表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/174

空中艦隊決戦

……………………


 ──空中艦隊決戦



 帝国陸軍B軍集団は限定攻勢計画フサリア作戦を発動。


「見ろ! 友軍の空中戦艦だ!」


「おお!」


 地上を進む兵士たちの上空に帝国空軍の空中艦隊が現れた。


 帝国空軍は魔獣猟兵の空中艦隊が動くまでは帝国陸軍を支援することになり、開戦以来最大の航空作戦を開始した。地上支援のために温存されていた主力艦が投入される。


「砲兵が攻勢準備射撃を開始します!」


 まず帝国陸軍の砲兵が魔獣猟兵の陣地に向けて砲撃を開始。


 口径105ミリの軽榴弾砲から口径280ミリの重砲まであらゆる火砲が火を噴き、魔獣猟兵の陣地に打撃を与えると同時に、魔獣猟兵の予備戦力を拘束する。


「前進! 続け!」


「突撃だ!」


 帝国陸軍の主力である擲弾兵部隊は徴集兵と即席士官からなる部隊にも、歩兵戦闘の基本が叩き込まれている。


 敵の防護された火点を無理に正面から攻撃せず、迂回突破して後方連絡線を遮断して孤立化させる。いくら塹壕に機関銃を据えていようと戦場で孤立しては意味はない。事実上無力化されたも同然である。


 加えて帝国陸軍は現場の判断を優先するという指揮官への判断の委任を行っていた。部隊を指揮する将校は前線の小部隊の指揮官に至るまで独自の判断で敵の防衛線を突破することが許可されていた。


 それらによって帝国陸軍は魔獣猟兵の防衛線を突破することに成功。


 防衛線であるカエサル・ラインから出撃した帝国陸軍B軍集団は作戦目標であるザルトオードラント領の奪還を着々と進めていた。


「ガルベス上級大将閣下。フサリア作戦は順調です。今のところほぼ当初の予定通りとなっています」


「……妙だな。敵の抵抗が薄すぎるのではないか?」


 帝国陸軍B軍集団司令部は前線の移動に合わせて前進し、今はザルトオードラント領に僅かに踏みいった地点に司令部を設置している。そしてB軍集団司令官のフアン・ガルベス陸軍上級大将は地図を見て唸っていた。


「友軍部隊が魔獣将兵の司令部を襲撃することに成功したためではないでしょうか?」


「いや。司令部の喪失では説明がつかない。これまでの戦闘から判断して、魔獣猟兵側も我々と同じように現場に大幅な権限を与えている。であるならば、司令部が一度潰れても現場の判断で抵抗するはずだ」


 ガルベス上級大将はこれまで魔獣猟兵を相手にした戦闘を指揮しており、魔獣猟兵側の戦術についても見識があった。


 魔獣猟兵もというより、魔獣猟兵の方がより現場の判断を重視していることを彼は知っていた。司令部の喪失は指揮系統に混乱を及ぼし、士気にも響くが、それでも魔獣猟兵はここまで容易くは退かないはずだと彼は思っていた。


「まさかコマンドを残して撤退し、また我々の後方連絡線を攻撃するのでは?」


「考えられなくもない。警戒に当たれ。どうも臭うぞ、これは」


 B軍集団司令部は隷下部隊に敵コマンドによるサボタージュなどに警戒するように警報を発した。後方の司令部や物資集積基地を守っている部隊は注意を払い、いつ襲って来るか分からないコマンドに備える。


 しかし、魔獣猟兵は馬鹿のひとつ覚えのようにコマンドによる作戦に頼る戦争を考えているわけではなかった、


「少尉! 敵の機関銃陣地から強力な抵抗を受けています! 迂回突破不能!」


「砲兵の支援は!?」


「できません! 砲兵は対砲迫射撃に備えて配置転換中!」


「クソ!」


 異様だったのは魔獣猟兵が前線に配置しているのが少数の人狼と吸血鬼であり、ほとんどの戦力が屍食鬼だと言うことだ。塹壕に立て籠もり、火薬式自動小銃や機関銃を操作して帝国陸軍の前進を阻止しようしているのは屍食鬼だ。


