ロゼVS◯
世間はすっかり夏に向かい始め、少しずつ気温が高くなってきた今日このごろ。お昼ご飯であるトッピングマシマシカップ焼きそばを食べ終えた俺達はリビングでとあることをしていた。
「よーしロゼ来い!」
「ガンバレー!」
「ぴぁー!!」
俺からの呼びかけにロゼの目がまるでキッと鋭くなる(かわいい)。そして鷲の前脚と獅子の後ろ脚で床を踏みしめると、まるで獲物を狙うハンターかのごとくこちらに向けて飛びかかる。
猛獣ロゼの渾身の体当たりは、とあるものに激突し――ボヨンと間の抜けた音とともに弾かれヘソ天の形でひっくり返ってしまった。
「あらら……やっぱりだめか」
「ザンネン」
ロゼが体当たりをかまし反撃とばかりに弾かれた相手とは、たまに俺がトレーニングで使うバランスボールだ。ぶつかった衝撃でバランスボールは少しばかり俺の方へ向かって転がったが、それよりもロゼがひっくり返った飛距離のほうが伸びていたな。
「ぴぁー!」
悔しさからか、ロゼがそんな鳴き声をあげながらヘソ天の体勢のまま手足をジタバタさせる。笑っちゃいたいほど可愛らしいが、笑ってはいけない。ロゼは真剣なのだ。
さて、何故俺達がこんなことをしているかというと、以前ユグドラシルと約束した秘匿ダンジョンへロゼを連れて行くためだ。
隠しエリアに生えているユグの木から秘匿ダンジョンに転移し、ユグドラシルのいる地点までは安全なのだが、問題は戸中山ダンジョン入口から隠しエリアの道なりにある。
俺とオーロラからしたら戸中山ダンジョンは庭のようなところだが、ロゼにとっては違う。
なんせロゼ、もといジュエルグリフォンは滅茶苦茶弱い。忌憚なく言うのであれば数あるモンスターの中でも雑魚である。流石に同サイズの動物よりかはまぁ強いが、モンスターと比べるとか弱い存在だ。
そんなロゼをどうやって隠しエリアまで連れていくか。極論を言えばキャリーバッグに入れて俺が運んでオーロラがしっかり周囲を警戒すればいいのだろう。
だが、俺としてはダンジョンの中とはいえ広い世界を味わってほしいという思いもある。ただそれはあくまでも俺の考えでありロゼの意志ではない。
そこでロゼに確認を取ってみたところ――キャリーバッグではなく自分で飛んで行きたいと気合の入った鳴き声で示してみせた。
そんな訳で絶賛トレーニング中なのだが……まぁ奮わない。なんだろう、走力もあるし飛翔能力もあるのだが、如何せん非力。種族名に強者のイメージがあるグリフォンが入っているのがなにかの間違いじゃないかと疑いたくなるレベルだ。いや見た目はグリフォンで間違いないんだけども。
「ワタシよりチカラ持ちなのにねー?」
「ぴぁー……」
オーロラがロゼのお腹あたりをモフりながら慰めるが、オーロラと比べたら誰だって力持ちだろう。
うーん、しかし困ったな。このままだとロゼの意志関係無しにキャリーバッグに詰めて運んでいくことになる。ロゼの賢さなら言って聞かせりゃ俺達のそばを離れないように出来るかもしれないが、赤子特有の好奇心に負けて勝手にどこかに飛んでいく危険性もある。
モンスターを撃退までは行かずとも、自分を守る手段くらいは持っていてほしいのだが……やはりジュエルグリフォンの貧弱さからは逃れられないのか。
そんな風にどうにかならないかと考えていると不意に玄関のインターホンが鳴り響いた。今日は宅配便が来る予定がなかったはずだが……巣守さんでも来たのかな?
どっこいしょと立ち上がり、玄関に向かうと――あぁ、巣守さんじゃねぇわ。玄関の扉のすりガラスにとんがり帽子のシルエットが見える。巣守さん老夫婦があんなシルエットな訳が無い。となると候補は2つに絞られる。いや、身長からして答えはわかっているんだけど念の為。
「えーっと……どちら様?」
「麻鬼要です!」
せやろな。もう一人の候補、彼女の祖母である麻鬼女々さんであればここに来る前に伝書鳩ならぬ封筒鳥の一つでも飛ばしてアポ取ってから来るもんな。それが無いってことは完全に麻鬼要だけで来たのだろう。
「あー、いらっしゃい。いきなりどうした?」
「お土産のお礼にと」
「そりゃわざわざどうも。とりあえず入る?」
「あ、ありがとうございます。ぜひとも」
会った当初であればいくらか警戒はしただろうが、反省もしてるし罰も与えられたのだからこれ以上警戒することもないので家に招き入れる。リビングに通してお茶を出す。
ちなみに麻鬼要に直接お土産を渡したわけではない。どこ住んでるか知らんしね。それなら同じ大学に通っている翠ちゃんに女々さんのお土産も合わせて渡してもらったのだ。
「いやー、お婆ちゃんも喜んでいました。いい酒のツマミだって」
「そうか、それは何よりだ」
「それにお土産をお茶請けに翠とお茶会もできましたし……ふふふ……」
そのお茶会とやらを思い出しているのか、麻鬼要は頬に手を添えると妖しく、艶かしく笑う。そーいやこいつこんなやつだったな……女々さんと一緒にいるときは大人しくしているからすっかり忘れていた。
やがて気を取り直した彼女だが、ふと俺の背後に目をやると俺にだけ聞こえるほどまで声を落として話しかけてきた。
「ところで……ロゼちゃんどうしたんですか?」
あぁ、自主練としてバランスボールと格闘を繰り広げているロゼが視界に入ったのか。遊んでいるのではなく真剣な表情で取り組んでいることからただ事ではないと察したようだ。
第三者からの視点、さらには魔女からの視点ということでなにか光明があるかもしれないと、とりあえずユグドラシルことをぼかして今の状況をかくかくしかじか、まるまるうまうまと説明する。
「はいはいはい、なるほどですね……ロゼちゃんダンジョンに行けるようになりたいんですね」
「ぴぁー……」
「ヨシヨシロゼー」
「……木原さん、この前お話したこと覚えてます?」
「この前?」
「ほら、おばあちゃんの知り合いにジュエルグリフォン飼っている人がいるって」
あー、確かマンドラゴラ酒の試飲会をした時だったか。そういやそんな話もしたんだったな。
「会ってみます?その飼い主さんに」
要「あれ?ロゼちゃんの魔宝石、前見たときよりも純度上がってない……?気の所為……?」




