4-4 昔話
互いの船をランデブー軌道にのせ、速度を同調させると、彼女は快速往還艇を駆ってこちらに乗り移ってきた。
アレクサンドリアのドックで往還艇から降りる彼女を出迎える。
「ようこそ、アレクサンドリアへ」
優美な曲線を描くキャノピーが滑るように本体に収納され、セラフ・スイーフ――我が依頼人がその中から姿を現した。
往還艇の操縦席の縁に足をかけ、軽やかに立ち上がったその姿を見て、シュアがほうと声を上げ、私もへぇと同じようにもらした。
けぶるような金髪と、勝ち気そうな吊り目は識空間で出会ったときと同じ。
けれど、その瑞々しい少女の体は、ぬめるような黒革の輝きにつつまれていた。
彼女の腕ほどの太さの革ベルトをぐるぐると体に巻き付けているのだ。
何十本ものベルトは、きつくきつく巻き付けられたあと、その端が体の各所から垂れ下がっている。まるで操り人形の操り糸の様だ。
少し動くたびに、その革と先端についた鈴が揺れ、かわいらしいちりちりいう音と革の締まる時独特の何かが鳴く様な音の両方が響く。
「出迎え、ご苦労」
目の前で胸を張って言う。
礼を言うのにこれほど偉そうにできる人間を初めて見た。しかも悪意がありそうにもない。
柔らかくもりあがった胸の頂上で、ぷっくりと革を押し上げる乳首を見て、奇妙な気分になる。
男はこういうのに惹かれるのだろうか?
「あなたがエイダね。直に会うのは初めてよね。これからよろしく」
「ええ、よろしく。ところで……」
「ああ、そこの。部屋はどこ? 荷物は、あの中だから運んでおいて」
ごく自然に私の言葉を遮って、シュアに話しかけるセラ。
彼は驚いた様子も見せずに黙っているが、私のほうは少しいらつかされた。
「ちょっと。彼は召し使いでもなんでもないのよ」
「あら。じゃあ、なんで居るわけ?」
本当に不思議そうだ。
緑に近い青の瞳をくりくりとまわしながら尋ねてくる。
「私のパートナーよ。本職は傭兵。この仕事の間は、あなたの安全も守ってもらうことになるわ」
小さく礼を示すシュア。
セラは、瞬間鼻白んだような表情を浮かべると、猛烈な勢いで振り返り、彼のことをきつい視線で射た。
「へぇ……。パートナーもちの情報商人、ねえ。よろしくね、二人とも」
面白そうに私に笑いかける。
けれど、私はその前に口にした言葉をはっきりと聞いていた。小さく、誰の耳にも届かない様な声だったけれど。
「情に頼らず、報におもねらず、ただ、それを求める」
彼女は、確かにそう言ったのだ。
――情報商人が、誰しも刻み込まれる、誓いの言葉を。
†
茶盤の上に置いた道具達に、ゆっくりと沸騰したお湯をかける。たまに重力をあげておくと、体は重いが水の落ちる様を見られるのはいいものだ。普段は球になってしまうから。
たっぷりのお湯が、銀色のポットから茶壺や茶海たちの中に上に表面にほとばしり、あるものは茶盤に落ちていき、あるものは道具達の中に止まって、溶ける様になめらかで、甘やかなほど美しい白磁をゆっくり温めてゆく。
茶壺の中のお湯を茶盤に捨て、とっておきの茶葉を入れる。
茶葉がさらさらと落ちていくときの、微かだが乾いた香りが私は好きだ。これがお湯をかけられて開く時に、どんな変化をするかと思うとわくわくする。
匙を使って丁寧に茶葉を茶壺の底に均等にならす。しゃくしゃくという音に耳をすませた。
もう一つのポットを手にとり、細長く伸びた首から大量のお湯をそそぐ。茶壺の中いっぱいにお湯を満たした。
それから、茶壺の蓋を、気取った動作で閉める。
砂時計をくるり。
このときのためだけに用意されている砂時計には、惑星ヘンケに移植された珊瑚の殻が詰められている。きゅりきゅりとこすれる音をたてながら、時が刻まれていく。
この時間が、私はとても好き。
