異世界の姫に転生したので平穏な人生を夢見てたら、学園に魔王の息子がやってきた!
私には前世の記憶がある。日本に住み、普通に学校に通い、暮らしていた記憶が…。
難病にかかり、治療の甲斐無く死んでしまった私は異世界でお姫様として生まれ変わり、クリスティーヌと名付けられた。
女の子ならほとんどが憧れるであろう、可愛いフリルのドレスや高価なアクセサリー、お城の素敵な部屋には最高級の家具が惜しげも無く揃えられ、生活には何不自由ない。そして可愛い弟もいる。姉の私が言うのも何だが、性格も素直で勉強熱心な弟は将来、良い王になるだろう。
さて、異世界で人族の王女として生まれた私は現在、国立の名門学園に通っている。異世界らしく人間の他にエルフや獣人などが存在しているこの世界。以前は人種間の隔たりが大きく、奴隷としての人身売買、差別なども酷かったらしいが、私の国の祖先が人種間の差別撤廃に大きな貢献をしたそうで、現在はほとんど差別が無くなっている。
うん。同じ生き物なんだから、差別なんて良くないよね。ご先祖様は偉かった。大体、エルフは容姿端麗で、獣人だってケモノ耳や尻尾はモフモフしてて超可愛い。美しいエルフや可愛いモフモフを差別する理由は全く無い。子孫として「ご先祖GJ!」と言わざるをえない。
そんな訳で現在、私の通っている学園は私のような人間の他にエルフや獣人の子も在学している。人種で差別をしないと国が公言しているのだから当然だ。
勿論、無駄に気位が高い人間の貴族の子が他種族を下に見るという事が絶対無いとは言えなかったが、王女である私が、そういう差別とかする奴を嫌っているのもあって現在、学園内で表立ってエルフや獣人を蔑んだりするバカな奴はいなかった。そんな事をして悪評が立つとロクな事がないからね。まぁ、良い事である。私は平穏な学園生活を望んでいるのだ。
異世界で生まれ変わった私は美男美女の両親の血を受け継いだおかげで容姿にも恵まれた上、自分で言うのも何だが頭も良い。才色兼備って奴だ。こんな恵まれた人生で怖い位だが、平和なこの異世界でこのままレールに乗って平穏に暮らしていけるに違いない。そう思っていた。アイツが来るまでは…………。
いつものように学園に来ると教室内がザワザワしていた。どうやら転校生が来るらしい。どんな子だろう。出来れば可愛いケモ耳の獣人族が良いなぁとワクワクしていたら、担任の先生に伴われて転校生が教室に入って来た。
メガネの担任の後ろに居るのは…。男の子なのだが、人族にしては耳がとがってる…。エルフにしては耳が短い……。黒髪に赤色の瞳、目つきがちょっと悪い気がするが、容姿は良い……。もしかして、ハーフエルフかしら? 思案していると担任の男性教師は明らかに顔色を青くしながら男子生徒を紹介した。
「今日は転校生を紹介する…。魔界からやってきた魔族のヘルムート君だ。みんな仲良くするように……」
「俺は魔王の息子のヘルムートだ! みんなヨロシクな!」
笑顔で自己紹介する魔王の息子に教室内は騒然とした。
当然だ。魔族である。しかも魔王の息子……!
