その9
その時から、僕と葉月さんは特別な関係になった。同じ事件の解決に取り組む探偵とその助手。未知の細胞の存在を突き止めようとする科学者2人。
つまらない、代わり映えのしない毎日が意味のあるものに変わった。
その後も、葉月さんの持ち物が僕の机の上に気がつくと移動しているという現象は、起き続けた。葉月さんの黄色いペンケースの中の物や、ペンケース自体、時にはノートや教科書が移動していることもあった。
もはや、葉月さんもそれが僕の仕業だとは疑っていなかった。もしそれが僕の手によるものなら、僕は世紀のマジシャンだ。Mr.マリックやセロだって真っ青だ。
その現象が起きる時には共通点があった。それが起きる時は、決まって僕ら2人ともがそのことについて意識していない時だった。僕と葉月さんのどちらかが注意深くあり続けている限り、それは起きなかった。
でも、授業にだって集中しないといけないし、僕も葉月さんも真面目で授業はちゃんと聞く方だったから、いつもそのことにだけ集中するなんていうことは不可能だった。だから、その現象は起き続けた。
1度、2人で示し合わせてそのことについてあえて意識しないでみようということになった。意識していない時に起きるということは、2人ともあえて意識しないことによってその現象が起きる確率も高まりそうなものだが、むしろ回数は減ったくらいだった。訳が分からなかった。