35.ウサギの丘公園
その日の夜九時、真鈴ちゃんの携帯に電話した。
真鈴ちゃんが語ってくれたところによると、柏崎家でも大ごとになり始めているそうだ。
無理もない。仁は無断で外泊するような子じゃない。なのでお母さんは、一昼夜経過した時点で警察に相談していた。いたたまれない気持ちはよくわかる。
不安は真鈴ちゃんにも伝染したらしく、受け答えに中学生らしい覇気がなかった。
「そうなんだ。で、警察ではなんて?」
〔詳しくは……。でも、一日帰らないだけなんで相手にされなかったみたいです〕
玲夢が言った通りだ。
「警察には、お母さんとご一緒しなかったの」
〔家で待ってなさいって。でも、わたしひとりで待ってるのって〕
「だよね、わかるよ」
〔どこ行っちゃったんだろう、お兄ちゃん〕
根拠のない慰めは言えないし、言う気もない。不安と悲しさと焦りが混じり合った胸の痛みはきっと同じだ。わかりきった気休めは不安をかき立てるだけだ。だからって抱き合って泣いたところで何も解決しない。そんなのはわかっている。
でも。
考えるより先に言っていた。
「会わない?」
〔え〕
「会って情報交換しようよ」
真鈴ちゃんが新しい情報を持っているとは思っていない。でも気持ちを共有するだけで救われることもある。それはたぶんお互いに、だ。
〔今、から、ですか〕
「いえ、あ。そうだよね」
九時を回っている。中学生に今からなんて無理な相談だ。
「じゃあ明日」
そう言ったあとで明日も学校があることを思い出した。
〔はい!〕
「時間、どうしようか。何時に終わるの?」
〔朝でもいいですか〕
「朝」
〔七時に。あの、ウサギの丘公園ってわかります? タイヤで作ったウサギさんが丘の上にある公園です〕
「え……、ちょっと。ていうか七時って、時間大丈夫なの、そんな早くて」
〔部活とか行事なんかでたまに早出はあるので、大丈夫です〕
こっちが大変だ。真鈴ちゃんの生活圏に七時だと五時半には起きなきゃだけど、
「わかった。で、その、ウサギさんの公園だけど」
〔ウサギの丘です!〕
少しだけど、真鈴ちゃんに元気が戻った。
電話を終え、真鈴ちゃんが口頭で教えてくれた住所をマップアプリで辿ると、確かに、公園らしき緑地があった。中学校の近くだ。私立真心学院中等部。なかなかのお嬢さま学校じゃないの。
戸田嶋は、リラックスと不眠解消の効果もあるというカモミールベースのハーブティーを淹れ、そこに蜂蜜を垂らした。
ゆっくり時間をかけて飲み、アラームを五時にセットしてベッドに入った。
これから何が起こるのか、それに対して何ができるのか。




