新たなる目覚め。
「タロー様っ!!」
「おわあぁっ!?」
朝が弱い俺だったが、流石にその日の朝は眠気が完全にすっ飛んだ。
目を開けた俺にヘソまでしか丈がない前掛けだけのほぼ全裸。そんな美少女が俺に覆いかぶさってきたからだった。怪我の治療で寝かされていた3人のゴブリン達の顔も見たが、現在俺の知るゴブリンにこんな子はいない。
「だ、誰!? 痴漢? イヤ、痴女か? ま、まま、マットぉぉおぉ~~~~!!」
「え!? ちょっと待っ…」
「魔王様! どうなされましたか!?」
俺は堪らず仲間を呼んだ。
するとすぐさまにテントの幕が広がりゴブリンAことマットが駆けつけてくれた。
「ばっ…馬鹿者ぉ!? 陽が出たばかりだというのに魔王様になんて粗相を! 早く魔王様を解放せぬか!!」
「ぎゃ!? お父さんゴメンナサイ!」
マットがその子?を慌てて鷲掴みにして放り投げる。
…え? お父さんって言わなかったか? この子…?
「ちょっと待て。マット…お前、ティア以外にもこんな大きな娘がいたのか?」
「「えっ」」
何故かそこでハモるゴブリンとゴブリン? イヤ、ゴブリンだろうが…ハンスの仲間かなんかかな。尖った耳と青緑色の肌以外は人間そのものだ。スラリと伸びる肢体と前掛けを挟み込んでいる扇情的な双丘…否、双球を持った美少女だった。正直言ってマットが助けにきてくれなかったらヤバかったな…ドキドキ。
「魔王様…この者は私の娘のティアでございますが?」
「うっそだろお前…」
一晩で成長し過ぎだろ…ティア。
※
何とか落ち着きを取り戻し、マント代わりの毛皮を羽織らさせたティアを伴いテント…ってまた運んで貰ったのかな俺。外に出た俺はさらに驚いた。
そこには跪く多くのゴブリン達の前にまた見た事のない姿をしたゴブリン達が並んでいたからだった。イヤ、俺は多分このゴブリン達を知っている。俺が声を掛けるとそのゴブリン達が一斉に立ち上がる。
「おいおい…ティアだけじゃないのかよ。お前…アーグか? 立派になったなあ~」
「はっ!これも魔王様のお陰です!」
アーボの息子で剣ゴブリンだったアーグはなんと背が180センチ越えの筋肉バキバキの細マッチョイケメンになっていた。何故か髪型がロングモヒカンだったが、まるで本物の騎士のように俺が下賜した剣を構えている。
「…アーキンか? どうしたのその服は…」
「はい。偉大なる我らが魔王様。この衣服は昨夜謁見を許された神々からの祝いの品で送られたもののようでございます」
アーキンはこの場では場違いに思えるほど荘厳な聖職者のような衣装を身に纏っていた。どう見ても伝説のゴブリン聖職者にしか見えない。というか…雰囲気もまるで別人だった。
俺が昨日こさえてやった聖印を大事に胸に抱きながらティアとはまた違ったベクトルの熱視線を俺に浴びせている。オマケに背後のウリン達もだ。ちょっと怖いぞ…お前達。
「そして、エマもか…」
「はい。魔王様」
そこには槍を持った壮絶な黒髪美人が居た。もともと容姿が群を抜いていたエマだが、もはや世界の三大美女とかそういうレベルだった。…というか俺に紛れて後続の若いゴブリン達からもエマへの視線を感じるぞ。
「じゃあ、ドガもか? ここにはいないようだが…」
「魔王様。夫は既に肉体が変化していましたが、未だに目が覚めません…理由は私にもわかりませんがじきに目を覚ますことでしょう」
「お。そうk…」
「魔王陛下ぁ!!」
そこにそれまで敢えてひとりだけ異様な雰囲気をかもしていたのでスルーしていたゴブリンが俺に突っ込んで来た。でけえな、オイ…。
「何故です!? 何故、マットは我らのように姿が変化しておらんのですかぁ!我らは昨夜、夢なのか現実なのか…死者の星へと参りました。私は亡き妻ナーリアにまた会うことが叶いましたがマットだけ妻のベルとすら会えておらぬというではありませぬか!? 何故そのような仕打ちを…!」
「黙れ!このアホンダラ!」
俺の脚に縋りつく2メートル級の力士体形になったアーボに横から割と本気でハンスがその顔を殴る。
「ぐわっ!? 痛えなこの野郎!無駄に頑丈になりやがって…。カウンター系のスキルでも付きやがったのかあ~。それに関しては起きてから散々マットとも話しただろーがよお!」
「ハンス!だが、魔王陛下の御力を持ってすれば…!」
「アーボ。それにハンスもだ。これ以上、私のことで魔王様を困らせてくれるな…」
理由はよくわからないが、アーボ達は一晩でハンスのような姿にグレードアップしたようだ。
そういや、姿が変化したのは俺の身近にいたゴブリンばかりっぽいな? なら、マットはなんで変わっていない…?
「おい、ヴェス…なんでマットだけ姿が変わってないんだ? なにか条件があるのか? いい加減に教えろよ」
『……それは…』
「魔王様」
何故か微笑んだマットがそれを制する。
「ハンスから伺いました。どうやら我らドクの者達、此度はアーボ。アーグ。アーキン。ドガ。エマ。…そしてティアがどうやらハイ・ゴブリンへと進化したようです。これも魔王様が我らを救ってくれたお陰でございます。改めて有難うございます。我らが魔王、タロー様…!」
「マット…」
マットは俺に向って深く頭を下げた。
「弟のアーボは年齢的にどうやらギリギリだったようですが、幸運なことに更なる頑強さを手に入れる事がかないました。ハハハ…正直言って私も悔しい気持ちはありますが、これも魔神の巡り合わせにございましょう」
マットは笑顔で俺に顔を向ける。
「私にはゴブリンとしての時が残されておらぬのです。ですが、魔王様がここブイヤにお越しになられた事で長く生きた年月が無駄にならずに済みそうです」
俺は思わず言葉を失ってしまい。ヨロヨロとマットに向かって手を伸ばしてその両手を掴んだ。