休み時間、魔王の息子に興味を持った、命知らずなクラスメイトがヘルムートに話しかけて聞いた所によると、どうやらヘルムートの父である魔王が息子に見聞を広めさせたいと考えたらしく、人族、エルフ、獣人も通っているこの学園なら視野が広がるに違いないと魔界の学校から転校させたらしい……。
ちなみに今まで、この学園に魔族は一人もいなかったが、学園側としても、人種に関係無く門戸を開くと言う学園の理念上、魔族だと言う事を理由に入学を断る事は出来なかったのだろう……。
なんで、よりによって私のいるクラスに転入してきたのかと頭を抱えたくなったが、理由は分かっている。この学園のクラスは成績が良い順にAクラスからB、C、Dと別れている。私に居るクラスはA…。つまり魔王の息子、ヘルムートも頭脳明晰って事なんだろう…。私は今ほど自分の頭の良さを悔やんだ事は無かった……。
さて、この異世界で魔族というのはやはり強大な魔力を持っていて、腕力も強く、しかも短気で攻撃的らしい……。らしい、というのは私が今まで直接、魔族と接触した事が無かった為、人づてや物語で聞いた話くらいしか知らないからだ。
魔族と他種族は現在でこそ長期休戦中だが、数百年前までは大規模な戦争が行われていたそうで、魔族VS人族、エルフ、獣人族の戦いではおびただしい数の戦死者が出たそうだ……。
できる事なら魔王の息子が、短気で喧嘩っ早い奴では無い事を祈るしかない……。そう思っていたら、人族の貴族で公爵家の息子がこれみよがしに呟いた
「なんで魔族なんかがこの学園に来るんだ…。しかも魔王の息子だなんて…。この僕がこんな奴と同じクラスなんて、最悪じゃないか……」
それを聞いたヘルムートは公爵家の息子にピンッ! と指先から何かを飛ばしてぶつけ、その何か小さい丸っぽい物がコロコロと教室の床に転がると、そこから物凄い勢いで植物が芽吹いて急成長し、教室の天井に届く程の巨大なサイズになり花が咲いたと思ったら、先端の花がカパッと口を開き、公爵家の息子を頭からゴックンと丸飲みにした。
「キャアアアアアアアア!」
教室に生徒たちの絶叫が響き渡る。当然だ。クラスメイトが謎の巨大植物に丸飲みされたんだから。突然の阿鼻叫喚、地獄絵図に呆然としていると、魔王の息子が巨大な植物に近づき
「ああ、心配しなくていい。コイツは魔界植物の中でも大人しい奴なんだ」
そう言うと、魔界植物に男子生徒を出すよう命令する。植物は魔王の息子の声にコクコクと頷き、グッと身体をよじり、ベシャリという音とともに丸飲みされた男子生徒を吐き出した。彼は魔界植物の粘液にまみれながらゴホゴホと咳き込んでいる。何とか無事生還できたようだ……。
「この植物は魔界なら、どこでも生えてる雑草だから俺の服に偶然、種が付いてたんだろう。悪かったな…。だけど、悪意の無い奴に対しては無闇に攻撃しない筈なんだけどなぁ……」
そう話し、ヘルムートが意地悪く微笑んで視線を送ると、公爵家の息子はガタガタと震えていた。
どうやら私の祈りは神に全く通じず、魔王の息子は大方の世間のイメージ通り、短気で喧嘩っ早く、攻撃的だった……。
その一件以来、クラスメイトの誰一人として、魔王の息子に近づこうとせず、ヘルムートは1人で学園生活を送るようになっていった……。そりゃそうだ。ちょっと機嫌を損ねれば、魔界植物に丸飲みにされる危険があるのに友達になりたがる物好きは居ない…。
幸い、それ以降はこれと言った事件も無く、表面上は平穏に学園生活が過ぎていった。そんなある日の事、城で王に謁見中の他国の王が、姫である私に面会を求めているとの事で急遽、謁見の間に足を運ぶ。
すると、そこには黒髪に赤い目をした、誰かの面影がある気がする、超イケメンな他国の王が居た。
「おお、そなたがクリスティーヌ姫か! 余は魔族の王である! どうか息子と仲良くしてやってくれ!」
誰かに似てると思った訳だわ…。クラスメイトの父、魔王が自らお出ましとは……。
ヘルムートの父は息子が学園で友達が出来ないと聞き、魔族の王子であると友達が出来にくいのだと考え、人族の姫が幸い同じクラスに居るのだから、友達になってもらえば良いと思い至ったそうだ……。
