うわでた
「ぴぁー!」
「おー、タイムラグがだんだん無くなってきてんじゃん」
「スゴーイ!」
ロゼが最初に防御魔法を発動させることに成功してから2週間が経過した頃。未だに発動させようとしてから実際に機能するまでラグがあるのは否めないが、日に日にその間隔が狭くなっている。
それに加えて当初は発動したら魔力を使い切りダウンしていたのも繰り返していくことで改善されていき、未だ1回毎に体の魔宝石の半分以上を消費していることには変わらないが意識を保っていられるようになっていた。
接触してからの発動、発動させる事に疲労困憊になるようではまだまだ実戦には程遠いが――それでも成長著しいねぇ。もちろん発動に成功したことを鬼林さんにも報告したのだが、彼女も非常に驚いていた。直接会って確認したいと言っていたが、どうにも現在お忙しいようで時間が採れないようだ。
さて、今日のロゼのトレーニングも済んでそろそろ良いお時間だし、昼ごはんの準備でもするかなーっと。んー、ファイヤースライムの乾麺を戻して焼きそばにでもするか?オークのばら肉とかキャベツが残っていたはずだからな。おっと、ロゼ用にマンドラゴラも忘れないように。
そうと決まれば今度は味付けだな。ソース――あらちょっとしかないか、買っておかなきゃな。となると塩焼きそば……醤油バター焼きそばもありだな。いっそのことカレー粉……は、一昨日食べたからカレー欲はないな。
焼きそばって結構味のレパートリーがあるから一回悩むと深みに落ちてしまうなぁ。うん、こういう時は一人で考えても仕方がない。オーロラたちからも意見を募って――ん?インターホンが鳴ったな。
来客の予定はないはずだったが……要はともかく女々さんは基本"文鳥化"の魔法で連絡をつけてから来るから除外。武道さんはたまに連絡なく来るが、今は仕事中のはず。配達の可能性もあるが……置き配にしてるはずだからそれも違う。ってなると巣守さんか?
そんな風に来客の正体を頭の中で巡らせながらも玄関へ向かう。まぁ玄関先まで出てしまえばすりガラスで大体誰が来たかってのは分かるからな――あれ、今更なんだけどなんで俺インターホンにカメラ付けてないの?付けるべきなのでは?決めた、この来客の相手をした後で絶対にワイヤレスのカメラ付きインターホンポチろう。
そんな決意を胸にして来客のシルエットを目の当たりにしたのだが……対応に時間かかりそうなシルエットしてんなぁ……居留守使っちゃダメかな。生憎居留守を使ったところで罪悪感をいだけそうにない相手だからな。うむうむ。今ならまだ――
「わえ相手に居留守キメようとはお主も中々に偉くなったものよなぁ」
……須藤さんとお前ならまだしも俺とお前に力の差は合っても上下関係そのものは無いだろうが。しかし外からもそれなりにこちらのシルエットが見えるとはいえ中からほどではないはずなのに滅茶苦茶バレてるな。
俺はため息をつきながらも観念し、玄関の扉を開く。そこにいたのは予想通りの人物であった。正確には人と言っていい存在かは不明だが。
はい、ヤマダです。おっと、そんな日本風な名前と絶世の美貌をもち、古風な服を身に纏っているからって騙されちゃいけない。――いや、この言葉の羅列は逆に怪しいな。名前がカタカナなところが特に――しかしてその正体は、去年潜った東荒ダンジョンに住まう人ならざる存在だ。
今までの言動や所持しているものとかで大方その正体についてはなんとなーく察しは付いているのだが、言及はしていない。
「ようやっと開けたか。まったく、久方ぶりというのにつれない奴め」
「……なんのご用事で?」
「そうじゃの、言うなれば遊びの誘いというやつじゃ」
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「ほー!あの軟体生物がこのように麺になるとはのぉ。美味美味」
「ジョージが作ってるんだからトウゼン!」
人ならざるものなんか焼きそば食っとる。誘ったのは俺だからいいんだけどさ、その服と焼きそばのギャップがひどくてひどくて。しかも豪快に啜るもんだから俺としては油がはねないか心配なところではある。
結局昼飯はにんにく醤油焼きそばと相成った。ごま油と醤油、そしてにんにくで味付けされたファイヤースライム乾麺と具達が絡み合って絡み合ってそれはもう背徳的な味わいだ。あまりにもなその暴力的な味付けにビールを一缶開けてしまうのも仕方がないというもの。……はい、俺だけ飲むというものアレなので、オーロラはもちろんヤマダにもあげています。どうせヤマダは車に乗ってきているわけじゃないだろうし。
「それにしても……来ぬのぉ」
「そればっかりはどうにも」
「喰わんと云うに」
美味そうににんにく醤油焼きそばを啜り、ビールを飲み下すヤマダだったが、思い出したかのように部屋の一片の方へ視線を向けるとその眉をハの字に下げる。その先には俺達と同じ焼きそばを食べているロゼが居るのだが――いつもなら俺達の直ぐ側で食べるのに今日は部屋の隅っこで食べている。
そしてヤマダが自分の方を見ていることに気づくと顔を皿に突っ込んで目を合わせないようにしている。
そう。ロゼ、まさかのヤマダにビビり散らかしている状況なのだ。ヤマダにロゼを害するつもりは欠片もないのだが、どうにも蛇に睨まれた蛙のようになってしまう。人見知りなどせずいつも元気ハツラツなロゼにしては非常に珍しい姿だ。……ジュエルグリフォンの本能がヤマダの正体に気づいたのか?
ヤマダはヤマダで非常に愛くるしいロゼを撫で回したかったようだが、あまりのビビリようにその手を引っ込めとりあえず遠くから見るということになった。……初めてヤマダを不憫に思った瞬間であった。
それはさておき、そろそろ聞いておこうか。
「で?遊びの誘いってのは何だよ」
「おぉそうじゃそうじゃ、すっかり忘れておった。何、そう身構えるものでもない。単純に久方ぶりに我が箱庭で遊ばぬかというものだ。無論、わえ自ら連れて行ってやるぞ?」




