53.友はありがたい
看護師さんの厳しくも優しい忠告を受けて、戸田嶋はタクシーでアミィズ産婦人科に向かった。アパートから徒歩で行ける場所にある、妊娠の確定診断をしてくれたクリニックである。
タクシーに同乗している玲夢も、少し落ち着いたみたいだ。
「生むんならさ、仁君や、ご両親にも言って納得していただかないと。あんたホントにわかってる? この状況って、エラいことなんだよ」
玲夢があまりまじめに言うので少しどきっとした。
自分は本当にわかっているんだろうか。
仁を窮地から救い出してコンペも何とか動き出して、もう決意次第で何でもうまくいくような気がしていた……。
冷静に考えれば、あまりにも楽観的だ。
これがマタニティーフラワー? そんなのないか。
戸田嶋は意識してまじめな声を作った。
「わかってる。これはあたしの責任だから」
「うん」
「仁じゃなくて、あたしの責任」
玲夢が少し間を置いて、
「よし」
と言った。
「小巻主査にはどうする」
「それは、お願いしてもいい?」
「わかった」
「あたしはまず、仁に話す」
「あんたたち、二日間一緒にいて、その話しなかったの」
「しなかった。だって楽しくってしょうがなかったんだもん。もうあのまんま永遠に続いて欲しいって思ったから……、今にして思えば、あのときしておけば良かったかも」
「ま、しょうがないね。でも仁君、受け入れられるかな」
「大丈夫だと思う。だけど……、万が一受け入れられなかったら、そのときは、あたしひとりで育てる」
「考えてんだ、そこまでは」
考えていたのは本当だ。でも決意だけで成し遂げられることではない。なので、
「そりゃそうよ、だからここんとこもう、あれやこれや考えることとプレッシャーでもう、一杯一杯」
と強調した。
「ひとりで抱えて頑張ってたわけだ」
玲夢はなんか、八代目黒百合をカミングアウトして以来、男前女子になったような気がする。気のせいか?
「これが大人のカップルだったらさぁ、結婚前だったとしても、まあ、おめでたい話なんだけどね」
「うん。でも仁……、ショック受けるだろうな」
「それより親御さんだよ、どう出るにしても修羅場にはなるよ。覚悟はできてるの?」
「大丈夫。こう見えて度胸はあるの」
「知ってる」
「でも一番気が重いのが、うちの親」
「ああ」
「申し訳なくてさぁ」
「自覚はあるんだ」
「あるよ、あたしを何だと思ってんの」
「めんどくさい女」
玲夢には、待合室で待っていてもらった。
診察の結果は、妊娠初期にありがちな鉄分の不足で、『レバーや赤身肉を意識して摂るように』、と指導された。
胎児の成長は、今のところ問題ないそうだ。
そのことを玲夢に報告し、「今夜はレバニラ炒め定食にする」と宣言すると、玲夢は、
「付き合う。でもあたしは飲むからね」
と答えた。
友はありがたい、と心から思った。




