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・・・・・・(32)終章 仙人に捧ぐ

 「お嬢さんとの交際を認めてください」

 ウィズはうちの母に頭を下げた。

 あたしも母もあっけにとられた。

 何も、こんな時に言わなくても。

 ギャラリーが多すぎる。


 あたしの退院祝いの席だった。

 喜和子ママが、常連さんを呼んでパーティーを開いてくれた。

 申し訳ないと言って、うちの母が出資してデリバリーパーティーにした。

 出席者は、母とあたし、喜和子ママとウィズ。

 常連ではないけど友人として寺内まどか、感謝をこめてベレッタ刑事。

 オタリーマン白井、朝香 怜先生(もうこう呼ばなくちゃ)。

 うちの父は、さすがに遠慮したのか、ウィズが嫌いだからか知らないけど、出席を辞退した。


 全員で乾杯しようということになって、グラスを取り上げた途端、ウィズが立ち上がって言ったのだ。

 「美久ちゃんのお母さん、まだ僕らの交際に反対ですか」と。


 「正直言って、諸手を上げて賛成とは言いがたいわ。

  美久は吹雪さんと一緒にいて、危ない目に会いすぎてる」

 母は、抑えた表現で反対を表明した。

 「ウィズが助けてくれてるから、これで済んでるのよ!」

 あたし、思わず叫んだ。

 

 そこで所沢刑事が、大きな咳払いをした。

 「おいトカレフ、もう何かアピールしたいことはないのか?

  朝香先生はもう少しCMしたようだが?」

 そう言われてウィズは、

 「張り込む札がありませんよ」と答えた。

 「アホだな、おまえさんは!」

 刑事がイライラした声を出した。


 「じゃあ、ここにいる全員に聞いてみるが」

 学校の先生みたいに、ベレッタ刑事は一同に言った。

 「この吹雪くんが株をやってるのを知っている者は、どのくらいいる?」

 母を除く全員が手を挙げた。

 

 「ではもう一つ聞く。

  資産が2億円を超えたのを知っている者」

 「はああ?」

 あたしはついとんでもない声を出してしまった。

 2億って。 なんなんだ、その法外な数字は!!


 「レミは知ってたぞ。 2億2千万って記憶がある」

 怜が言った。

 「あれ? 2億4千万って聞いたけど」と、白井さん。

 「俺が聞いた時点じゃ、2億6千万だった」と、所沢刑事。

 「だったらこっちが最新だ。 さっき聞いたんだもん、2億8千万」

 なんと、まどかまで知っている。

 

 「で? 実際は、今いくらなんだ?」と刑事が聞くと、

 「実は、面白くないのでそろそろやめようと思って」

 ウィズの言葉に、一同どよめいた。

 「とりあえず貯蓄に回すつもりで、2億分換金して銀行に預金したんですが、その時の売価の差額であと5千万増えちゃって」

 「だ、か、ら! 結局いくらなんだ!」

 「預金が2億。 で、1億3千万が運用中」

 母がペタンと床に座り込んだ。


 「金額は立派だ。 だが問題はそこじゃないぞ、トカレフよ」

 刑事は呆れ顔で首を振った。

 「問題はだな、これだけの無関係な人間が知ってることを、肝心のお嬢がなぜ知らされてないかということだな」

 ウィズは不思議そうな顔をした。

 「だって美久ちゃん、株の話なんかわからないって」

 そう、確かにあたしに株の話をしたってちんぷんかんぷんだ。


 「株を知らんでも金額ぐらい分かるだろうが!

  お前さんはカスミ食ってりゃ生きて行けるかも知らんが、女房は飯を食うんだぞ!!」

 刑事がついに声を荒げた。

 

