第17話 裏切り
死体と鉄格子に囲まれてまだ2日。一日がとても長く感じる。東条アリスが目覚める様子はないし、兵士が来るような予感もない。
「だぁれか〜助けてくれ〜」
願うはずのないことだが、藁にもすがる思いでひたすら叫ぶ。俺の声がこの牢に独りで響くと改めて自分一人しかいないと自覚しどきりと胸をいためる。
やがて叫ぶことすら億劫になり、周りに死体があることも気にせずに疲れ果てて眠ってしまった。
ガチャッ……ガチャン!
普段なら周りの音で起きることはない俺が重々しい金属の音を聞き目を覚ました。彼以外の人間がここに来たと思ったからだ。ゆっくり目を開き、周りの状況を確認してみる。薄暗い牢の中はすぐには目が慣れない。今更、現実味を味わったせいか死体の臭いに思わず悶える。鼻を押さえながら牢のドアの方を見ると、見慣れない綺麗な兵服を着た少し低身長の男がいた。
「随分とひどい有様だねこりゃ」
この声や容姿……間違いない。
「フランソワ・ヴィドック! 今までどこに?」
「細かい話は後! 一旦ここから出るよ!」
と言い、フランソワはガチャリと牢屋のドアの鍵を外しそれを開ける。彼の左手には手燭がありそこで灯されている蝋燭の明かりはやけに眩しくそして暖かみがあった。
「東条さんも今のうちに運んでおこう。それじゃ新海くんよろしく」
彼は新海に力仕事を押しつけ、牢屋を出た。この牢屋は地下にあったため、出る時の階段一つ一つが大きく感じた。久しぶりの太陽、と言っても二日ちょっとぶりの太陽光だ。かなり眩しい。さっきの蝋燭とはまた違った眩しさだ。
彼は勝手に、国に入るためと思われる門の中へずけずけと入っていく。
「勝手に入っていいのか?」
少し、焦った吐息の混じる声で彼に聞く。じきに分かるさ、とでも言いたげな顔で振り向いては首を立てに降るだけだ。
草木の濃い、人手が無さそうな道を進む。ある程度進むと彼は止まった。
「よし、ここなら誰も見ていないだろう」
やけに周りを気にしている様子だ。俺は先程から不思議で仕方が無いことが多く、聞きたいことが山々だった。しかし、彼はそれを見事に一蹴した。
「唐突で申し訳ないんだけど、実は僕……」
「僕……?」
「この世界の住民なんだ」
現実と非現実の境がぐにゃりと見えなくなったような感覚におちいる。今自分がここに存在していることすら疑う。唐突に言い放った彼の目はとても真剣だ。動揺している俺に畳み掛けるように常識を覆すようなことを言ってくる。
「そして僕は王都専属の師団長なんだ」
返す言葉もないまま思わず立ち尽くしてしまった。
「いい? よく聞いて。
これから僕の住処に行く。そこはこの国の城の中にあって、外部の人間は基本的に通すことはないんだ。そこで、僕が新海くん達をみんなに気づかれないように僕の部屋まで誘導するから、絶対に離れないことと、しっかり僕のいうことを聞くんだ。」
何故か彼はとても急いでいた。
「東条さんを皆の目に見せるわけには行かないんだ」
分厚い灰色雲に一筋の穴が空いたようなつっかかり。何故、彼女がみんなの目に触れてはいけないのか。彼女の状態が危険なことは百も承知。しかし、誰1人の目に見せないとなると意味が違ってくる。まるで恐れる悪魔のよう。せめて、医者に見てもらうだけでも……と思ったが彼女は医者いらずの体だ。彼の言うことが理解出来なくもない。が、なにゆえこの状況下だ。一つのことで頭がいっぱいで理解に苦しむ。簡単な計算すら解くことは困難だ。
仕方なく彼のいうことに従うことにした。何も脅迫されている訳では無いので無事は確保されるだろう。
「……わかった。案内してくれ」
一つ頷き、疾走と森を抜けた。




