ひたすら鍛えたい、ナイト
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」のep.19 銅等級昇格 までをお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
「ん~! もう朝かぁ」
予定より少しだけ早く目覚めたけど、アタシはかなりスッキリした気分で朝を迎えた。
昨夜のパイ投げ効果か、あの後はぐっすり眠れたようね。
「デイリーガチャ復活まで、あと20分くらいね……。折角だから、見回りに行ってみよっと」
早速着替え終わったアタシは、適性者ギルドへワープする。まだ誰もいないかなーと思ったけど……。
「ふんっ! ふんっ!」
職業訓練所で片手腕立て伏せをしているナイトさんを見つけ、アタシは頬をひきつらせた。
「何してるのよ……?」
さすがに行動が謎すぎて、思わずそのナイト……照輝さんに声をかける。
「見てわからないか? ふんっ! 早朝トレーニングだ! ふんっ!」
「いや、それは分かるけど……」
分からないのは、それをやる意味の方なわけで。
「ゲーム世界なんだから、そんなことしたって攻撃力もHPも増えないでしょ……?」
このゲームでステータスを上げる方法は、レベルアップ以外だと、「装備を整える」か、「レア敵を一定回数倒す」か、「釣りのミニゲームで得られる報酬で増強する」くらいしかないのよね。
しかも釣りのミニゲームは、湖沼地帯(昼)のボスを倒さないと遊べないから、今のところやりようがないし。
「ははっ、そうだな! よしこれで100回、ふんっ!」
そこで丁度目標回数に達したようで、照輝さんは腕立て伏せをやめてアタシと目を合わせた。
というか、分かっててやってるんだ……。ますます謎なんだけど。
「リアルでやってた、モーニングルーチンみたいなもの?」
「いや、さすがにリアルの俺様は、こんなことやってなかったし、できんな!
だが近いぞ! 俺様が鍛えてたのは、精神だからな!」
「……腕立て伏せで?」
さっきから頭の中が疑問符だらけで、どこから突っ込めばいいのか……?
「うーん、何て言えばいいんだ?
こう……『自分はここまで頑張れたぞ』って経験があると、『あの時できたから、次も頑張れる!』みたいなのあるだろ?」
「ああー! それなら、うん」
「俺様がやりたいのは、そういうことだ!」
説明は壊滅的に下手だけど、一応言いたいことは分かった。要するに経験を積み重ねることで、自信に繋げたいんだわ、多分。
それにしても、精神を鍛える、ねぇ……。
「そうだ! 時間があるなら、ちょっと俺様のトレーニングを手伝ってくれないか?」
「えっ!? 何を……?」
正直、あまり良い予感はしないんだけど。
「なに簡単なことだ。ただ救護室で待っててくれればいい」
「救護室で? 待つ、だけ???」
それが何のトレーニングになるのか、そもそも手伝いになってるのかすら、分かんないわ……。
「はあ……まあ、それくらいならいいけど……?」
「そうか、ありがとよ! じゃあ早速頼んだ!」
言うが早いか、照輝さんはさっさとどこかにワープしてしまったので、それ以上質問することもできず、アタシは首をひねりながら救護室に向かう。
「あっ……おはよう……」
「えっ? あ、おはよう!」
丁度救護室に入ろうとしたところで、中から溶岩を固めたように赤黒い兜と、貴族を思わせる豪華な赤ベースの上衣を着たファイターさんとすれ違う。
……あれっ? 今のはもしかして、昨夜百合先輩から報告があったファイターさん?
気にはなったけど、救護室で待つと約束した手前、追いかけることもできず、アタシはその背中を見送った。
「というか、どのくらい待てばいいのよ?」
聞きそびれたから、それすら分かんないじゃん!
まあでもさすがに、装備集めが始まる時間までには終わるかな?
と思ってたら突然、照輝さんが意識のない状態で救護室のベッドに飛ばされてきたので、アタシは度肝を抜かれた。
「え、ちょ、嘘でしょ!?」
こんなことになるということはつまり、何らかの理由で敵との戦闘で全滅したはずだ。その証拠に、照輝さんのHPは1しかない。
アタシは大慌てで回復メイスを振り、傷を癒す。幸いすぐに照輝さんは気が付いたようで、
「なるほどこいつは……ぐふっ、効くな……!」
痛みに顔をしかめながら、そんなことを言った。
「なるほどじゃないわよ、何してきたの!?」
「いやなに、全滅経験がしたくてな。森林地帯(昼)の敵に1人で突っ込んで、タコ殴りされてきただけだ!」
「……馬鹿じゃないの!?」
さすがにそんな理由で、1人で森林地帯(昼)に行く人がいるとは思わなかったわ。
だいたい、指定時間外にクエストクリアを目指すのはルール違反……って、クエスト取ってないのか。
いや、そこじゃないわ!
「そもそも『全滅経験がしたくて』って何!? あんなの、経験してもいいことないじゃん!」
実際そのせいで昨夜悪夢にうなされた身としては、照輝さんの行動は意味不明すぎるわよ!
「俺様は意味があると思う」
思いの外真剣な表情でそう返されたので、アタシは少し冷静になった。
「ナイトは人を守るために、命綱を付けて、自ら死の淵に立たねばならん職業だからな。時と場合によっては、命がけで敵の攻撃を受ける義務があるんだ。
その時にきっと……この経験が生きる」
ああ、この人は……なんてナイトなのかしら。
「だからって、危ないじゃない……。『ブアメードの実験』って知ってる?」
「うむっ、聞いてるぞ。ノーシーボ効果のことらしいな!
なので救護室に待機してもらった。他のナイトにも、1人でのトレーニングは禁止だと釘を刺されてるからな!」
そう言いながら、照輝さんはニカッと笑って、ベッドから身を起こした。
「ノーシーボ効果があるなら、プラシーボ効果もあるはずだ! だろっ?」
だから、なのか。この人が言っていた「精神を鍛えたい」っていうのは。
つまり照輝さんは、今後命がけで戦うために、戦闘不能クラスの痛みに耐えるつもりなんだわ……。
「……そうですね」
滅茶苦茶な方法だけど、確かに彼には必要なことなのかもしれないと思った。
「ん、あと10分くらいあるな。もう1セット行くか!」
「え゛!?」
結局その後、アタシは本当にもう1セットつき合わされることになったんだけど……。
その日の昼に開始されたアークタルラとの激闘で、敵の攻撃をガッツ受けしても「鍛え方が甘かった」の一言で済ませた照輝さんを見て、アタシはこの無茶なトレーニングが本当に活きたのかもしれないと思った。




