ハイ・ゴブリンへの覚醒。
連休中は仕事でブツ切りされてどこも行けないし、ずっと書いてやろう思ってたんですが…
はじめて手をつけたDon't Starveを朝から始めたらもうこんな時間ですよ(ドヤ顔)
~レギュラー以外の登場人物
●デッチ
ザッカのゴブリン。冒険者に殺されてしまったルッチの息子。マットに憧れている模様。
●ウリン
ザッカの巫女ゴブリン。アーキン同様タロス神(=タロー)リスペクトの女史。
時間が残されていない…?
俺はそう言って笑うマットの手を取っていた。
「なんでだよ、マット…! おい!ヴェス!! どうにかできねえのかよ!?」
『………そりゃあ、魔王ならできるわよ。それなりの代償を払えばね』
「ならそれを俺に教えてくれ!」
『…無理よ。アンタには魔王の基礎システム以外の…つまり魔王としてのスキルがないもの』
俺は思わず膝から崩れ落ちそうになる。
…そういや忘れてたわ。ヴェスから初っ端から言われてたことだった。
「…アレ? でも、ティア達は進化したじゃん! それって魔王の力じゃないのかよ」
『勿論そうよ。でも魔王のスキルじゃないわよ。あんだけ出し惜しみなく魔王の食物をモンスター・レートの低いゴブリンにモリモリ喰わせてたんだもん。適当に放っておいてもハイ・ゴブリンになってたのよ。…まあ、アンタへの異常に高い忠誠度の影響でほんの数日で進化したのは予想外だったけど』
「魔王様…」
「マット。スマン…俺の力じゃあお前を助けてやれん」
「…? …おい、ハンス」
「……なんだ、アーボにも仲間がいたのかよ…。あのねぇ、感極まってるところ水差して申し訳ねえんですが…魔王の旦那? マットは別にもう寿命が残ってねえとかじゃありやせんよ」
「…………。 …え?」
俺は見事にズッコケると慌ててマットとティアに支えられる。
どういうことなのよ?
「アーボには何度言っても理解できなかったようなんですが、私は進化…というよりはゴブリンとして完成してしまったみたいなのですよ。アハハ…」
「旦那。そりゃあ、ハイ・ゴブリンたって種類によっちゃあ潜在能力とかスキルとかピンキリみたいなもんなんですよ? マットはゴブリンじゃむしろ進化したりするよりよっぽど困難と言われるマスター・ゴブリンになっちまってたみたいで。…かくいうアッシも呆れちまってるんだがなあ」
俺は脱力しながら頭上のなんちゃって解説補助役に目線を向ける。
『どこがなんちゃって、よ! 別にマットが進化できなかったのはアンタのスキルの有無とか残りの寿命だとか関係ないのよ。…マスター・モンスターって極めて稀な例なのよ。この子は本来既にハイ・ゴブリンに進化しててもおかしくない能力値とレベルの枠を持ってたのに、食糧難だったからなんでしょうね…レベルが低過ぎたのが、アンタがモリモリ喰わせたことでレベルが進化限界点を突破しちゃったわけ。まあ、外見は普通のゴブリンだし…装備制限もスキルもそのままなんだけど、下手なハイ・モンスターよりも強いわよ、マジで』
「そ、そうなんだー」
『…アンタ、ちゃんとわかってないでしょ。アンタの頭の中読み込めんのよ? アタシ』
どうやらわかった振りはヴェスにはバレてるようだった。というかプライバシーの侵害じゃね?
「タロー様。ヴェス様はなんて?」
「お、おお…なんかマットが他のゴブリンに比べてえらい強いって言ってるっぽい」
「ふうむ…私としてはハンスから話を聞いてもさっぱりなのだが」
「…マットよお。試しにお前さん、あそこの岩に矢を撃ってみな」
ハンスはここから5百メートルくらい離れた場所にある岩をスンっとした顔で指さした。
「…ハンス。流石にこの距離で石の鏃では岩には刺さらんだろう。まあ、当てるくらいなら造作もないが、なっ!」
マットが仕方ないといった顔で軽く弓を引き絞り、パン!と軽く乾いた音を立てて飛ばして見せる。
…え、ちょっと待ってくれ。確かこの前見たネットの情報だと長弓…って言うのか日本の弓道とかのヤツ。あの2メートルある弓で確か400とかそこらじゃなかったっけ? 凄くね?