あなたの息子が転校初日、クラスメイトを魔界植物に丸飲みさせた事案さえなければ、友達は出来たと思うんですがね………。
内心、そう思いながらも、魔王相手にそんな事が言える筈も無く、笑顔を引き攣らせながら
「そうですね……。ヘルムート君とは同じ王族同士ですし…。仲良くさせて頂きたいと思ってますわ……」
などと心にも無い社交辞令を返すのが精いっぱいだった……。
翌日、学園に行くと満面の笑みを浮かべた魔王の息子がいた。
「お前、俺と友達になりたいんだってな!? 仕方ないから友達になってやるよ!」
そう話しかけてくるヘルムートに、私が再び笑顔を引き攣らせた事は言うまでもない…。
魔王の息子に友達認定され、どうなる事かと思ったが案外、ヘルムートは話が分かる奴で、自分に対して、あからさまにバカにした態度を取る奴に対しては徹底的にやり返すが、自分から先に手を出さないと決めているそうだ。
「売られたケンカはしっかり買った上で、百倍返しにしないと舐められるからな!」
ヘルムートが嬉々として語ってくれた…。これは魔王の教え…。と言うか、魔族全体がこんな考え方らしい…。
彼が言うには昔起こった魔族と人族、エルフ、獣人の戦いも、魔族を軽んじた他種族に百倍返しする事を目的に始められたそうな…。やっぱり、魔族…怖い………。
でも魔王の息子と話して、初めて魔族の常識を知る事が出来た。これを知っておけたおかげで将来、あからさまに魔族を侮ったりして余計な軋轢を生んだり、外交問題から戦争を起こす可能性が減ったと思うので、ヘルムートとこうして話しをするのも悪くないな…。と思ったり。
彼も人族の姫である私と話しをする事によって、人間の常識を知って目から鱗だと言っていた。ちなみに転校初日に魔界植物を出して、クラスメイトを丸飲みさせたことで皆、ドン引きだったね。そう話したら、魔界だとあの程度の事象は日常茶飯事だから、あそこまで引かれるとは思わなかったと語り
「魔界では常識的な事でも、人間界だと恐れられるんだな……」
そう言って遠い目をしていた。
うん。あれ、間違いなく人間界ではヤバイからね……。二度とやっちゃダメだよ………。
なんだかんだでヘルムートと仲良くなっていった、ある日の昼下がり、学園内のカフェテラスで一緒にランチを食べてると、将来の事についての話題になった。ヘルムートはやはり、父の後を継いで偉大な魔王になる事が夢なのだと目を輝かせながら語った。
私は学園生活を卒業したら、やがて国の為になる相手を父が選び、結婚する。おそらく国内の上位貴族に嫁ぐ事になるだろう。だから
「結婚して幸せな人生を送るのが夢だな…」
そう話した。すると突然、ガタン! と椅子から立ち上がった魔王の息子は
「結婚……! もしかして好きな相手とか、婚約者とかいるのか…?」
あからさまに狼狽えながら聞くので
「いえ、いないけど……。いずれお父様が国内の上位貴族あたりから、適当な相手を選ぶと思うわ…」
「そ、そうか……」
ほっとして再び椅子に腰かけると、安堵した様子で紅茶を啜り、顔だけじゃなく耳まで真っ赤にしている……。
これは…いくら私が鈍くても分かる…。たぶんヘルムートは私に好意を……。恐らく、高確率で恋愛感情を抱いている……。
しまった…。完全に予想外の展開だ……。私としては魔王に頼まれたのもあって、ヘルムートと普通に友達として会話をしているだけだったのだが、一人ぼっちな学園生活で優しく話しかけてくれる異性と言うだけでも、年頃の少年が恋愛感情を持つには十分な理由だったのかも知れない……。
ヘルムートは意外と話が分かる奴だし、一緒にいて気楽だし、素直で可愛い。黙っていればドキッとするような美形だ。艶やかな黒髪に紅玉のような赤い瞳が綺麗だし、スラリとした長身で素敵だと思う。
しかし、私は平穏な人生を望んでいるのだ。短気で喧嘩っ早くて、百倍返しがモットーの魔族は相手としてありえない……。まぁ、初恋は実らないと言うし、所詮は人族の姫と魔王の息子……。こんな二人が結ばれる筈は無いのだ。ヘルムートには悪いが諦めてもらおう……。