 「お母さん、つまり、こういう男なんですよ。

  まあ、仙人の変種かなんかだと思って、見守ってやってもらえませんかねえ」

 ベレッタ刑事が母の方を見て締めくくった。 

 「さ、さんおくさんぜんまん‥‥。

  さんさんぜろぜろぜろぜろぜろぜろぜろ‥‥」

 よほど意外だったのか、母はちょっぴり壊れてしまっている。

 あたしはカチンと来た。

 「お金の話なら、あたしからもあるわよ。

  2月に父さんと離婚して、あたしの学費が出せないって嘆いてた時、あたし1千万持ってったわよね。 あれもウィズに貰ったものよ。

  宝くじだったんだけど、当たってるのを承知で譲ってくれたのよ。

  結婚してなくても、もうあたしウィズに半分養って貰ってたんだからね。

  こんな言い方したくないけど、別れろと言うんなら、全額返金するんでしょうね!!」

 母は、あわあわあわ、と口をパクパクさせた。

 「それはどうも‥‥。

  あのそれはとても、どうも、お世話になってしまって‥‥。

  今後とも、その、美久をよろしくお願いします‥‥」


 あたし、情けなくって涙が出て来た。

 「母さん、キライ。 ‥‥なんなのよ。

  ウィズの価値はお金なんかじゃないわ!」

 「いいよ。 お金で済むなら美久ちゃんに全部渡すから」

 ウィズが鷹揚に笑った。 そして母に、

 「それよりお許しを頂けたことが嬉しいです。

  今回のことで、やっぱり一緒じゃないとダメだと思って‥‥。

  美久ちゃんがいないと、‥‥もう僕がぜんぜんダメです」


 呆然としていた母の顔が、いきなり真っ赤になった。

 あたしの顔も、なんだか熱っぽくなってしまった。


 「いいわねえ、美久は。 うらやましいわ」

 母は正気に戻って、しみじみ言った。

 「男の人は普通プライドが邪魔して、人前でそんな台詞言ってはくれないものだもの。

  母さんだって、父さんがそういうこと口にしてくれる人だったら、離婚なんかしてないと思うわ」

 ウィズの言葉は、思いがけなく母の琴線に触れたようだった。

 乾杯の前に、いっぱいの拍手をもらった。


 駆け寄って抱きしめてくれたのは、喜和子ママだった。

 この陽気な人が涙ぐんでいるのであたしは驚き、訳を尋ねた。

 「嬉しいのよ、当たり前じゃないの。

  だってうちはお嫁さん、来ないはずだったんですもの!」

 そうだった。 変身したのは朝香センセだけじゃないのだ。

 自分が炎の中で死ぬと思っていたウィズ、世界中の人に嫌われると思っていた小さな魔術師はもういない。

 あたしは喜和子ママと抱き合って、ちょっぴりもらい泣きをした。

 

 「あ〜あ。 オレ全然まるっきり玉砕だったのかなあ」

 立食式のパーティーが始まると、怜がグラス片手に寄ってきて、ぼやいた。

 「朝香センセ、もったいないわ。

  そんなにステキな男性になったんだから、もっといい出会いがあると思うわ」


 「余裕の発言だけど、寸止めは卒業したのかな? んん?」

 からかうような視線も口ぶりも、レイミ先生のものだ。

 「ノーコメントです、教えない!」

 あたしはソッポを向いて見せた。

 「ひどいな。 レミの時はなんでも言ってくれたのに」

 「だめ。怜さんエッチなんだもん」

 「あんまり焦らすと、コロ助浮気するぞ」

 「だーかーらあ、焦らしたことなんてないんですってばあ!」

 ついつい大声が出てしまう。

 「2月からあたし、ウィズに関しては総ウェルカム全オッケーなんです!

  もうドアなしで開きっぱなしなんです!

  文句があるなら運命の女神様に言ってください!」

 テーブルの向こうで、ウィズがきょとんとした顔でこっちを見ていた。


 ウィズはあたしの体が回復するのを、あせらず待つと言ってくれた。

 実際あたしも入院中は、そんな不埒なことをする体力はなかったし、回復してきたら大部屋になり、ますます難しくなった。

 外泊許可が出ても、母が見張っているのでおとなしく家にこもっていた。

 だから実質的には今日で解禁、ってことになるんだけど。

 あの顔じゃ、わかってるんだかどうだか。


 まあいいや、急ぐことはないもんね。

 あたしは、朝香先生に舌を出して見せた。

 ゆっくり待って、一緒に歩いていけばいい。

 何しろ相手は、カスミを食っておられる。

 三途の川が見えるまで、道はまだまだ長いのだ。

   

 

 (「魔術師のプレミア」 終) 


「あれだけ気を持たせておいて、美久ちゃん結局バージン残留かよ」ああ、お怒りの声が聞こえるようです。が、「魔術師のプレミア」これにて終了です。

お付き合いいただいた皆様に心から感謝いたします。

この作品のアクセスに関しては本当に安定してまして、ユニークで毎回90前後と爆発的ではない人数でしたが、同じ人数の方が本当に毎回確実にアクセスしてくださっていて、気に入った方が楽しみに見てくださってるんだなあと毎日嬉しく思っていました。

よろしかったらご感想などいただけると、こちらもお話ができるので更に嬉しいです。

ご愛読ありがとうございました!



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