コマンドの襲撃
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──コマンドの襲撃
突然マルティア市街地中心部で響いた爆発音。
「攻撃だ! 魔獣猟兵だぞ!」
「どこにいるんだ!?」
爆発によって炎上しているのは長距離無線通信用の機材を乗せた大型軍用トラックだ。市庁舎の傍の公園に置かれていてそれが爆発して炎上している。
「クソ。通信機の傍にいた連中は皆殺しにされてる。敵のコマンドだ。このマルティアの内部まで浸透されたぞ!」
マルティア市内の警備に当たっている帝国陸軍部隊が浸透した敵のコマンドを探し、周囲を警戒しながら駆けまわる。魔道式重機関銃をマウントした軍用四輪駆動車が道路を走り、軍用犬を連れた歩哨が建物を探る。
「畜生。ここが襲撃されるなんて──」
索敵部隊を指揮していた帝国陸軍中尉がそう愚痴ったとき、彼の頭が吹き飛んだ。
「狙撃だ! 伏せろ、伏せろ!」
すぐさまベテランの下士官が命令を出し、兵士たちは一斉に伏せて遮蔽物に逃げる。
「狙撃手はどこにいるんだ? これじゃまともに動けないぞ!」
魔獣猟兵はまず連絡手段を潰し、それから市街地に狙撃手を配置して部隊の動きを制限しに動いた。あちこちに狙撃手と観測手が組んだ2人組の狙撃班が配置され、通りに迂闊に姿を見せた帝国陸軍の将兵を狙撃する。
「市街地に敵のコマンドが複数です。破壊工作が進んでいます。このままでは前線部隊を支えるためのものを失います。武器弾薬、燃料、飛行艇、そして司令部機能」
「なんたることだ。速やかに市内から魔獣猟兵のコマンドを駆逐しろ」
状況を把握した作戦参謀の言葉にミラー大将が命じる。
「僕たちもお手伝いします!」
「是非とも頼む。こちらは動員されたばかりの予備役が多く、練度で魔獣猟兵に劣るのが現状なのだ」
アレステアがすぐさま申しで、ミラー大将が心からそう任せた。
「シーラスヴオ大佐さん。動けますか?」
「もちろんです。ケルベロス擲弾兵大隊は行動可能。浸透した魔獣猟兵のコマンドを制圧しましょう」
「では、行きましょう!」
「少し待ってください。コマンドの狙いは何かを考えて動かなければなりません」
アレステアが急ぐのにシーラスヴオ大佐が呼び止める。
「ミラー大将閣下。このマルティアで攻撃目標となりそうなものは? 恐らく今市街地で繰り広げられている戦闘は陽動とこちらの戦力の拘置が目的。何か重要な目標を狙っているはずですが」
「ここにはトレネズンプフ領の前線を支えるためのものが大量にある。飛行艇や武器弾薬、燃料。そして、この司令部だ」
「空軍にすぐに全て飛行艇を空に避難させるよう命じられた方がいいでしょう」
「そうだな。すぐに行おう。長距離通信はできなくなったが、空港までの連絡はまだ無線が生きている。可能だ。通信参謀、空軍に連絡しろ」
シーラスヴオ大佐の提言にミラー大将が応じる。
「燃料と武器弾薬の備蓄の程度は?」
「運ばれてきたばかりだ。失えば打撃になる。前線は撤退してきた部隊が火砲や弾薬を喪失しており、それらを再編成する必要がある」
「では、そちらに戦力を出しましょう。こちらは完全武装の1個大隊を動員できます」
「頼もしい。燃料と武器弾薬備蓄は空港近くの倉庫で行われている。案内させよう」
シーラスヴオ大佐が言い、ミラー大将が部下に案内を命じた。
「アレステア卿。あなたにはこの司令部を守っていただきたい。あなたの戦力はあのカーマーゼンの魔女を退けるほどです。単独で私の指揮する1個大隊以上の戦力を有するものと思います」
「ここを守るのですね。分かりました。絶対に守ります!」
「頼みましたよ、アレステア卿。シャーロット卿とレオナルド卿もアレステア卿の支援を頼みます。ケルベロス擲弾兵大隊は燃料、武器弾薬の防衛に向かいます」
シーラスヴオ大佐はアレステアたちに第3軍司令部防衛を任せ、ケルベロス擲弾兵大隊を指揮して第3軍を支える燃料、武器弾薬備蓄が行われている空港傍に軍用トラックで向かった。
ケルベロス擲弾兵大隊は口径12.7ミリの魔道式重機関銃をマウントした軍用四輪駆動車に守られ、車列を組み、狙撃手やコマンドが潜むマルティア市街地を進んだ。