そう思った私はカフェテラスでの一件は完全に無かった事にし、極めて平然と学園生活を過ごす様にした。ヘルムートはたまに何か言いたそうな、熱い瞳で私を見つめる事があったが、私はあえてそれを受け流し別の話題に切り替えたりするよう心掛けた。
だが、学園の卒業を間近に控えたある日、のらりくらりと躱していたいた私に、しびれを切らしたヘルムートは放課後、学園の中庭で私の手を掴み
「クリスティーヌ! 学園を卒業したら、俺と結婚してくれ! 一緒に魔界に来てほしい!」
顔を真っ赤にしながら告白……。と言うかプロポーズする魔王の息子に対して、私は完全に固まった……。ど、どうしよう……。ぐるぐる考えてると
「邪悪な魔族風情が汚い手で人族の姫君に触れ、なおかつ求婚など…。身の程をわきまえるがいい!」
そんな事を叫ぶ奴がいるので見れば、ヘルムートの転校初日、魔界植物に丸飲みされた公爵家の息子だった…………。
「邪悪な…。汚い手とは言ってくれるな……。そう言うオマエはよっぽど、高貴な生まれなんだろうな?」
魔王の息子が皮肉を込めて言う。まずい、ヘルムートは売られたケンカは全力で買う主義だ……。
「僕は公爵家の子息だ! 付け加えて言うなら、僕はそちらの姫君の最有力の婚約者候補でもある! 貴様の事を黙って見過ごす訳にはいかない!」
この公爵家の子息が有力な婚約者候補というのは、まぁ事実だ。私にとっては大勢いる婚約者候補の一人に過ぎないのだが、彼の中では同い年でクラスメイト、身分も公爵とあって、最有力と言う事になっているのかも知れない……。うーん。
「そうか…。お前が婚約者……。つまり、お前を倒せばクリスティーヌが手に入るって訳だな……!」
なん……だと? どうして、そんな思考に…?
前々から、うっすら思ってたけど、もしや魔族って脳筋なの……?
唖然とする私を尻目に、公爵家の子息が薄暗く笑う。
「ふふふ…。クリスティーヌ姫をそう簡単には渡さないぞ……」
「フン、初日に成す術も無く、魔界植物に丸飲みにされた輩に何が出来ると言うんだ? 言っておくが、俺は売られたケンカは買って、百倍にして返す主義だぞ」
ヘルムートは公爵家の子息をあからさまにバカにしている。
うん。私も公爵家のボンボンに何か出来るとは思えない……。何しに来たんだろうコイツ? などと思っていたら、公爵家の子息は懐から丸い輪を取り出し、魔王の息子に投げつけた。瞬間、輪が光を放ちヘルムートの首にきつく巻きついた。
「ぐっ! これはっ……!?」
「ふふふ…。僕が何の対策もせずに貴様に挑むと思ったか? あの屈辱の日から貴様に仕返しをする為、密かに魔族対策を講じてたんだ! その『聖なる環』は邪悪な魔族の力を封じ、体力を奪い続けるという聖属性のマジックアイテムだ!」
公爵家の子息は悠然と説明した。それを聞いてヘルムートはすぐに解除しようと自分の首に手をやる。
「こんな物すぐに外して……! ぐああっ!」
バチバチと首の輪から電撃が走りヘルムートが、両手にもダメージを受け、火傷を負ったのが見えた。
「無理に外そうとすれば、そのように聖属性ダメージを受けるだけだ。そして『聖なる環』で体力が無くなる前に死ね!」
公爵家の息子が赤い指輪を天にかざすと、手から赤い光が湧き出て、炎の奔流がヘルムートに襲い迫る。
「ぐああああああああっ!」
魔王の息子は炎の直撃を受け、ボロボロになりながら、その場にドサリと倒れた。
「ヘルムートっ!」
彼の名を叫び、私は倒れた魔王の息子に駆け寄る。
「いやああっ! 死なないで!」
泣きながらヘルムートに縋りつくと、彼は痛みを堪えながら、火傷を負った顔をゆっくり上げ、私の手を握り、じっと見つめた。
「クリスティーヌ………。俺と、結婚してくれるか……?」
「こんな大ケガしてるのに、何言ってるのよっ!」
私の瞳からポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「こんな時……だからこそ、聞きたい……」
