第4章 島の真実(1)
少年の息が整うと、少年は俺に尋ねた。
「怪我してない?」
俺は頷くことで応えた。
「君は?」
「僕は大丈夫だよ。本当に、間に合って良かったよ。もうダメだと思った」
少年はまた笑顔を向けた。
「君は、人間?」
化け物だったら本当の事を言うはずがないのは分かっていたけれど、訊かずにはいられなかった。
「そうだよ。僕は、あの時おじさんと一緒にいた君の手を引いた、れっきとした人間だよ。君は僕の偽物に騙されちゃったみたいだけどね」
「あれは、一体なんなんだ?」
「あれは、この島で僕らを食べる化け物だよ。誰かになりすまして食べたりもするけど、本物にはなりきれない。だから、どこかが違うんだ」
そう言われて、偽物に会った時の違和感を思い出した。
「そういえば、肌の色、不自然に濃かった気がする。直感、だけど」
少年は頷く。
「なんとなく違和感を抱くのが偽物の特徴だよ。僕はみんなより入院生活が長くて、外で遊んだり、日焼けしたりできなかったから、こんなに肌が白いんだ」
まるでさっきまでのことがなかったかのように、少年は和やかに話してくれた。
「えっと、君の名前は?」
「あ、僕? 僕は咲田優一。君は?」
俺は一瞬戸惑ってから名前を教えた。
「俺は、田原祐一」
それを聞くなり、彼はさらに笑顔になった。
「まさかの名前一緒?」
「漢字は違うだろうけどね。俺の漢字はこれだから」
と、地面に書いてみると、彼は興味津々でそれを見ていた。
「そうなんだ。僕は優しいの優に、漢数字の一だよ。じゃあややこしいから、僕のことはヤサ、君のことは祐って呼ぶことにしよう」
優しいからヤサ。なんてネーミングセンスが悪いんだ。そのままじゃないか。少し吹き出して、承諾した。
「じゃあ、ヤサ?」
ちょっと照れ臭いけど、恐る恐る呼んでみると、ヤサはにこにこして俺を見た。
「何? 祐」
「色々、教えて欲しいことがあるんだ。ここのこと。昨日、俺と一緒に行動してた笠野さんがいなくなったんだ。多分、どこかに連れていかれたんじゃないかって思う。なんにもできなくて、せめて、助けられたら……」
ヤサは俯いた。
「それは無理だよ。あの人は、昨日で1年、ここで過ごしたことになるからね」
ヤサは悲しげに続けた。
「ここ、タソガレ島はなんでも好きなことができて、好きなものが食べられる理想郷みたいに思うけど、実はここにいられるのは1年間だけなんだ。1年を迎えたら、否応なしに連れていかれて、それで、食べられるんだよ」
それは衝撃的だった。笠野さんは確かに昨日で1年になると話していた。
「1度入れば出るのはかなり難しい。出た人を見たことがないよ。つまり、この島に閉じ込められるんだ。出たいなんて考える人はまずいないけどね。ここは理想郷じゃない。人間を社会から、世界からこっそり隔離して、全てを奪い、肥太らせて食べる、やつらにとっての牧場なんだよ。この島の名前は「タソガレ島」。でもね、これは違う意味を持ってるんだ。本当はね、自分を取り囲む他との繋りが削がれていく島、「他削がれ島」って意味なんだ。外界の人間がここに来ると、過ごす時間に比例して、外界との繋がりがなくなっていくんだ。周りの人々の記憶、物証、全てがなくなって、いつの間にかもとの世界に居場所なんてものはなくなってしまう。存在していたことすらなかったことになっていくんだ。皆はそれを知らないんだよ。誰も帰ってこなかったんだから当たり前だよね。狙われ易いのは、外界との繋がりを消し易い人。孤立して、影の薄い人、それから、世界に絶望した人だ。そうしていつの間にか世界から存在すらなくなっているんだよ」
「そ、そんな……」
うまく言葉が出なかった。まさか、笠野さん、本当に食べられてしまったって言うのか?
「この島はサトラゲが食料を安定して得る為の島だ」
サトラゲ?
「まさか、あの都市伝説の?」
誰も覚えていないような、孤独な人間に幻を見せて惑わせ、その人を食べてしまう女の化け物、サトラゲ。これは僕がタソガレ島に来る前に聞いたことがあった都市伝説の1つだ。
「タソガレ島のタソガレをアルファベットに書き直して並び替えてみるといいよ。サトラゲになる。2つの都市伝説は繋がっている証拠だよ。他にもさっきみたいに他の都市伝説の化け物はいるけど、サトラゲが頂点に立ってるって感じかな。で、話を戻すけど、この島はその女の化け物サトラゲの食事場所なんだ。1年間、しっかり肥太らせて食べる為の、ね。そして、連れていかれるその場にいた人は、1年経ってなかろうと、早急に捕らえられて食べられてしまうんだ。だから、ここには全然人がいないんだよ。誰も帰ってこないほど素晴らしい島なら、人は増えていくはず。でも、ここにいる人は祐と、今は僕くらいのもんでしょ? 周りには誰もいないわけだしさ。皆、定期的に食べられて数を操作されてるんだ」
ヤサは少し間を開けてから言った。
「だから、早くこの島から出て、元の世界に帰らないといけない」




