33.青木のネット探索
戸田嶋は仁との出会いと再会、付き合っていること、それも本気だってこと、あといきなり届いた脅迫めいたメールの件と、今朝の半場ツムギとの会話まで、順を追って話した。
丁寧に話していると、その時々の感情がよみがえってきて、話し終えたころには、けっこうな疲労感に包まれていた。自分の気持ちを晒すには、エネルギーが要る。
でも。
青木は、高校生に恋をしている先輩をどう思っただろうか。大事なコンペをほったらかして恋にうつつを抜かしていることをどう思っただろう。
頭のなかに無数の渦巻きが浮かび、回転を始めて混沌となりかけたところで、青木が、大きなため息を吐いた。
「何」、と質すと青木は、
「でも高校生ですか。ふむー」
と言って腕を組んだ。
「なに青木君、そこ問題?」
「あいつらの生態ってよくわかんないんですよね。うちらのころと違うんで」
「うん、でも舐めてかかんない方がいいと思う。頭のいいワルはアップデート早いから」
と玲夢が注意事項を伝えた。
「じゃ、戸田嶋先輩、とりあえず親衛隊長のアドレスください。あと、わかってること全部、その仁って人のことももうちょっと詳しく教えてください。そこそこの選手なんですよね。だったら公開されてる映像とかも多いはずです」
戸田嶋は、ツムギのメールを青木の個人携帯に転送した。
「でも、もう公式試合は一年くらい前に引退してるって言ってたよ」
「大丈夫、ネット上の記録はリアルのタトゥーよりずっと強力ですから。顔がわかればあとは……」
青木がパソコンの作業を開始した。
最初のうちは、画像を示されて「この人で合ってます?」とか「この場面に見覚えは」と確認されたけど、作業が進むに従って、訊かれることはなくなった。
途中、こっそりディスプレイを覗き見たら黒い画面にソースコードが溢れかえっていた。
どうもネット検索とは次元の異なる作業をしているようだが、わからなすぎて質問すら浮かばない。
ここはもう、待ちの一手しかなさそうだ。
作業の邪魔になると思うと、玲夢と、いつものように会話するわけにもいかない。退屈な時間を持て余してきたのでコーヒーをお代わりした。
空きっ腹に入れたコーヒーの利尿作用は抜群で、三回もトイレに行った。
ランチの時間が近付いたので、玲夢と相談してトーストサンドとミルクティーを追加オーダーすることにした。
玲夢とふたりで、女子のランチにしても軽すぎるトーストサンドを食べ、青木にも進めたが、彼がトーストサンドを手にしたのは溶けていたチーズがすっかり固まったころだった。
一旦のめり込むと、周りが見えなくなるタイプなのだろう。
作業は終わったようだ。
青木は、目の前にトーストサンドがあるのに気付くと、飢えた犬みたいな勢いでトーストサンドをがっつき、冷めたミルクティーに砂糖をスプーン三杯も入れて飲んだ。
つかえていたトーストサンドが胃に落ちていったのか、青木の喉がぐりんと動くのが見えた。