息も絶え絶えで、ギュッと手を握られ、真摯な瞳で見つめられる。涙が止まらない……。
「…………わかったわよ! するわよ! してあげるわよっ! だから、死なないでっ!」
「そうか! 良かった!」
ヘルムートはムクっと起き上がる。
は? と思ってると、魔王の息子は首輪に手をかけ、バキン! と破壊した。
「ばばばっ、バカなっ!! どうして魔族を抑える『聖なる環』が破壊されるんだ! 教会の高位司祭に作られた上級マジックアイテムだぞ!?」
「フンッ! 高位司祭ていどが作ったマジックアイテムで、この俺を抑えられると思うとは舐められたモンだな!」
ヘルムートが傷を負っていた部分が、シューシューと音を立て、急速に回復していく。どうやら自己回復能力が働いているようだ……。
「最初は効いてたのにっ!」
「ありゃあ、油断してただけだ。次期魔王であるこの俺が本気を出せば、この通りなんだよ! さーて、どうやって100倍返しをしてやろうかな~♪」
ヘルムートは嬉しそうにボキボキと指を鳴らす。
「ひいいいいいっ! すいませんっ! すいませんっ! 許して下さいっっ!!」
公爵家の子息は恐怖のあまり腰を抜かし、涙と鼻水を流しながら、失禁している。
「うわぁ、汚ねぇ……。直接殴ってボコボコにしてやろうと思ってたけど、触りたくねぇなぁ……。魔法でボコボコにするか……」
「待って……。ヘルムートが本気で100倍返しをしたら、彼を殺してしまうわ……。そんな事になれば退学は免れないし、仮にも公爵家の人間を殺してしまったら、外交問題に発展するはずよ……」
最悪、戦争のきっかけを作ってしまいかねない……。そこまで行かなくても、魔王の息子が公爵家子息を一方的になぶり殺し…。なんて広まれば、人族の魔族に対する印象は悪化の一途だろう……。
「でも魔族の伝統と常識として、ここまでされたら、やり返さないと……」
「私に考えがあるわ……」
「?」
翌日、学園内の掲示板の前で人だかりができていた。公爵子息が号泣しながら鼻水と涎を流し、失禁している写真が複数枚、貼られているのである。クリスティーヌの提案であった。彼女としても、このような手段は気が進まなかったが、こうでもしないと殺人事件に発展するのは必至だったので止むを得ないと思っている。
あの公爵家の子息は確か長男だったが、このような不名誉な醜聞が出てしまったのだから最悪、廃嫡もありえるかも知れないし、貴族の世界が名誉を重んじる事を考えれば、廃嫡を回避したとしても、あの公爵子息に明るい未来があるとは到底、思えないが他者の命を取るつもりで仕掛けたのはあちらが先であるし、命があっただけマシだと思ってもらいたい……。
ヘルムートは「直接、手を汚さずに、こんな方法を思いつくとは流石、俺が惚れた女だ!」などと謎の賛辞を送ってくれた…。意味が分からないし、こんな事で褒められても、ちっとも嬉しくなかったが、ヘルムートが無事で何よりだったと思う。
彼が重傷を負って瀕死の状態だと思ったからこそ勢いで、ついプロポーズを了承してしまったが、何だかんだ言って自分もヘルムートに好意を抱いていたのだと認めてしまおう。少なくとも、彼が死なないなら結婚なんて、いくらでもしてやると思った、あの時の自分の気持ちに嘘は無いのだから……。
クリスティーヌがヘルムートの求婚を受けてしまった事で人族の王や大臣、関係者は驚いたが、魔王は大いに喜び
「これを機に人族と魔族の関係が大きく改善するであろう!」
そう言って魔王は息子と人族の姫君の婚約を祝福した。
魔王の言葉を受け、姫君がすでに求婚を了承している事だし、国内貴族に嫁がせるよりは和平の為に魔族に嫁いでもらった方が……。という流れとなり人族側も魔王に追随して二人の婚姻を祝福する流れとなった。
こうしてクリスティーヌは人族で初めて魔族に嫁いだ姫となった。慣れない魔界暮らしで何かと苦労が絶えなかったが、二人は魔族と人族の懸け橋となった。
「平穏な人生を夢見てたのに、どうしてこうなっちゃったのかしら……」
などとぼやくクリスティーヌだったが、後に魔王となったヘルムートと末永く愛を育み、幸せに暮らしたと言う。