表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/80

34.狂犬の名は……

 作業を終えた青木は肩の力を抜き、細く長い息を吐いた。

 そして、

 「ここの通信環境だとここまでです。条件のいいとこで、も一回やってみますけど」

 と前置きして青木は説明を始めた。


 「半場隊長が狂犬って呼んでる女の名前は宮野麻衣。取り巻きは五人いて、うち四人は男です。これがそう」


 青木がパソコンの画面を示した。

 コンビニの駐車場らしきところに若い男女が(たむろ)っている。合わせて十人以上いるからこのなかの五人、ということか。なかには、けっこうワルそうなのもいる。


 画面の端に高校の制服を着た女が写っていた。駐車場のガードパイプに腰掛けてスマホに目を落としている。何となく場違いな雰囲気。

 ていうかここどこなんだ。

 「どっからこんな画像もってきたの」

 青木は何も答えない。でも顔がちょっと自慢げだ。


 玲夢が訊いた。

 「ここに写ってんのが宮野ってのの仲間なのね」


 「そうです。一部ですけど風貌から見て、えっと、たぶんこいつと、こいつはそうですね」


 青木が示した人物は、どれもごく普通の、まじめな高校生にしか見えない。

 そのうちのひとりは、あどけない顔でお握りを頬張っている。傍らには大きなエナジードリンクの缶。あんなのでお握りを流し込んだらどんな味になるんだろう……。


 青木が指さした残り三人の口元には笑みが浮かんでいた。でも少しも楽しそうに見えない。心、ここにあらず、みたいな。


 動画はずっとループ再生を繰り返している。それにしても、

 「どっからこんな画像引っ張ってくんの」


 「安い防犯カメラってわりと簡単にハッキングできるんで。あと画像検索使えば顔も追えますし、だいたいの場所も。そりゃ警察のリレー捜査のようにはいきませんけど、それなりには」


 「こっわ」


 「で、青木君、宮野麻衣ってのはどれ? リーダーなんでしょ」


 「これです、たぶん、っていうか間違いなく」

 と指さした人物は、離れた場所でスマホをいじっている少女だった。


 「これぇ?」

 思わず玲夢とハモっていた。

 だって、どっちかといえばターゲットにされそうなタイプだ。狂犬というイメージとはかけ離れている。


 「どうします。脅迫だったら警察に持ち込む手もありますけど」


 警察を頼りたい。仁の安全を考えたらなり振りをかまっている場合ではない。

 でも、その思いを玲夢が止めた。


 「無駄よ、今んとこ被害はないんでしょ」


 「あってからじゃ遅いでしょ!」

 思わず睨みつけてしまった。

 だって。

 もし誘拐だったら交渉が必要になるし、それなのに悠長に待っていて「何かあったら……」と絞り出した声は、意に反して震えてしまった。


 でも玲夢は落ち着いていた。

 「よく考えてヘタ子。今んとこ拉致られた証拠はないし、あったとしてハッキング映像でしょ? 警察ってそういう、怪しげな情報だけだと動かないよ」

 言われてみればそうかもしれない。でも、

 「じゃあどうすればいいのよ」


 「妹さんからはその後何も?」


 「うん」


 「え、ちょっと待って、妹さんって」と青木が身を乗り出した。


 「仁の妹。中三で真鈴っていうの」


 「妹さんのアドレスとか電話番号、わかるんですか?」


 「あ、うん、わかる。今送るね」

 青木に持っている情報を送信した。


 それにしても、この国の情報セキュリティーはどうなっているんだろう。

 アドレスと電話番号、それにSNSやチャットの履歴を技術のある人間が探れば、顔や所在、行動まで追えてしまう。

 ハッキングという性格上、合法かどうかは微妙だとはいえ、仕組みとしては可能な状態が放置されているのだ。


 「そういえばこいつらのチャットルームでの会話が残ってるんですけど」


 見せてくれた画面には、使い捨て、狩り、タタキ、葉っぱ、といった犯罪ワードが示されていた。隠語ならわからないと思ったのか、意外に不用心だ。


 「けっこうヤバいことやってますね。恐喝とかたかり? あと集団で暴行。単純な破壊行為。一個一個はわりとチンケですけど、恐喝も暴行も金目当てっていうよりゲームです。狩りみたいなもんじゃないのかな」

 

 暴行、というワードに背中が凍り付いた。


 「あと、こいつらの背後に別の集団がいます。言葉遣いから考えて本職か、少なくとも年上で、暴力関係はたぶんそっちがやってます。幹部はさっきお見せした通りガキですばっかけど。

 ツムギって親衛隊長はあれですよ、ただの純粋なファンで、好き好きが闇落ちして一線越えちゃった感じの」


 それで宿舎にまで忍び込む、か。なんだか半場ツムギがかわいい女に思えてきた。


 「宮野麻衣の立ち位置は?」


 「指示役ですね。それも、別の女の子を通じてです。表には出てこないですけど、トップは間違いなく、この宮野麻衣です」


 「闇バイトとか、の線は?」


 「可能性はなくはないですけど。でも本物なら秘匿性の高い通信手段を使うからなー、ないかなー」


 もっと悪いヤツは、もっと頭がいい、ということだ。でも青木は間違いなくその上をいく。仕事だと抜けてるけど、こういう仕事ならほんと、頼りになる。


 「青木、今見してくれた画像、あたしと玲夢に送っといて。解説付きで」



 情報は集まった。でも今の時点では待つほかない。

 それにしても宮野麻衣。

 目的がわからない。

 何なんだいったい、仁をいったいどうするつもりだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