「閣下。攻撃の規模が分かってきました。まず空港はまだ襲撃されていません。市街地で破壊工作を行っている敵のコマンドは積極的な攻撃を行わず、こちらの戦力の拘置のみに拘っています」
「これでマルティア防衛に当たっている1個連隊が行動不能だぞ。敵はどこでここまで高度なゲリラ・コマンド戦について学習したというのだ」
「こちらから積極的に動く必要があります。市街地を砲撃することになりますが、建物に立て籠もった魔獣猟兵の狙撃手を排除し、部隊の移動を可能にしなければ──」
そこでまた爆発音が響いた。
「次は何だ?」
「警戒中の部隊より通達! マルティア市内の橋が落とされました!」
「好き勝手にやってくれるものだ」
部下の報告にミラー大将が苛立つ。
「さらに報告です。マルティア市内の高射砲陣地が攻撃を受けているとのこと。敵の主力は吸血鬼と屍食鬼で、規模は1個中隊!」
「まさかこのままマルティアを爆撃するつもりか? すぐに高射砲陣地に部隊を派遣しろ。急げ! 狙撃手は砲撃で叩いて構わん!」
ミラー大将が叫び、部隊が動く。
「司令部、敵が攻撃してくるんでしょうか?」
「価値の高い目標であることは間違いありません。攻撃の対象になり得ます」
アレステアが地下にある第3軍司令部を守るために市庁舎の1階に展開していた。第3軍指揮下の部隊が1個中隊、アレステアたちとともに守備に就いている。
「しかし、魔獣猟兵もかなり高度なゲリラ戦を仕掛けてくるね。まさか司令部を襲撃できるほど後方に浸透するなんてさ。このままじゃ、もうコマンドが怖くてまともに行動できなくなるんじゃない」
「それは困りましたね……。見分ける方法はないんでしょうか?」
「いろいろと迷信染みた話はあるけど、信頼できる話は聞いたことがないね」
魔獣猟兵たちが人に非ざるものたちにして人の姿をしている。それを見分けることは非常に難しいものだ。
「一番の問題は相手にカーマーゼンの魔女がいるということです。彼女たちは今は失われた空間魔術を使います。つまり、どこであろうとも襲撃可能だと言うことです。これは非常に厄介な問題になりますよ」
「確かに。セラフィーネさんも突然現れて──」
アレステアがそう言いかけたとき、銃声が響いた。
「味方が撃たれた! 敵だ!」
「どこから……!?」
警備に当たっていた将兵が仲間が倒れるのに狼狽える。
さらに銃声が。
「敵襲、敵襲! 人狼だ!」
そして、敵が姿を見せた。獣のように濃い体毛をした巨体に迷彩柄の戦闘服と防弾ベスト、そしてタクティカルベストを身に着け、火薬式銃を装備している。
「人間どもを始末しろ。司令部を制圧し、連中の頭を潰す」
「了解、大尉」
襲撃してきた魔獣猟兵のコマンドは1個中隊。口径7.62ミリのカービン仕様になっている自動小銃の他に軽機関銃やグレネードランチャーで武装している。
それらが巧みに遮蔽物やスモークを利用しながら市庁舎に突撃してきた。
「迎え撃て!」
「撃て、撃て!」
市庁舎の入り口から侵入してくる魔獣猟兵のコマンドを帝国陸軍の兵士たちが銃撃する。魔道式自動小銃と土嚢を積み上げた陣地に据えられた魔導式機関銃が火を噴き、市庁舎内にけたたましい銃声が響き渡る。
「怯むな。グレネードランチャーで機関銃陣地を潰して前進。火力を叩き込め」
だが、流石は旧神戦争で神々のために戦った戦士である人狼たちなだけあって、人間ならば死傷するはずの銃弾を数発受けても平然と前進してくる。
そして、人狼が装備している口径40ミリの元折れ式グレネードランチャーからグレネード弾が発射され、魔道式機関銃を掃射していた機関銃陣地を吹き飛ばす。
「機関銃がやられた!」
「畜生。連中、かなりの練度だぞ!」
人狼のコマンドに対抗する帝国陸軍部隊は予備役がほとんどで練度面で圧倒されていた。次々に兵士たちが倒れ、士気が崩壊に近づく。
「行きます!」
だが、そこで兵士たちを鼓舞する人物が現れた。
アレステアだ。“月華”を構えたアレステアが銃弾の嵐を潜り抜けて、人狼のコマンドに肉薄した。漆黒の刃が振るわれ、人狼のコマンドが防弾ベストごと斬り伏せられる。アレステアの突撃によってコマンドの侵入が遅れる。
「オーケー! やっちゃおう!」
