おあずけ
「くぁ~あ……よく寝たなぁ」
ネイムル牧場ダンジョンから戻ってきてから初めての配信の翌日朝。俺は大欠伸をし、ポリポリと痒くもない腹を掻きながらも朝食を作るべくキッチンに向かう。
その道中、当然廊下を渡るのだが……まるで新居のように床がピッカピカに輝いているなぁ。いや、厳密には廊下の床だけではない。家中丸ごとと言ってもいいのかもしれない。
まぁリビングに設置されている水槽で優雅に泳いでいる金魚――いや、シルキーに最新の洗剤とか掃除道具を渡して一週間期間を与えればそうなることは自明の理なのかもしれないが。
ただここまでしろとは言っていない、掃除をすることがシルキーの楽しみみたいだから気晴らしにやってねーくらいの気持ちだったんだよ。こんなワックスまでかけちゃって。下手なハウスクリーニングよりもよっぽど優秀なのでは……?依代にしているうさぎのぬいぐるみのぴょんちゃんも綺麗なままだし。
「ピギー」
「おっ、親分おはよう」
庭から家に入ってきたのか、親分マンドラゴラが鳴き声をあげながら駆け寄ってきたので挨拶を返す。
マンドラゴラサイドは特にこの一週間は代わり映えのない日常だったようだが、如何せんマンドラゴラを消費する俺達が不在だったため、いつもよりも子分の在庫が溜まっているそうだ。
なので今のところ帰ってから配信以外の食事は毎度マンドラゴラを使用している。そうだな、今日の朝食は雑炊にしてマンドラゴラは薄切りにして入れるかな。それなら火の通りも早くて味が染み込みやすいからな。
おっとそうだ。親分に聞かなければいけないことがあったんだ。
「親分、昨日お土産といっしょに渡した種芋だけど大丈夫そうか?」
「ピ?ピーギピギ!」
「まだ分からないけど多分大丈夫?すまんな、頼むわ」
「ピ!」
実は北海道で食べたじゃがいもが非常に美味かったため、これを育てられないかと親分に種芋を渡してみていたのだ。種芋を手渡した時、親分は紙を見る某くまのように観察するとやるだけやってみると引き受けてくれた。まぁ「できればいいな」程度なので気負わなくても……本当に。気を使ってるとかじゃなくて。
ちなみに親分に渡したおみやげは北海道で販売していた肥料1キロ分とお酒。本人の希望だったので……はい。もちろんカルーアにもお土産はあげている。カルーアには北海道特産のほうれん草だ。
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朝食のマンドラゴラ入卵雑炊をオーロラとロゼとともにめちゃくちゃ味わった後――
『――っちゅう訳でもうちょいかかりそうやって』
「うーっすうす、了解」
『ほなー』
と、そんな武道さんの挨拶を聞き終えて電話を切った。
今しがた武道さんと話していたのはネイムル牧場ダンジョンの報酬の件。といっても、依頼を達成した際の報奨金ではなく、レギオン・ハルニクスを斃した報酬だ。
まず宝箱。斃してすぐは俺足ガクガクで須藤さんズボン破損でてんやわんや、唯一無事な柊も緊張の糸が切れながらも須藤さんのフォローに回ろうとしていて気づいていなかったが、レギオン・ハルニクスの死体?残骸?のそばには3個、宝箱が出現していた。
戦闘に参加した人数分なのだろうが……薫風の柊以外のパーティメンバーは?となると、流石に戦闘に参加しなかった時間が長すぎたのか除外されたようだ。それに関しては柊曰く「下手にあの戦闘に参加して命を落とすようなことにならなくてよかったから全く問題ないよ」だそうだ。
そしてレギオン・ハルニクスの死体。これについても俺達3人で分けることになったし、誰がどの部位をもらうかというのも話はついたのだが、これに待ったをかけたのがダンジョン省。
早い話がレギオン・ハルニクスという珍しいモンスターの研究をしたいため、買取ないし少しの間だけ預けてほしいそうだ。必要であればネイムル牧場ダンジョンに参加したときと同じ契約書を結ぶ用意があるとのこと。
そしてもう1つ提示されたのが、レギオン・ハルニクスの部位を買取せずに引き取る場合、望みの形で加工するしその費用も不要にするというものだったのだ。
というのもレギオン・ハルニクスの部位、そのままだと普通にデカいのだ。人間サイズの我々としては装備なんてできるわけもない。出来るとするならば、イギリスの亜人、巨人くらいだろう。
俺達はその提案に乗ることに決めた。まぁそもそも調査参加時点でダンジョンから持ち帰ったものはダンジョン省で一時預かる旨の話があったわけだし。その期間が今まで伸びるだけのものだろう。それにタダで加工してくれるというのもいい。ダンジョン省が抱えている職人がいるのであれば、優秀だろうし、俺そういう伝手ないし……
という訳で現在、ダンジョン省にはレギオン・ハルニクスの部位と宝箱の中身が預けられ調査してもらっている。武道さんからの電話はその進捗を伝えてくれるものだった。
さてさて、俺が選んだあの部位はどうなるのだろうか。色々希望は出してみたが、どうなるのか今から楽しみだ。
――おっと、そうだ。そろそろ巣守さん家に北海道土産を渡しに行かなきゃな。えーっとバターサンドとバウムクーヘン、翠ちゃんにあげるように生チョコレート……
「生チョコレートタベタイ!」
「ぴぁ!」
「大丈夫だ、俺も食べたいからいっぱい入ってるの買ってる!ホワイトチョコも抹茶もあるぞ!」
「サスガジョージ!」




