ではありませぬか!」

「お久し振りです!」


私の挨拶が済むや否やバッと駆け出しリグルの手を取る伯爵に皆驚いていた


「アルベルト様」

「いかに旧知の仲とは言え他のお客様もいらっしゃるのですからご自重頂けませんか?」


ジンのジト目に晒されそれまで勢い良く振られていた伯爵の尻尾が垂れ下がる


「わっ」

「分かった」

「分かっておるジンよ」

「ンンッ」

「こんな庭先で立ち話もなんだ」

「どうぞ中へ」

「お待ちしておりましたぞ」


急に姿勢を正した伯爵に導かれ玄関へと向かったのだった

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