160 聖女一行の受難
病気と聞いたら、ミナトは黙っているわけにはいかない。
「その流行っている病気について、詳しく聞かせて?」
「はい、下痢と嘔吐、頭痛に、咳と発熱という一般的な風邪の症状なのですが……」
いつもなら、二、三日で軽快するのに、一向に治らないという。
「どのくらい治らないの?」
「一度発症したら治りません。最初に病気が流行り始めたのが二か月前なので」
「二か月。それは風邪とはいえないかも」
長引きすぎかもしれない。
「その病気は、死の風とは関係ないんだよね?」
「おそらくは。死の風で死ぬ場合はすぐに死ぬので……」
「その病気の原因は?」
「全く謎です。発症のタイミングもバラバラで……」
ミナトは少し考えたが、わからなかったので、あとでアニエスに相談しようと考えた。
「ふむ~。その病気の患者さんの数は?」
「徐々に増えて、今では三百人を超えています」
「多すぎる……。リザードマン村は全部で何人いるの?」
「五百人ほどです」
つまり半数を超えていると言うことだ。それは非常にまずい。
看病する者より、患者の方が多い。
そうなると看病している者達が休めない。疲れて看病している者が倒れてしまう。
「薬の材料もなく、村に助けを求めても、追い返されるばかりで……」
それが昨日の騒動らしい。
「むむう。良くないね? これまでに死んじゃった人と死んじゃいそうな人の数は?」
「五人ほど亡くなりました。死にそうな程、重い者は三人です。私の母も……」
「お母さんの症状が重いの? どんなかんじ?」
「はい。衰弱して、二日前から、意識を失うことが増えてきて……」
「……よくないね」
ミナトは少し考える。
病気がどんなものか全くわからないが、治癒魔法をかけた方がいいに違いない。
だが、子供達だけで向かうのは良くない。アニエス達に相談した方が良いだろう。
「うん。聖女様に伝えるね。なるべくはやく、必ず助けに行くからね」
「ありがとうございます」
ピトンの表情が明るくなった。
「あ、ミナト、僕の作ったレトル薬をわたしたらどうです?」
「そうだね! ピトン、これをお母さんにのませてあげて。多分病気なら良くなるよ」
ミナトは、ピトンにコリン作のレトル薬の瓶を三つ渡した。
ミナトは自作のレトル薬を配ろうと一瞬考えたが、考え直した。
ミナトのレトル薬は効果が高すぎるので、配るときは慎重にとアニエスに言われたからだ。
「これは? 聖女様のお薬ですか?」
「そそ、そんなかんじ。聖者様のお薬」
コリンは聖者なので、嘘は言っていない。
「それで、村の場所をおしえて」
ミナトは村の位置を聞いて、ピトンと別れた。
海竜王の村へ、コリンのペースで走って戻る。
「急いでアニエスに言わないとね!」
「そですね! でも、ミナトなら一人でみんなを治せるんじゃないです?」
「かもしれないけど。相談するって約束したし……」
「ばうばう!」
タロは「罠の可能性もある!」といっている。
病人が出たと言うのが嘘で、聖女を捕らえる罠である可能性をタロは考えたらしい。
「僕は罠だとおもわないけど、相談しないとね?」
子供達だけで突っ込むのは、他に手段が無くなってからだ。
「それにレトル薬を渡したし、時間の余裕ならあると思うし」
「そですねー。レトル薬の効果は凄いのです!」
ミナト達は、村に戻ると、まっすぐに海竜王の屋敷に入り、昨日寝ていた部屋へと向かう。
部屋に入ると、まだアニエス達は布団の中だった。
「アニエス、おきた~? え? 大丈夫?」
「え、ど、どうしたです!」
「……ぅぅぅ、ミナト……なにかおかしいの」
布団の中のアニエスの顔面は蒼白だった。
「みんなも? どうしたの? 大丈夫?」
アニエスだけでない。
ジルベルトも、マルセルも、ヘクトルもサーニャも苦しそうにうめいていた。
「病気!?」「大変です!」
ミナトは慌てて、魔法を使って診察を始めた。
「もう調べたのですがどうやら病気ではないようで……しかも治癒魔法が効かないみたいで」
苦しそうなアニエスが言う。
「むむ? アニエスの治癒魔法が効かないの?」
それは異常な事態だ。通常の病気ならば、アニエスの治癒魔法で治るはずなのだ。
「病気じゃないね……毒でもなさそう? 何だろう? 念のために治癒魔法をかけてみるね」
ミナトは全員に治癒魔法をかけてみた。
「楽になった?」
「……少しだけ。うぅぅぅ」
「一瞬楽になったぞ。ありがとう、ミナト」
ジルベルトたちも、少しだけ楽になったようだ。だが、楽になったのは一瞬だけ。
すぐに、つらさが戻ってくるようだ。
「どういうことだろ」
そこに、水や薬をお盆に載せた村人の女性が入ってくる。
「聖女様、お加減は大丈夫ですか?」
アニエスを看病するなら、男より女がいいということで女性が選ばれたのだろう。
「お腹の痛みと吐き気が収まらなくて……」
「熱も出てきましたね……一体どうしてしまったのでしょう。薬も効いていないようですし……」
女性は困った様子だ。
「ねね、こういう病気ってよくあるの?」
ミナトは女性が運んできた水と薬を魔法で調べながら尋ねた。
念のために毒が入ってないか確認したのだ。
もちろん、水にも薬にも毒は入っていなかった。薬はただの胃薬と風邪薬だ。
ミナトは【製薬】スキルを持っているので、薬の判別もできるのだ。
「おそらく食あたりだと思うのですが……」
「他に倒れたの人は?」
「村長と村の幹部達が軒並み……。聖女様と同じ食事を食べたもの達が皆、今朝になって倒れて……」
「ふむ~? それなら食あたりかも? ……でも」
食あたりなら治癒魔法が効くはずだ。
ミナトは考える。これは一体何だろう?
治癒魔法が効かないが、病気のような症状。
「このお薬は、この村で普通に売ってるやつかな?」
「そうです。食あたりのお薬です」
普通の薬は、効果も普通だ。
治癒魔法が効かないアニエス達の症状には、効果はほとんど無いだろう。
「ねね。この村で食あたりって流行ってる?」
「流行っているとは聞きませんね。もちろん探せば食あたりの患者もいるでしょうが……」
「むむ~。アニエス。とりあえず、このお薬飲んで」
ミナトは、自作のレトル薬をアニエスに渡す。
「それは?」
女性に尋ねられたので、ミナトは誤魔化すことにする。
「聖女様の特製お薬」
「それは効果がありそうですね」
アニエスは、ミナトが作ったレトル薬を飲み干した。
「どう?」
「一瞬、楽になったような……」
治癒魔法と同じだ。
「これでなおらないとは……わからない」
わからないならば、調べよう。
ミナトは、女性に見つからないよう、こっそりサラキアの書を取り出した。




