もう1つの、始まりの物語
本エピソードは「サ終ゲームのリスタート」の第1章ep.1 サ終ゲームからのプッシュ通知~ep.9 リスタート を、すでにお読みいただいている前提で書かれております。
未読の方にはネタバレが含まれますので、ご注意の上お進みください。
『これ、返しておくよ。時々現実の世界から、君たちの様子を確認するからね。じゃあ!』
見慣れないベッドで横になったまま、アタシは半透明の画面から落ちてきた「真っ白なキーホルダー」をぼんやりと見つめ、うまく働かない頭で考えた。
「あ……うぐっ!!」
身体のあちこちが、痛くてたまんない。手足も痺れてて、ほとんど動かない。周りの音も、よく聞き取れない。
どうしてアタシ、こんなことになったんだっけ……。
そうだ……確か大好きだったサ終済みゲームが、リスタート決定&続編ベータ版の参加者募集してるのに気づいて即、応募したんだっけ。
でも忙しくて、初日はデイリーガチャしかできなくて……。
だんだん思い出してきたわ。
仕方なく翌朝になって、武器ガチャ100連を全部「全ての武器が排出されるガチャ」につぎ込んだら、適職がまさかのマジシャンとプリーストの2つって表示されて……その瞬間、ゲームの世界に来たんだよね。
でも自分で作ったアバターの身体になっても違和感とか全然ないし、むしろ夢が叶った感じだから、嬉しくてたまらなくて……。
それから……ええっと……。
◆◇◆◇◆
「凄いスゴイ、すっごーい!!」
森林地帯(昼)に足を踏み入れたアタシは、興奮して思わず「熱血2」ボイスでそう叫んでた。
だって3年くらい前まで画面越しに見てたゲーム世界を、こうもリアルに感じられるなんて嬉しくて、適性者ギルドでじっとしてなんかいられないじゃない!
ちなみにアタシは、前作では一応、全ての職業経験がある。
まあ、アバター変更遊びメインで適当にやってたから、どの職も深くは知らないけど……。
「とりあえずベータ版なんだから、とことん楽しまなきゃね♪」
そう考えたアタシは、適職と判断されたうちの1つ、マジシャンの武器をさくっとセットして、早速戦闘を試してみる気マンマンでここに来てた。
アタシと同じ考えの人はそこそこいたみたいで、あちこちに戦闘中表示の「漫画煙」が見えるわね。
このゲームでは、いわゆる「野良共闘」がかなり簡単にできる仕様になってて、この「漫画煙」に触れれば自動で共闘できる仕組み。
しかも戦闘が終わったら自動でパーティ解散ってなるから、挨拶さえちゃんとすれば、後腐れなく転戦できるのがいいのよね。
それに共闘方法も「職不問」と「5職限定」の2通りから選べるから、何とでもなる雑魚戦闘なら「職不問」を、本当に強いボスに挑む時は「5職限定」を選べば、スムーズに共闘できるってわけ。
でもマジシャンなら、そんなに深く考えなくても、雑魚くらい簡単に倒せるはずよっ!
そう思ってアタシは、迷わず近くの敵に触れた。予想通り風景が切り替わって、戦闘エリアに移行してく。
「おおおっ、これが戦闘画面の中かぁ!」
目の前に3匹の兎型魔物が出てきたので、私は嬉しくて興奮しまくった。
「多分こうすれば武器を使えると思うんだけど……」
ドキドキしつつ胸元の高さにある半透明の画面から、アタシは全体攻撃杖のアイコンをタップしてみる。
「おおお?」
すると勝手に身体が動いて、詠唱の動作に入った。詠唱時間終了と同時にまた、身体が勝手に動いて杖を頭上に掲げる。
するとドーンという効果音と共に、敵の足元から土槍が伸びてダメージを与えた。
「わお!」
けど思ったよりうまく、敵のHPが減ってない。
「ありゃ? じゃあ次の武器を……」
何にしようか迷ってたら、「職不問」で共闘OK設定にしてたので、可愛らしい女の子のマジシャンが乱入してきた。
「調理開始だね! よろしくっ」
アタシは「パティシエ」ボイスで挨拶されたので、
「あっ、よろしく!」
こちらも挨拶を返した。直後、火属性の全体攻撃魔導具を使う彼女。その一撃で敵は全滅して、即パーティ解散となった。
うーん、あまりに速くて、プレイヤー名を確認する間もないや。
「一応、他の人の様子も見てみようかな?」
じゃあ、今度は近くの「漫画煙」のほうに触れてみてっと。
戦闘エリアに移行すると、すでに3人のプレイヤーが敵と戦ってた。
「よろしく!」
「よろしくお願いします」
「よろしく」
「よろしくっ♪」
びっくりなことに、高身長のイケメン、小さな男の子、小さな女の子のレンジャー3人だわ。レンジャーにソロ討伐はちょっと大変だろうし、「職不問」設定だから、こんなこともあり得るのよね。
みんなでデフォルトボイスの挨拶を済ませる。それぞれ「さわやか1」、「真面目な少年」、「パティシエ」ボイスなのに気づいて、ますますテンションが上がった。
どうやらみんな、運営が用意した有名声優のボイスを使えるみたい。「パティシエ」は2人目だけど、使うボイスでより細かいキャラ付けができるのも、このゲームの良いところなのよねっ!