 帝国陸軍B軍集団隷下の部隊に所属するこの擲弾兵小隊が攻撃しあぐねている陣地にも、屍食鬼が重機関銃で即席士官の陸軍少尉が指揮する部隊を牽制している。


 重機関銃が前進しようとする擲弾兵小隊が射界にあらわれると銃撃を加え、この擲弾兵小隊は自分たちを守る遮蔽物から身動きできなくなっていた。


「少尉! 前進できないのか?」


「はい、大尉殿! 敵の機関銃陣地に足止めされています! 火力支援がなければ進めません!」


「分かった! どうにかする!」


 後方から擲弾兵小隊の上位部隊である擲弾兵中隊を指揮する陸軍予備役大尉が現れ、少尉から状況を聞くと通信兵に支援が得られないか司令部に連絡させた。


「空軍が支援可能とのこと! 空軍の近接航空支援が要請できます!」


「よし! 支援を要請しろ!」


「了解! 空軍の飛行艇と交信します!」


 大尉の指示で通信兵が帝国空軍で近接航空支援に当たっている飛行艇に連絡する。


『こちら機上前線航空管制官マルタ・ゼロ・ワン。近接航空支援の要請を確認した。そちらの位置を確認したい。座標を知らせよ』


「マルタ・ゼロ・ワン。我々の座標は──」


 戦場の上空を飛行する小型飛行艇を利用した観測機に搭乗している機上前線航空管制官が地上部隊の位置を確認し、高射砲などの脅威について把握。


『爆撃目標を赤のスモークで指示せよ』


「了解。少尉! 敵の陣地に赤のスモークを投げ込め!」


 赤いスモークを発する発煙弾を握って少尉が駆け、魔獣猟兵の機関銃陣地に発煙弾を放り込み、赤いスモークが立ち上る。


『確認した。空中大型巡航艦が艦砲で支援する。警戒せよ』


 観測機から空中大型巡航艦に侵入経路と目標が指示され、空中大型巡航艦が近接航空支援のためにゆっくりと降下してきた。


 空中大型巡航艦艦が地上部隊の上空を旋回しながら装備する口径20.3ミリ3連装砲が目標を砲撃し始める。地上で連続した爆発が起こり、機関銃陣地が他の陣地も含めて完全に破壊されたのが確認された。


「やったぞ! これで進める!」


「進め! 今のうちに突破しろ!」


 このミッドランにおける航空戦力と我々の知る地球における航空戦力の違いは、航空支援が継続的かつ大火力で行われるという点だ。


 爆弾を一度落とせば離脱する地球の航空支援と比較して、上空を旋回しながら大口径艦載砲で砲撃を続けるミッドランの航空支援の場合、それは強力である。


 地球にも輸送機を改装して軽榴弾砲を搭載したガンシップなどがあるが、ミッドランの場合はそれより遥かに大口径の火砲で砲撃し、かつ飛行艇そのものも装甲で厳重に守られている。


 そのため陸戦の常識もやや異なる。


 そのような戦場において適時帝国空軍や砲兵の支援を受けながら帝国陸軍B軍集団は前進。魔獣猟兵からフサリア作戦の作戦目標であるザルトオードラント領を奪還するのは間違いないかと思われた。


 だが──。


「レーダーに反応あり! 大型艦12隻を中核とする敵の空中艦隊です!」


「旗艦に伝達! 敵空中艦隊出現!」


 レーダーピケット任務に当たっていた帝国空軍の空中駆逐艦が魔獣猟兵の空中艦隊が空域に侵入してきたのを確認し、艦隊旗艦に報告する。


「カンピオーニ大将。魔獣猟兵の空中艦隊が確認されました。敵は作戦空域に侵入し、我が艦隊の方向へと向かっています」


「来たか。空軍司令部からは敵艦隊を逃さず撃破せよとの命令を受けている。全ての飛行艇は地上支援をすぐさま中止し、空中戦闘に備えよ。これで勝利すれば我々の航空優勢は確かなものとなる」


 帝国空軍は開戦以来作戦空域の防空を担当している第10空中艦隊に加えて、主力艦隊である第1空中艦隊と第2空中艦隊を派遣していた。


 第1空中艦隊と第2空中艦隊の双方を指揮するのはアルトゥーロ・カンピオーニ帝国空軍大将。旗艦は空中戦艦ヒンデンブルク。


 第1空中艦隊はケーニヒ級空中戦艦4隻、ヒンデンブルク級空中戦艦2隻、マッケンゼン級空中巡航戦艦4隻を中核として補助艦を含む。第2空中艦隊はジークフリート級空中空母3隻を中核とする。


 空軍司令部はカンピオーニ大将に対し積極的に敵空中艦隊と決戦を行い、これを撃破せよと命じていた。帝国空軍は今までの消極的姿勢から一変し、魔獣猟兵の空中艦隊の撃破に向けて積極的になった。


 というのも、今回のフサリア作戦は帝国空軍にとっても好機なのだ。魔獣猟兵も攻撃を受けている友軍地上部隊を支援する必要があり、かつ地上は帝国陸軍が占領し移動レーダー基地などを設置している。


