第20話 疲れ果てた骸
(……あれ? 俺はなぜ兵舎で寝ているのか……)
だらしなく空いていた口を閉じ、よだれを拭い、ベットに左手を付き体を起こす。
このベット、とてもふかふかで寝心地がいいな、と視線をしたに下ろすと……。
新海の左手はアリスの胸を掴んでいた。
「どぉぅうぇ?!」
思わず意味不明な叫び声と手を反射的に上に避ける。
どうしてこうなったのか。
答えは簡単。ベットには東条がいて、しっかり寝床を確認しないですぐに寝たため、結果的にベット・東条・新海という順番にベットと新海で東条をサンドイッチ状にしていたという訳だ。
「思ったより柔らかくなかったな……」
(って、そうじゃない!)
すぐにベットから離れる。よく見るとアリスの服の胸元には新海のものと思われるヨダレか何かのシミがついていた。
新海が寝ている状態でアリスが起きなくてよかったとつくづく思った。
部屋を出るとそこには師団長ことフランソワ・ヴィドックの姿があった。
「やっと起きたかい?」
「ま、まさか……」
新海清彦の顔が青ざめる。
「アツアツなところを起こすのは申し訳ないと思ってね。起きるまで待っていたよ」
「いや! あれは違うんだ! 誤解! 誤解!」
「それはそうと帝国軍の件だが、無事に撃退したよ」
「そ、そうか」
「それと、新海君の件なんだが……」
「……なんだが?」
「新海くん用の部屋と従者を手配してくれるようだ」
「従者って……メイドさんじゃん! 何もそこまでしなくてもいいんじゃない?」
「そうはいかないようでさ、僕の友人だって話をしたら、それくらいのことは普通だといってね。いても損はしないでしょ?」
(メイドさんかぁ。まぁ、可愛いかったらそれだけで良しとしよう)
「それと、君が寝ている間にシステムをいじらせてもらった。言語チートをオンにしたんだ」
「げ、ゲンゴチート?」
「君ももう分かってるだろうが、この世界の言葉は君たちの教科書にも載っていない、『スタエニア語』というのを使うんだ。今後生活をしていくうえで人との会話が成立しないとなると死活問題だろう? そこで使うのが言語チート。
君達が今使っている『日本語』で全て話が通じるようになっている。僕達は日本語で会話しているけど彼等からしてみればスタエニア語で会話しているようになるのさ」
(長々と説明ありがとう)
「君の部屋と従者を案内しよう。僕についてきて」
と、彼に案内されそうになるがアリスはどうするのか聞いた。
「あぁ、東条さんも君と一緒にいてもらう。それも極秘だ。東条さんの存在を知るのは僕と君のみとなる」
なぜ、アリスだけそのように差別化されるような扱いになるのだろうか。
「それもそのうち分かるさ。それじゃあ東条さんを連れて僕についてきな」
彼に案内され着いたのが兵舎とは程遠い。が、城の敷地内の一角にある住居に案内された。
「さぁ、ここが君たちの住処だよ」
ドアを開けて中を見ると、
「お帰りなさいませ御主人様!」
そこには新海より頭一つ分背が低い天真爛漫という文字そのものを表したメイドさんが立っていた。
可愛い! 人形みたいに抱きしめたい!
(本心が声に出なかった自分を褒め称えたい)
「紹介しよう。彼女の名はフリージア」
「はい! フリージアです! まだまだ新米で不慣れな部分もたくさんありますが、お力添えをいただきたいと思います! よろしくお願いします!」
と、言うと勢いよく頭を90度に下げた。
ぺこり! っていう擬音語がこんなにも似合う人がいるのだろうか。いや無い。
「……はぁ、新海くん……鼻の下が伸びているよ」
「おっと失礼」
はぁ、見ていると癒される。今までの疲れなど忘れ去ってしまう程に。
(こういう妹がいたらいいなぁ)
まずい。フリージアが出てきてから気が緩みすぎている。正気に戻らなければ。
「フリージアさんって歳いくつ〜?」
「そうじゃないでしょ、新海くん。しかも初めて会った女性に年齢を聞くのもデリカシーがなさすぎる。」
額に手を押し当てて落胆するフランソワ・ヴィドック。
「ちょっと、私のこと年下だと思ってません? こう見えても20歳超えてるんですよ!」
よほど、舐められてるのがわかるのか、少し怒り気味のフリージア。
「すみません……善処します。」
双方から責められ、調子に乗りすぎたと反省する新海清彦。
「……御主人様、後ろのお方はどうなされたのですか?」
新海が東条を背負っていることに気づいたフリージア。どうやらもう一人の御主人だと思い挨拶を求めた。俺がそれに応えようとすると、ヴィドックは耳打ちをしてきた。
「……東条さんの存在は従者にすら教えてはいけない……」
そこまでして何を隠したいのか。今後に関わる大きな問題でもあるのだろうか。
そう考えてるうちにヴィドックが話を進め始めた。
「実は……このひ『あーー!! この方とても怪我してるじゃないですかー!!』と……え?」
フリージアは東条の服についている血や汚れを見て怪我をしていると思ったようだ。
「だぁかぁらぁ! この方、服に血がついてますよ!」
「あぁ……そうだね」
「手当しなきゃ!」
と言ってせかせかと救急箱やら替えの服を用意し始めた。細かいことよりも、職業柄を抑えきれなかったようだ。
「とりあえず、この世界で東条さんのことは誰にも話したら駄目だからね? よろしく頼むよ」
といって新海の方を叩きながらヴィドックは自分の兵舎へ戻って行った。
「えーと、あれやこれも……たしかあっちの方に……ってあれ? 師団長様はどちらへ?」
「あとは任せたってさ」
「はぁ、……任されました! それではその方をこちらへ」
寝室に案内された。こりゃまた客室にしては質の良さそうなベットにアリスを置き、部屋をあとにした。怪我は特にないはずだし、あの汚れた服を着替えさせるだけでいいだろう。
リビングの椅子に腰掛けて、本を開く。かなり物語が進んでしまったし、そろそろセーブをしようかと思ったわけだ。すると、今までとは違ったことを言われた。
『チャプター1 序章 お疲れ様でした
セーブしますか?』
(やっと一区切りつくのか。結構ここの世界にいる時間も長かったし、そろそろ元の世界に戻りたいと思ってた頃だから、セーブして戻るとするか)
『セーブが完了しました。このまま続けますか?』
いいえ。元の世界に戻ります。
『了解しました』
辺りは光に包まれた。
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