村田
別の日
校庭の隅のベンチで村田大和が物憂げに座っていた。
野球部の練習が終わった後、彼は汗だくのようだ。
「よ、夕凪! なんか最近、笑顔増えたよな。俺のおかげか〜なんつって!ははは!」
そのニヤニヤした笑顔に、笑ってしまう。
「そうだよ、村田のおかげ。」
私が言うと、村田は大げさに驚いた顔をする。
「イェーーーイ!! 俺、モテ期きた? ハハ、冗談だって! でも、マジに夕凪が元気でよかったよ。」
村田との軽快なやり取りに触れると、心がじんわりと温かくなる。
ただ騒がしいだけだと思っていた、うるさいやつだと。
違うんだ。
彼はいつも、周りの雰囲気を明るくしようと気を配っている。
「村田、野球部って、どんな感じ?なんか……大丈夫?」
私が聞くと、大和は少し照れながら話し始める。
「近頃めっちゃ熱いんだ! 毎日汗だくで、監督のスパルタ指導ハンパねぇし、疲れるけどさ。仲間と一緒に試合に勝つ瞬間、ヤバいんだよ!俺、あのハイタッチの瞬間、生きてるって感じするんだ」
彼も、あの騒がしさの裏で、深く悩み、自らを省みていたのだ。
これまで、彼をただの騒がしい猿だと見ていたのは、私の浅はかさだった。
彼は、騒がしさの奥に、繊細な感情と仲間への温かい思いを秘めていたのだ。
「でもさ、最近、ちょっとスランプで……」
「レギュラー落ちそうなんだ。俺、チームのムードメーカー気取ってるけど、結果出せねえと、ただのうるさいやつじゃん。なんか、情けなくてさ」
村田は校庭の隅のベンチで肩を落として座っている理由を話してくれた。
いつも明るい村田の見たことがない姿だった。
なんとか元気づけようと言葉をひねり出す。
「うちに野球わかんないけどさ。ムードメーカーって、チームに絶対必要じゃん。スランプ抜けたら、絶対レギュラー戻れるよ」
「マジ? いっつも頑張ってる夕凪にそう言われると、なんか、気合い入ってきた! うおおおお!やるぞおおおお!」
村田、いいやつだなあ。
騒がしいだけじゃなくて、仲間を想い、悩みながらも前を向く、村田大和。
彼の大きい声に私の人生まで背中を押された気がした。