アレステアを援護するようにシャーロットが“グレンデル”で人狼を狙撃。流石の人狼も大口径ライフル弾を受ければ、その動きが止まり、撃破される。特にシャーロットは正確に頭部を狙っているので人狼であろうと一撃だ。
「アレステア君。こちらは任せてください」
「お願いします、レオナルドさん!」
レオナルドもクレイモアで人狼のコマンドと交戦を開始し、彼らを切り倒していく。アレステアとレオナルドが前線で人狼のコマンドを押し返し、シャーロットが援護する。その間に帝国陸軍は態勢を立て直した。
「クソ。なんだこいつ……! 死なないのか!?」
「恨みはありませんがこれは戦争です! 許してください!」
人狼がいくら銃弾を撃ち込んでも倒れないアレステアに動揺し、アレステアは追撃の手を緩めることなく攻撃を続ける。
「これなら──」
アレステアが戦況が有利になりつつあるのを感じたときにそれは起きた。
空間断裂。セラフィーネが使用したのと同じもの。
それがアレステアを裂き、さらには市庁舎を破壊した。
「なっ……!」
レオナルドが倒れたアレステアと崩壊した市庁舎を見て目を見開く。
「大将閣下!」
そして、人狼たちの声とともに姿を見せたのは女性。
カーマーゼンの魔女のひとりにして魔獣猟兵大将カノン・ヴィンセントだ。
「ゲヘナの眷属が来るとの情報を得ていたが、正しい情報だった。それぐらいでは死なないのでしょう、ゲヘナの眷属?」
カノンは折り畳み式の指揮棒を構えてアレステアに告げる。
アレステアの傷が回復し、アレステアが“月華”を握って起き上がった。
「あなたもカーマーゼンの魔女ですか?」
「ええ。カーマーゼンの丘で契し魔女のひとり。あなたのことはセラフィーネから聞いている。ゲヘナの眷属にして不死身の戦士。セラフィーネからあなたを試すように頼まれている。あなたが本当に戦士かどうか」
アレステアが“月華”を構えて尋ねるのにカノンが答える。
「そうですか。では、あなたを倒します。僕はゲヘナ様の眷属ですから!」
「そう。私はセラフィーネのように優しくはないから」
カノンがそう言って指揮棒を振った。
次の瞬間、アレステアの周囲が暗闇に覆われてしまう。
「これは……」
「不死身の戦士は旧神戦争時代には多くいた。神々は不死身であれば負けることはないと思っていた。だけど、それは間違い。肉体が不死であろうと、精神は脆弱なまま。不死者はそれ故に心を殺せる」
動揺するアレステアにカノンが静かに語る。
「私は人の精神を破壊することにかけてはセラフィーネより上。覚悟して」
周囲が全く見えず、カノンの姿しか見えない中、アレステアが八つ裂きにされた。
何も分からないままアレステアは倒れ、そしてまた起き上がる。だが、すぐにまた八つ裂きにされる。手足が、腹部が、首が、身体の全てがみじん切りにされる。
「痛い? 痛いでしょうね。不死身であっても痛みは感じる。罪を犯した不死者に対する処遇は永遠に苦痛を与えるというもの。有名な英雄のひとりは臓腑を犬に食われ続ける拷問を受けて心が死んだ」
カノンがアレステアを八つ裂きにしながら語る。
「あなたもきっとそうなる。あなたは不死者であっても非力すぎる。私たちカーマーゼンの魔女の敵ではない。私たちは己が信じる神のために他の神すら殺したのだから」
「そうは、なりませんっ!」
カノンの空間断裂による連続攻撃をアレステアがついに躱した。
すぐさま起き上がり、アレステアは“月華”を構えてカノンに肉薄する。
「覚悟してください!」
アレステアがカノンに向けて“月華”の刃を振り下ろした。
それは確かにカノンの体を裂いたはずだった。
だが──。
「アレステア少年……。なんで……」
「え……。シャーロットお姉さん……?」
切り裂かれたのはシャーロットだった。彼女がアレステアが振るった“月華”に引き裂かれ地面に崩れ落ちる。
「本当に耐えられると思っているの? 言ったはず。私はセラフィーネのように優しくないと。私は騙し、惑わし、錯乱させ、心を殺す。人は私を“蜃気楼の魔女”と呼んだ」
アレステアの背後にカノンが現れてぞっとするほど静かな声で告げた。
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