突撃!どこかの魔女宅!
「木原さん、お久しぶりです」
「こちらこそお久しぶりです、女々さん。今日はよろしくお願いします」
戸中山ダンジョンでえっちらおっちら採取したり、グラキエル・ペンギオスで作った肉団子鍋を肴に酒飲み配信していたら意外と時間はすぐに経ち――ジュエルグリフォンを飼っている魔女へ会う約束の日の当日になっていた。
打ち合わせ通りお昼過ぎに女々さんが麻鬼要を伴いやって来たのでとりあえず中に入ってもらう。
すぐに出発するのではなく、一旦我が家に入ってもらうのは、今のままだとその相手先の魔女の場所まで行くことが出来ないからだ。
なんでも特殊な場所に居を構えているらしく、女々さん達魔女ならば直接外からその場所に行くことが出来る。しかし部外者である俺達も一緒となると転移魔法で連れて行ったほうが色々と都合が良いそうだ。――そう、転移魔法だ。
「転移魔法なんてあるんですね」
「そんなに便利なものじゃないんですよね。結構な魔力持っていかれますし慣れていないと事故もありえますし。私から言わせてもらうと転移スキルの方が反則ですよ。準備はいらないし、体力の消費だけでポンポンと飛ぶんですから」
「あー……」
転移スキルと言えば兎モンスター大量繁殖事件の三淵ダンジョンと先日の北海道のネイムル牧場ダンジョンに行くときにお世話になった某バラエティ番組のハンターを彷彿とさせる姿をしたブラックさんだ。
体力の消費というのは初めて聞いたが、俺が知る限りブラックさんは転移した直後とか疲れている様子を見せていなかった気がする。体力の消費が少ないのかそれともブラックさん自身が体力オバケなのか……どっちにしろ魔女目線でも転移スキルはチートなのね。
さて、そんな転移スキルに対して愚痴をこぼした女々さんだが現在マンドラゴラの漬物を食べてマンドラゴラ茶を音を立てて啜っている。というのも転移魔法を発動するための魔力を補充するためだ。
実のところ女々さんの実力なら摂らなくても転移することはできるそうだが、万全を期すためだそうだ。……魔女服着ているのに妙に様になっているよな。
ちなみに麻鬼要――いい加減、要でいいか。要の方はすでに自分の分を平らげてロゼやオーロラと一緒に遊んでいる。ちゃんと味わってはいたから良しとしよう。けどお前今日女々さんの転移魔法のサポートも兼ねているんだよな?
「ところでなんですけど、今日の手土産ってこの薬草とかでいいんですかね?」
「えぇ、木原さんが採ってきたこの薬草たちは寒冷地でのみ生息するものですからね。彼女も喜ぶでしょう。マンドラゴラはだめですよ?」
「流石に分かってますって」
いやまぁ、最初は軽い気持ちでマンドラゴラを贈ろうかと思っていましたとも。でも、マンドラゴラ欲しさに翠ちゃんに催眠をかけた要に買取の際に思った以上の値段をつけた女々さんを思い出してその考えをすぐに棄却した。無用なトラブルは避けたいからね。
それで選ばれたのがネイムル牧場ダンジョンで採取した薬草だ。これらは採取した後でも冷凍庫で保存しておけば長い期間保つとのことだったので保存しておいたのだがまさかこんなところで役に立つとは。……実は七草粥みたいにお粥にしようかなとも考えていたんだけど。
「さて、ご馳走様でした。ではそろそろ出発しましょうか」
「ですね。おーい、そろそろいくぞー」
「ハーイ!」
「ぴぁー!」
女々さんたちが食べた後の食器類が残っているが、ここはカルーアに任せるとしよう。
俺からの呼びかけにオーロラは俺の肩に、ロゼは頭にそれぞれ乗っかり準備万端だ。
さて向かう先は我が家の庭。転移魔法自体は屋内でも行えはするのだが、転移先が外のため靴を履いていないままだとよろしくないという訳で外で転移魔法を発動させることに。
ちなみに発動時にはそれなりに発光して目立つそうなのだが、そこは要の方が光を露出しないように調整するらしい。
「――――」
「――――」
おぉ、女々さんと要が何やらよく分からない言葉――というより音?を口から紡ぎ出し始めた。すると女々さんを中心として直径2mほどの円――いや、魔法陣が浮かんできた。なるほど、これが転移魔法か。
「ふぅ、もうまもなく転移が開始されます。……ところで木原さん、じゃがいもを新たに育てられているそうで」
「はぁ、要さんからお聞きに?」
「はい。ところでご存知ですか?芋焼酎とはさつまいもが主流ですが、じゃがいもからも作れるんですよ」
「え、そうなんですか?……でもなんで今その話を?」
「いえ、もしじゃがいもを持て余したときはいつでも買い取りますのでご安心くださいね?」
「いや、家庭菜園程度なんで芋焼酎作るほど溜まるわけ――」
言葉を続けようとしたその時、視界が真っ白に塗りつぶされた。
・
・
・
あー、はいはい。やっぱり転移スキルと転移魔法とでは転移中も微妙に違うんだな。転移スキルはテレビのチャンネルを切り替えるようにパッと視界が変わって移動が終わるが、転移魔法ではなんというか光の通路を通っているような感覚がした。
んで、転移が完了したのか徐々に視界が晴れていく。さーて、どんな場所なんだろうな。少々楽しみ――
「クルルルルル」
「んぁ?……フクロウ?」
なんかバカでかいフクロウが目の前にいるんですけど。すんごい俺の顔覗き込んでくるんですけど。おいロゼ、俺の頭から降りて背に張り付いてるのはビビってるからか。いやまぁ、俺の一回りも二回りも大きな存在に見下されるのは怖いよな。
「安心してください、木原さん。この子はストームオウルと言いましてここで飼われてるんですよ。――いるんでしょう、鬼林!」
女々さんの凛とした声が周囲に響き渡る。え、近くにいるの?キョロキョロと見渡してみるが人っ子一人……いや、そこら中にモンスターの気配は感じるな。ただ、ダンジョンの中にいるモンスターのように襲ってくるような気配ではない。
一体そのキリンさんとやらはどこにいるのか……その時、ストームオウルと呼ばれたバカでかいフクロウの頭上あたりがもこもこと動き始めた。え?まさか――
「ごーめんごめん、フクちゃんに誰か来たら向かうよう言ってたらいつの間にか寝ちゃってたねぇーアハハ」
ポコンとストームオウルの頭に魔女帽子が生えた。いや、人の頭も生えてきた。
「いらっしゃい、ハイエルフの木原譲二さん。並びに妖精女王オーロラにジュエルグリフォンのロゼちゃん。高いところから失礼するよぉ、私こそ魔女、庵鬼林だ」
おぉう、金髪で少々眠たげな眼だが西洋風な顔立ちをした女性だ。不敵な笑みを浮かべて中々侮れなさそうな人物だ。バカでかフクロウの頭部から生えている状況を無視するのであればな。
「……本当に高いところから失礼なんだけどちょっとフクちゃんの羽毛にズッポリハマってて……助けて……」
もしかしなくても変な人だわコレ。