見たところ、戦ってる鳥型敵のHPは、3匹ともほぼ残ってた。まだ戦い始めて間もないのかも。
アタシは適当に、大鎌のアイコンを選択してみる。今度は詠唱終了したら敵1匹を攻撃して、2回ダメージが入ったわ。
そういえばこれ、2多段攻撃の武器だっけ? さっきの杖より大きなダメージが入ったけど、もうデバフをかけてくれてたから?
そんなこと考えてたら、イケメンレンジャーが魔砲を発射させた。5多段攻撃が次々決まって、あっという間に一掃、パーティ解散になる。しかも今のでレベルが上がった。
すっご! かっこいー! レンジャーなのに、あんなことできるんだ……。アタシもああいうのやりたいんだけどなぁ。
3人のレンジャーそれぞれが、別の「漫画煙」に向かったのを見て、
「じゃあ今度は、こっちにしてみよっと」
宝箱を開けるようなワクワク感で、アタシはちょっと離れたところにいた次の敵に触れた。これまた3匹だけど、今度はリス型の魔物ね。
って……
「……え? こ、これってまさか……!」
そのうち1匹の色が違うのに気づいて、アタシは目を輝かせた。
「レア敵じゃん!!」
いきなりそんな奴に出くわすと思ってなかったから、思わずガッツポーズする。今度はさっきのマジシャンを真似て、魔導具を使ってみた。
あれ、後列移動だったわ。ってこれ、攻撃系じゃないじゃん! 何これ、デバフ系?
わたわたしてるうちに敵が一斉に通常攻撃してきて、あっという間にアタシのHPは減ってく。
やばっ、回復どれだっけ?
とその時、今度は大男のプリーストが乱入してきた。
「どーも。
……ちっ、ここも外れか」
デフォルトの「ドS1」ボイスでの挨拶まではいいとして、続くその態度はどうなのよ?
「何言ってんのよ、大当たりでしょ!? 見なさいよ、あのレア敵を!!」
アタシは挨拶も忘れて、そう言い返してた。
「俺が探してるのは人なんだよ……」
何故か早くも撤退しそうな感じだわ。でもそれは、こっちが困るのよ!
「ちょ、ちょっとタンマ! せめてこれ倒してから行ってよ! 折角見つけたんだから!」
「ああ? ったく、面倒くせぇな」
そう言いながらも、一応回復してくれた。さすがに1人で倒せそうになかったから、こんなプリでも、いるのといないのとじゃ全然違う。
アタシは迷った挙句、さっきと同じ杖を使った。
「おい、何でそこで地属性武器使うんだよ! せめてそれ以外の属性のやつ使え!」
「えっ?」
「えっ、じゃねぇ! 属性相関覚えてないのかよ!! ここの敵は風属性だから、地属性武器が一番効かねぇぞ!!」
ああ~! だから思ったほどHP減らせなかったんだ。完全に忘れてたや。
じゃあ次の武器を……
選ぼうとしたその時、操作しようとしてた半透明の画面が勝手に切り替わって、アタシと目が合った。
「……え? はっ??」
正確にはゲーム内アバターの姿してるアタシじゃなくて、現実世界のアタシがそこにいた。ふと見ると、プリの方にも同じように、アバターと違う男の子が画面に映ってる。
『おめでとう。これでやっと全員が、適性者としてスタートできるね。
ゲームの世界を気に入ってくれたみたいだし、嬉しいよ』
何十人もの声が重なったそれが、現実姿の各人の口から出てる。
何これ、強制ストーリー開始?
そう思った次の瞬間、通常のリス型敵の方が、アタシたちに木の実を複数飛ばして攻撃してきた。これは全体攻撃?
「痛っ!」
「なっ!?」
予想外の痛みに、アタシは怯む。ついさっきまでそんなことなかったのに、急に敵の攻撃が痛くなったんだから当然だわ。
しかもアタシは前列にいたから、今のでHPがまた半分以下まで削られてる。
「嘘でしょ……?」
ここはゲーム内よ。何をやっても安全な場所だと思ってたのに、違うの?
