【視聴者】酒飲み配信なんでね【そっちのけ】
「へぇ……!冷えているのに焼き立てのような柔らかさだな」
「カミきれちゃうね!」
簡単に乾杯を済ませてから俺たちがまず初めに取り掛かったのはスノーウルフのタタキだ。
よくローストとタタキが混合されることが多いが、ローストは中までじっくりに加熱する調理法に対してタタキは表面だけ加熱して中はレアなのだ。
で、驚きなのがこのスノーウルフのタタキなのだが……肉汁の旨味を確かに感じられるのだ。普通、肉汁は冷えれば固まる。しかしスノーウルフは普段から雪に潜んでいるからか、その肉は常温でも溶ける。そのため口に入れただけで肉汁が溢れて幸せにしてくれる。
最初は肉の旨味を味わうべく、そのままの状態で食べてみたのだが、タレを用いることでその旨味は劇的にランクアップする。はい、今回のタレはポン酢にガーリックチップスを砕いたものとミルで挽いたブラックペッパーをふりかけたものになります。
「……ジョージ、これセイカイかも」
「あぁ、俺のハイエルフシックスセンスが火を噴いてしまったようだな」
黒胡椒のピリリとした風味とガーリックチップスの特有の風味とザクザクした食感、極めつけはそのすべてを引き締めるポン酢の酸味。その全てが掛け合わされ、スノーウルフのタタキの旨味を何倍も強化させてしまう。
あぁ、最高だ。オープニングの時から飲んでいた酎ハイなんて即尽きた。まだ1品目だというのに2缶目のプレモルが出勤してしまっているではないか。よろしくない、よろしくないですよこれは。
オーロラもバクバクと次から次へとタタキを口の中へ放り込んでいる。ハハハ、よく噛むんだぞオーロラ。流石に喉に詰まりかけて胸をどんどん叩く妖精女王の姿は見たくないからな。
『あのジョージさん』
『スライドショー流しながら食べ進めるのやめてもらえません?』
「すみませんねお客さん、うち酒飲み配信屋なんだよ」
『存じ上げてるけど!』
『なにこれ吹雪!』
「あぁ、それ今食べてるスノーウルフ倒してる時の動画だな」
『もうちょいテロップ大きくできません!?』
「視聴者側でズームするとかモニター大きくするとかしてね」
そういう訳で、配信画面の中ではいつも通り酒飲みしている様子をお届けしているのだが、画面右端に俺が厳選した写真と動画のスライドショーを垂れ流すテロップを表示させている。無論ダンジョン内の画像なので血とかグロい要素はどうしてもあるが、そこら辺のモザイク処理はしっかりされている。撮影ドローン本当に優秀だな。
さて、今流れているのは2日目かな?グラキエル・ペンギオスの皇帝級と遭遇する前にスノーウルフの群れと対峙した時の戦闘動画だ。この時に用いていたのはトネリコの弓と鉄の矢、ウォーハンマーと吽形という特に見られても問題のない連中だ。
トネリコの弓はユグドラシルからもらった由緒正しきエルフが実際に使っていた最高レベルの弓なのだけれど、一見古ぼけた見た目の弓だからな。分かる人には分かるかもしれないが、一番の隠し玉であるヤドリギの矢のカモフラージュにもなりそうだし。
『なんでこんな猛吹雪なのに外してないんですかね』
『百発百中かよ』
『なんでこのエルフでっかいハンマー振ってんの?』
「このダンジョンで手に入ったから感触確かめてんの」
『と思ったら太刀で一刀両断してるのなんなの』
『バケモンだバケモン』
「冒険者ってどこかしらバケモンみたいなところあるだろ」
『否定はできない』
しかし食いつきすごいなぁ……いや、今まで頑なにダンジョン内の動画とか出していなかったからその反動というのは分かるが。戸中山ダンジョンでの成果を写真に収めて公開するくらいしかしてなかったもんな。
『ところでこれオーロラちゃん映ってないけど画角外にいるの?』
「ンー?」
「あぁ、その時は確か……寒くて俺の服に潜り込んでるときじゃなかったか?」
「アー、ソウかも」
『kwsk』
『kwsk』
「あ、ホラ写真変わったぞ」
『でッッッ』
『うわ、デカいペンギン。なんか鎧付けてんな』
『これがグラキエル・ペンギオス』
『皇帝級こんなにデカいのか。鎧は知らんけど』
『話そらした?』
逸らしましたが、それを言う必要はないよな?
ま、スライドショーに夢中になっている視聴者は置いといて、次の料理に手を付けようじゃないか。
次はネイムル牧場ダンジョンで確保した薬草たちで作った天ぷらだ。えーっと……うん、まずはオオユキノシタから食べるかな。
オオユキノシタの天ぷらだが、元々のオオユキノシタのサイズが結構なものだったため程よい大きさに切り分けた後に天ぷらにしている。それにわさび塩をちょちょいと付けて頬張る!
「ニガい!でもクドくない?」
「だなぁ……通常のユキノシタよりもしっかり苦いが、爽やかな風味もあるな。わさび塩がよく合う」
これは敏感な舌を持つ子供には受け入れられ難い苦みかもしれないが、大人なら問題ないだろうな。その証拠にまた酒がどんどんと進んでいく。
氷縫草は糸のような茎がこんがらがった姿をしている。少々間抜けな見た目の植物だが、その茎を紐解き、縫合に用いると体温で融解しながら溶けた際の薬効成分が傷内部へ浸透し、組織再生が促進されて完全に治った頃には氷縫草は溶けてなくなり抜糸の必要がなくなるという面白くも優秀な薬草だ。
それを紐解かずにこんがらがった状態で天ぷらにしてみました!鳥の巣のような感じになってしまったが……食感がめちゃくちゃ軽い。スナック菓子かと錯覚してしまうほどに軽く、なおかつ砂糖菓子のように口の中でスッと溶けてなくなってしまう。だが、確かな満足感がそこにあった。
「今回天ぷらだけどジャガイモみたくガレットにしてみても面白いかも」
「イイネ!」
『ワイルドオークだぁ!』
『襲え!襲えーっ!』
『首ちょんぱだぁ!』
『ハイエルフ鬼強ェー!このまま逆らう奴ら全員ピーしていこうぜ!』
「ピーしねぇよ」
おかしいな、今まで築き上げていた視聴者たちのハイエルフ像崩れていってない?……まぁいいか。




