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【2025年1月16日4巻発売】ちっちゃい使徒とでっかい犬はのんびり異世界を旅します  作者: えぞぎんぎつね
四章

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156 ユーリスとアニエス

 ◇◇◇◇


 ミナト達がお風呂に入っている頃、アニエスとユーリスもお風呂に入っていた。


「はい、ユーリス様、目をつぶってくださいねー」

「一人で洗えるのじゃ」

「さすがはユーリス様です」

「次はわらわが、聖女様の背中を流すのじゃ!」

「聖女様ではなく、ただアニエスとお呼びください」

「ならば、わらわのことはユーリスと呼ぶがよい! 敬語も不要じゃ! 同い年じゃしな!」

「それもそうね!」


 外見年齢は全く違うし、精神年齢も違うが、アニエスもユーリスもともに十七歳なのだ。


「人族は成長が早くていいのう」

「そのかわりあっという間に年をとって死んじゃいます」

「ふむ~。だから、人は急いで成長するのやもしれぬのう」

「そうかも」


 アニエスとユーリスは互いに髪や背中を洗うことで仲を深めたのだった。


 体を洗った後、アニエスとユーリスは湯船に一緒につかる。

 ミナト達が入っているお風呂よりは小さいが、充分に広いお風呂だ。


「それで……ミナトとやらは何者なのじゃ? ただの子供ではあるまい?」

「やっぱり気づいちゃいましたか。さすがユーリスね」

「うむ、あれは【竜の咆哮】じゃ。しかも並の竜のそれよりはるかに強力なのじゃ」


 ユーリスはうなりながら、推理を進める。


「ううむ、どこぞの竜王の子かや? いや、竜という感じでもないのじゃ。うーむ」

「ユーリス。秘密を守れる?」


 アニエスはユーリスの正面に回って、じっとその目を見つめた。


「うむ。至高神と先代海竜王に誓うのじゃ」

「ありがとう。実はミナトはサラキア様の使徒なの」

「使徒? 使徒というのはあの使徒かや? 神の代理人たる、あの?」

「その使徒なの。驚いた?」

「驚いていないわけではないのじゃ。だが、腑に落ちることが多いのじゃ」


 サラキアの使徒ならば【竜の咆哮】も、絶大な威力の神のベールも説明がつく。


「使徒でもミナトはまだ子供なの。だから目立たないよう私が表に出ているってわけ」

「なるほどなのじゃ」

「村長にも内緒ね?」

「もちろんじゃ。あ、あのタロというのもただ者ではあるまい?」

「そうね。タロ様は至高神の神獣なの」

「なんと! どうりで立派な面構えをしていると思ったのじゃ」

「もちろんこれも秘密」

「わかっておるのじゃ!」


 そう言った後、ユーリスは真剣な表情でアニエスを見た。


「代わりにわらわの重大な二つの秘密を明かすのじゃ。他言無用じゃぞ?」

「ユーリスの秘密? 実は王ではないとか?」

「な、なぜそれを!」

「だって、氷竜王が、まだ王は決まっていないっていってたもの」

「そうだったのじゃな。せっかく王の振りをしていたのに、無駄じゃったか」


 ユーリスはふぅと大きく息を吐いた。


「先王陛下が、わらわを次の王に指名したのは本当じゃ」


 だが、それは成長してからのこと。

 成長するまでは、海竜達と相談して、何事も決めるようにと命じていた。


「だが、オーガスは皆を連れて村を出て行ってしまったのじゃ……」


 一頭残されたユーリスは、村長に言われるまま、王を名乗ることになった。


「オーガスが出て行った理由はなに?」

「先王崩御の後、わらわが本来の姿に戻れなくなったのじゃ。それでやもしれぬ」

「え? 本来の姿って、竜になれないってこと?」

「それがもう一つの秘密じゃ」


 竜にとっては当然竜形態の方が自然で楽なのは間違いない。


 人の形態をとれる竜は非常に力の強い一部の竜だけだ。

 幼いのに人の形態になれるユーリスの方が異常と言える。


「……何か原因はあるの?」

「わらわは幼い頃から人形態になれたのじゃ。それでずっと人形態になっていたゆえ……」

「戻れなくなったかもしれないの? 」

「かもしれぬのじゃ。いや、そんな話は聞いたこともないし、全くわからぬのじゃ」


 そう、ユーリスは寂しそうに言った。


「ちょっと診ていい?」

「ん? いいのじゃ」

「じゃあ、失礼して」


 アニエスはユーリスのことを診察した。


「病気というわけではなさそうね」

「そうなのじゃ。治癒術師もそういっていたのじゃ」

「呪いでもないし……。死の風の影響かしら。ユーリスはどう思う?」

「わからぬのじゃ。そもそも死の風とはなんなのじゃ? 村長達は毒だというのじゃが……」

「うーん。私にはわからないわね」


 それでも、ミナトならわかるかもしれない。

 そんなことをアニエスは思った。


「お風呂からあがったら、ミナトにも相談してみましょうか」

「そうじゃな! 使徒だとばれたら困るゆえ、こっそり相談しにいくのじゃ!」


 そういうと、ユーリスは子供っぽくむふーと鼻息を荒くした。

 そんなユーリスを見て、アニエスは思わず頭を撫でていた。


「子供あつかいするでないのじゃ! 同い年なのじゃし」

「でも、竜は成長が遅いから。人族年齢に換算すればミナトと大差ないでしょ?」

「そ、それはそうなのじゃが!」

「……幼い間は、もっと大人を頼っていいはずなのだけど」


 ユーリスは幼児なのに、王としての役割を求められている。

 それは幼児が背負うには重すぎる役目だ。


 かわいそうになって、アニエスはユーリスのことを思わずぎゅっと抱きしめた。


「む、むう」


 子供扱いするなと文句を言うかと思ったが、ユーリスは大人しく抱きしめられている。

 お湯の中でユーリスの太くて立派な尻尾が、ゆったりと揺れていた。


「本当は、子供なんて、何も難しいことを考えなくていいのに」


 海竜の十七歳など、五歳児と一緒だ。聖竜は特に成長が遅いので、もっと幼いかもしれない。

 五歳児など、数年前まで言葉も話せず、トイレも自分できなかったぐらい幼いのだ。

 それが王の役割など果たせるわけがない。



「でも……ミナトもしっかり使徒をしているのじゃ」

「……そうね、でも、私たちはミナトにあまり背負わせないようにしているのよ?」


 ミナトは使徒で、王にも勝るとも劣らない重大な役割を持っている。

 だからこそ、ミナトに重い物を背負わせないようにするために、アニエス達は頑張っていた。


 だが、ユーリスには、アニエス達の役割を果たしてくれる大人はいないようだ。


「ユーリスにも頼れる大人がいればいいのだけど」

「……村長かや?」

「…………村長は、どうなんだろ」


 アニエスは、村長をいまいち信用できなかった。

 根拠のないただの勘に過ぎない。


(きっと先王は、オーガスにその役目を果たしてほしかったのだと思うのだけど……)


 そんなことをアニエスは思った。



 ◇◇◇◇

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