マットはゴブリンだ。だから俺よりも頭ひとつ分は背が低い。そのマットが背負う弓はハンスが腰の後ろに引っ掛けている短弓よりはデカイけど…いわゆる普通の弓矢だと思う。まあ、この世界にくるまでリアルの弓矢なんて見た事もなかったけどさあ。
俺がそんな事を考えてる間に矢は半円を描くでもなく、真っ直ぐに岩に当たる。
「「ん?」」
何故か撃った本人のマットとハンス以外のゴブリン、特に戦闘に立ちそうな面々が首を傾げている。心なしか撃たせたハンスの顔が青い。 …あ、もともと青緑だったわ。
「…デッチ坊。悪いが今当たった岩の様子と矢を拾ってやってきてくれ」
「うんいいよ!」
キラキラした眼をしながらザッカのゴブリンの子供であるデッチが岩の方へとタタタッと走っていく。しかし、岩の側で不思議そうにキョロキョロと周囲を見渡している。…矢が見つからないのか? と思った矢先、今度は岩のさらに向こう先へと駆けていき、数分後に息を切らせて戻ってきた。
「はい!マットさんの矢」
「す、すまんなデッチ。…岩の向こうにあったということは外してしまったのか? 的中音もしなかったしな…申し訳ございません、魔王様。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」
「え? でも岩にはちゃんと当たってたと思うよ」
「デッチはどうしてそう思うんだ?」
俺はさっきよりもさらに3倍くらい目を輝かせているデッチに聞いてみた。
「だって、タロー様!ちゃんと岩には矢が当たった跡があったんですよ? 穴を覗いたらちゃんと向こう側まで続いてましたから。やっぱりマットさんは凄いな~!」
「「…………」」
「マット、どういうことなの」
「えー…とですね」
「貫通したんですよ。弱弓で単なる石と枝の矢で、ねえ…。今のマットならよその魔王が自慢気に繰り出すストーンゴーレムも下手したら一撃でしょうよ」
ヤバイな、マット。最近のシリアスさが完全に吹っ飛んだわ。…コレがゴブリンとしてカンストしたマットの実力なのか。
「お、お父さん凄いよ!これならお母さんも星の皆に鼻高々だよ!(必死)」
「いや、しかしティア。私はお前達のように優れたスキルなどは増えてはいな…」
「お前さんふざけんなよっ!? どこのいとも容易く最低限の弓矢で岩を貫通するゴブリンに他にスキルがいるんだってんだあ!」
「そうだよそうだよ!? 凄すぎるぞマットのオジキ!」
皆が困り顔のマットを囲うなか巨体が立ち上がる。進化した弟のアーボだ。
「ちょっと待てい!マットが強くなったのはわかったが、寿命の件はどうなったのだ!? ハイ・ゴブリンになった私は魔王陛下に今後も長く仕えていられるだろう! しかし、マットはどうなる!強くなったところでゴブリンだ。結局はあと数年の命では無念でならん!!」
「アーボ…」
俺は怒りながらも泣き出しそうなアーボの肩…は無理だったので二の腕辺りをポンとやってやる。
「…あのな、アーボ。そりゃあ並の領で細々生きていかなきゃならんゴブリンに限っての話だと何度も言ってるだろい。確かにハイ・モンスターと他では種族差もあるだろうが寿命は3倍近く差があるさ。アッシを見りゃそれはわかんだろう。でもな、コイツを見てみなよ…どうしたってあと10年、20年平気で生きんだろ」
「そうだな。魔王様にも誤解を招くことを言ってしまいましたが、正確には“ハイ・ゴブリンへと進化する時がない”と言った方が正しかったでしょうかな? 私の父ナクも私の年齢くらいになると自ずと死期を感じているなどと言っておりましたが…いやはや、全くそんな感じもしませんしな。…先だった妻には申し訳ないのですが、まだ当分は魔王様のお役に立てるかと思います」
「なんだよ…そうだったのか」
『誰もこの子が死ぬとか言ってないでしょ』
いや早く言えよ。そーいう重要なことを。
俺とアーボは安心して破顔すると、マットやティア、他のゴブリン達まで笑い出してしまった。
「遅れて申し訳ありません」
「へひっ!?」
イキナリ背後から近距離で声を掛けられたので思わず飛び上がりそうになる。
「誰だ!?」
「あ!ドガ、目を覚ましたのね!」
エマが感極まって抱き付いたのでそれが残りの進化したゴブリン、ドガだと俺はやっとわかった。
…他の奴らもそうだけど、ドガはまた違うベクトルで雰囲気が変わったなあ。身長が伸びたというよりは痩身になった感じで、アーキンと同じで見た事がない真っ黒なゆったりとした服を纏っている。イメージ的には男の人が着るチャイナ服かな? 口元も大きな黒い布で覆われてい何だかとってもMYSTERIOUS…!
「…ドガ、見違えたぞ」
「ええ、兄さん達もね。…タロー様、私は短刀ゴブリンからこの度、ゴブリンコマンドへと進化しました。妻のエマはゴブリンランサー。兄のアーボはゴブリンディフェンダー。アーグはゴブリンフェンサー。アーキンはゴブリンオラクルへと進化したようです…」
「え。ドガ、やけに詳しくね?」
「はい。私が進化によって新たに得たスキル“看破”によるものです」
「マジかよ!? 凄い便利そうなスキルじゃないか! なあヴェス。……おい、ヴェス?」
『…………。 ええ、そうね。良かったじゃない一方的に相手のスキルとか把握できる強力なスキルよ』
なんかドガに対するヴェスの反応が変じゃなかったか? 一瞬だがかなりキツイ視線でドガを睨んでたような…ま、気のせいか。
「まあ兎に角!こうして皆揃ったわけだ。詳しい事は後からにして早速朝飯にしようぜ。それにルッチ達の葬儀もあるしな…アーキン」
「寛大なご配慮に感謝します」
アーキンとその後ろに続くウリン達や他のゴブリンも揃って平伏する。
大袈裟だなあ。俺は困ってアーキン達を立たせようとした時だった…。
「た、大変だああ~!!」
外周から数人の若いゴブリン達が駆けてくる。見張りに立ってくれてたのか…?
顔を引き締めたマットがやはり代表して問い掛ける。
「どうした。何があった?」
「ゼエゼエ…! や、奴らだ!俺達を襲った奴らが来やがった!!」
一瞬にして場は騒然となった。
…どうやらハプニングは連続して起こるのが鉄板ネタらしいな。
唯一の救いがあるとすれば、マット達が全く慌てることなくそのザッカを襲った冒険者とかいう糞共がやって来る方向を見てることだった。全くもって心強いぜ…!
というかさ? さっきのマットの弓矢だけで勝てんじゃないのか?
全然これっぽっちも負ける気がしないんだが…。