 損傷した際に緊急着陸できる友軍航空基地も近くにあり、万が一の場合にも備えられている。これならばリスクを冒すだけの価値はあると空軍司令部は判断した。


「数においては対等だ。後はどちらが決戦に意欲的かの差でしかない」


 魔獣猟兵側の空中艦隊は主力艦12隻。帝国空軍側は主力艦13隻。


「第2空中艦隊に艦載機を発艦させろ。決戦前に可能な限り敵主力艦に打撃を与える。同時に空中駆逐戦隊も突撃せよ」


「了解」


 空中空母には小型飛行艇が搭載されており、大型飛行艇より高速で機動することで空中戦闘を行う。敵の大型飛行艇への攻撃も任務のうちだ。


「艦隊旗艦より連絡。艦載機を発艦させ、敵艦隊を攻撃せよとのこと」


「了解。戦爆連合を発艦させろ」


 第2空中艦隊の空中空母から艦載戦闘機と艦載爆撃機が次々に発艦。艦載戦闘機の一部は帝国空軍の空中艦隊の直掩に当たり、他は敵の空中艦隊に向かって飛行する。


「敵空中艦隊に向けて突撃せよ。空雷戦だ」


 艦載機と同時に空中巡航艦と空中駆逐艦からなる空中駆逐戦隊も突撃。


 これにより魔獣猟兵側の空中艦隊は数において有意かつ速度のある艦載機と同じく速度がある空中駆逐戦隊を同時に相手しなければいけない。


 主力艦同士の決戦前に敵の主力艦を減らしたいのは空中艦隊を指揮する司令官たちがずっと望んできたことであり、帝国空軍においても戦術として認識されていた。


 だが、帝国空軍が想定したのは人間同士の戦いだった。


 今回の敵は人間ではない。


「ネルファ大将閣下。敵の艦載機と空中駆逐戦隊が向かってきます」


「なるほど。敵はやるつもりのようだな。これまで逃げ回っていたのも終わりか」


 魔獣猟兵側の空中艦隊の旗艦ウィル・オ・ウィスプの艦橋にて人狼の将校の報告を受けるのはドラゴンだ。


 白い鱗のドラゴン。真祖竜だ。ドラゴンの中のドラゴン。神になったゲヘナもかつては真祖竜であった。神にすら至った偉大なる種族であり、旧神戦争の英傑たちだ。


 その姿は艦橋にはなく、空間を投影した映像として映っている。


 魔獣猟兵大将ネルファ。彼は魔獣猟兵の航空戦力を指揮する司令官だ。


「いかがなさいますか? 第3戦域軍司令部は敵空中艦隊を撃破し、航空優勢を奪取することを求めています」


「では、望み通りにやろうではないか。我々の力を見せてやろう。偉大なる竜種の力を。トラヤヌスは待機しているな?」


「はっ。トラヤヌス中将閣下は空中空母バンシーで指揮を執っておられます」


「よろしい。では、戦闘開始だ。敵艦載機及び空中駆逐戦隊を殲滅し、敵主力艦を撃破する。艦隊全艦突撃せよ。我々に続け!」


 次の瞬間、魔獣猟兵側の空中艦隊が存在する空域の空間が裂けた。


 そこから現れたのは無数のドラゴンたち。超弩級空中戦艦と同規模か、それ以上であるサイズの真祖竜たちだ。


「我に続け! 突撃!」


 ネルファが先陣を切って突撃し、帝国空軍の空中駆逐戦隊に突っ込む。帝国空軍の飛行艇は艦砲射撃で真祖竜たちを食い止めようとするも全く効果がない。


 真祖竜たちは帝国空軍の空中駆逐戦隊に火炎放射を浴びせ焼き払い、そしてその巨大な爪の並ぶ腕で飛行艇を叩き壊した。帝国空軍の飛行艇は弾薬が誘爆して大爆発を起こして墜落していく。


「ネルファ大将閣下より命令です! 亜竜を発艦させよとのこと!」


「了解。出撃させろ」


 魔獣猟兵の空中空母から出撃するのは小型飛行艇ではなく亜竜たちだ。真祖竜とは異なり大きさも小型飛行艇よりわずかに大きいほどであり、ドラゴンというよりワイバーンと言った方が正しいだろう。


 亜竜たちが次々に空中空母から発艦し、向かって来る帝国空軍の艦載機を迎撃し始める。帝国空軍の艦載戦闘機が口径20ミリ機関砲で砲撃するのに亜竜は素早くそれを躱し、艦載戦闘機以上の機動力でドッグファイトに挑む。


「空中駆逐戦隊、全滅です!」


「艦載機は迎撃されており、敵空中艦隊にダメージありません!」


 旗艦ヒンデンブルクに次々と被害が報告される。


「敵主力艦、こちらに砲撃を行いながら突撃してきます。いかがしますか、カンピオーニ大将?」


「退くわけにはいかん。決戦を行う。砲戦用意!」


 そして、主力艦同士の砲撃戦が開始される。


……………………

面白いと思っていただけたらブクマ・評価・励ましの感想などお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新連載連載中です! 「人生リトライな悪役魔術師による黒魔術のススメ」 応援よろしくおねがいします!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