第17話 意固地になっていた手前
なんてことはない。
抱えているときは深刻な問題に思えた恨みつらみも、言葉にして口に出してしまえば、客観視できて、案外大した問題ではないように思えるものだ。
意固地になっていた手前、いくらかの決まりの悪さも感じたが、結果的に気分が楽になったのは事実だった。
折り合いが悪い同級生と衝突した。言ってしまえば、ただこれだけのことだった──
ドロレスは、まっすぐにこちらを見つめ、こちらの話にうなずきながら、最後まで話を聞いた。そして口を開く。
「ヘレンさんは、間違っていません。正しいのはヘレンさんの方です」
「……そんなこと、知ってるって」
「だから、気を落とさないで。最後に勝つのは、正しい方ですから」
「べつに相手を負かしたいわけじゃないんだけど……。でも、うん。ありがとう、ドロレス」
ドロレスは笑った。屈託のない笑顔だった。さっきは泣きじゃくっていたのに、コロコロと表情が変わる女だ。
それにつられて、わたしも思わず笑っていた。
「まあ、それはそれとして」と、わたしは隣に坐る彼女の手を掴んだ。「あなたをあなたの部屋まで連れて行きます。それと生徒番号を教えなさい」
「あら」
「とぼけても無駄。ほら、さっさと立ちなさい──」
彼女を引っ立てようとしたちょうどそのとき、遠くから聖堂の扉が軋みながら開く音がした。そして聖堂の中に張り上げられる来訪者の声。
「あのー! 夜間作業の規則について確認したいことがあるんですけどー!」
わたしは反射的にその声のほうを振り向いた──そしてそれがいけなかった。
瞬間的にそれを把握した。今さっきまでこの手で掴んでいたものが、まるで溶けて消えたかのように消失した。
ついさっきまでドロレスがいたはずの方に向き直るが、しかしそこには、薄暗闇がただ広がっている──
わたしは、唖然とするほかなかった。