『ひどいな、みんなの願いを叶えただけなのに。
みんな願ったでしょ? 【スカオーの続編がしたい】って。だからキーホルダーを撮影して、ここに来たんでしょ? お陰で一気に沢山のスカオー愛が集まったから、叶えられたんだよ?』
画面の向こうにいるアタシがそんなこと言ってたけど、悠長に聞いてる余裕なんかない。
いつの間にか、レア敵が詠唱を開始してるのよ!
「せめて後列に……!!」
移動したいのに、それができないことに気づいて、アタシは愕然とした。
画面が切り替わってしまったせいで、いつもの戦闘時コマンド画面が表示されてない!!
「くそっ、リタイアボタンすらねぇ! 何だよこれは!!」
プリの方もそれに気づいて、半透明の画面をバンッと叩く。でもそんなことでは、画面はびくともしない。
リス型レア敵が詠唱を終えて、持っていた木の実をアタシに投げてきたのが、スローモーションのように見えた。
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!」
お腹の真ん中に当たったそれが、背中の向こうまで突き抜けたような激痛で、アタシは悲鳴をあげて倒れる。HPが0だわ。今ので戦闘不能になったんだ。
「おい……まさか本当に死んだんじゃないだろうな……おい!!」
動きたくても見てることしかできないから、プリの方もアタシを見て蒼白になってる。
そして……
「くそがぁぁぁぁ!!」
続く雑魚敵2匹の単体攻撃になす術もなく、彼もまた戦闘不能になったのを見た。
◆◇◆◇◆
ああ……思い出した。全部、思い出してしまった。
このキーホルダーだって、元はアタシのアバター画像が描かれてたはずなのに、何故か真っ白になっちゃってる。アタシこのまま、このキーホルダーの絵みたいに、消えちゃうのかな?
それって、死んじゃうってことだよね?
「はっ、ひっ、ひっ……!」
どうしよう、息をするのが難しくなってきた。
「大丈夫ですか? しっかりして!」
誰かが「ガーリッシュ」ボイスで声かけしながら、走って近づいてきた。回復メイスを使ってくれてる。
でもアタシ、もう間に合わないかもしれない……。
「うつぶせになって、ゆっくり息を吐いて下さい! 聞こえますか!?」
今度は「担任の先生」ボイスで話しかけられた。うまく動けなかったけど、動くのを手伝ってくれたので、何とかうつぶせになる。
「そうよペンタスちゃん、そのまま吸って・吐いて・吐いて、よぉ♡」
これは「オネェ」ボイスだわ。それに「ペンタス」は、アタシのプレイヤー名……。
じゃあここはまだ、ゲーム内なのね?
言われるまま、うつぶせ状態で吸う1回、吐く2回の割合でゆっくり呼吸をくり返してたら、だんだん楽になってきた。手足の痺れも消えていく。
そしてようやく、アタシはゲーム内にある救護室のベッド上にいたことに気づいた。よく見たらすぐ隣に、共闘してた大男のプリもいる。全滅したから、2人揃って勝手に飛ばされたんだわ。
つまりアタシ、まだ生きてるんだ。よかった……!
「もう大丈夫そうですね。すみませんが私は、今度はあちらの方を診ます」
「じゃあ私は、あっちの子を診るわぁ♡」
多分医療知識があるんだろうなと思いながら、テキパキ動く2人を見てた。視界もはっきりしてきたので、試しに手を握ったり、開いたりしてみる。問題なく動くみたい。
「もう大丈夫……あんがとね」
次の人にベッドを譲るため、アタシは救護室を出た。とは言え、何かできるほどまだ状況が把握できてないし、心の整理もついてないので、救護室側の壁にもたれかかって身を縮める。
あれから、どれくらい時間が経ったんだろう……。
「……みんな、そろそろいいかい? ちょっとここは落ち着いて、今後のことを話し合いたいんだ。
……みんなで、ここから出るために」
アタシだけでなく、みんなが「お父さん」ボイスの人の説明に、耳を傾けてた。
そしてやっと、状況を理解する。
みんなでゲーム世界に閉じ込められちゃったこと。
もうデイリーガチャしか引けなくなってること。
なのに課金すらできず、誰も知らない「ハッピーエンド」でのゲームクリアを目指さないと、ここから出られないこと。
しかも残された期限は、残り1カ月もないこと……。
周りは「これからみんなで力を合わせて頑張るぞ」って雰囲気。
けど……戦闘不能を経験したアタシには、もうマジシャンとして前線で戦う勇気が出なかった。
新連載を始めました。
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