茶壺の中で葉が踊っているのを想像し、時がたつのを待つ。その間だけは、普段考えている全ての事から解放されて集中しきることができる。
待つ、という意義ある時間。
砂時計の砂が尽きそうになったところで、茶海のお湯を捨てた。
茶壺を茶海の上にのっけて、存分にお茶を出し切るのだ。
軽く振って、最後のおいしい露を、茶海の黄金色の水面におとしきる。湯気と一緒に、甘い、けれどどこかほんのすこし苦い清冽な香りが鼻に届く。
少し背の高い細長い杯に茶を移したあとで、じっと興味深そうに見つめていたセラと、もう慣れっこになっているだろうシュアにそれぞれ押しやる。
「なに? 空のコップもあるけど」
不審気に尋ねる彼女に軽く微笑んで。
「いま入ってるほうはね、茶の香りを聞くためのもので、お茶をのむのは、そっちの空の杯のほうなのよ」
そう教えてやる。
実際に茶を移し、香りの残った聞香杯を鼻に近づけ、目をつぶって香りを感じる。
さきほどよりはるかにストレートに香りが味わえる。甘さも、辛味も、苦みもはっきりと私の感覚を刺激する。鋭く、強烈に。
「なんかめんどくさい」
言って、品名杯に茶を移すことなく、聞香杯から直接口にするセラ。
ちょっと残念な気分だ。とてもいい香りなのに。
まあ、味もよいし、それを楽しんでくれるなら文句は言うまい。
「しぶい」
無情にもセラはそう一蹴した。
渋いどころか甘ささえ感じる淹れ方だし葉なのだが、彼女の味蕾には違う効果を与えたのだろうか。
いや、快楽回路にシナプスがつながってくれなかったというべきだろうか。
シュアが苦笑して、そのあとでからからと笑った。
「俺はうまいがね。初めて飲んだときは、たしかにまずいと思ったもんだ。慣れだよ」
「ふうん。別に慣れたくない」
乱暴に杯を置いて、にべもなく言われた。
私はかなり残念な気持ちになりながら、茶を口に含んだ。
舌に広がる甘みと、独特の苦み、ほんのわずかな渋み。
そして、鼻にぬけていくすがすがしい香り。
こんなおいしいものを理解してもらえないなんて。そう思いつつ飲み込む。
喉に流れていく熱と香り。
「まあ、いいわ、仕事の話をしましょう」
「もうしたでしょ」
「確認。それに一応記録に止めておきたいからね」
言って、空中にフロートディスプレイを呼び出す。
なにか気づいたことがあれば書き留めるというわけだが、実際は音声も映像もアレクサンドリアが記録しているから、ただのポーズ。
ただ、こうした劇場効果を与えてあげたほうが話しやすい人間も多いのだ。
「さて、まずは確認。あなたの望みは、第一司法艦隊の居場所」
セラの顔をみる。こくんと頷いていた。
「じゃあ、彼らとの関わりを、まずは話してくれない?」
「プライベートな話よ」
目を伏せるセラ。その肩が小刻みに震えているのに気づく。
「申し訳ないけれど、話してもらえないかしら。あなたの目指すものへ近づくためと思って」
「でも……」
「情報商人にも倫理はあるわ。依頼人がそうと望まない情報は、誰にも渡さない」
なだめるように言う。実際、他人に口止めされた話を、誰かに売る様なまねをすることは、まずない。
「そう、じゃあ、話すわ。あなたを信じてね」
挑む様な、すがるような、強く強く私を射抜く瞳。私は我知らず、気圧されるように頷いていた。
†
私の故郷は星国時代、重工業の生産拠点だったの。
星系内部の五つの惑星と隣接星系とで分業していたみたい。でも、自前の艦隊はもっていなかった。
そのせいで、星国崩壊動乱の中で、何度も征服され、譲渡され、分割された。
そして、ついに忘れ去られたのよ。
その頃には、星間船の製造技術も失われていたんでしょうね。おんぼろの惑星間航行船すら、私が生まれるずっと前に壊れたというわ。
でも、かつて人々が宇宙を駆け回っていた事は、忘れられていなかった。
故郷の人間は懐かしさとほんの少しの恐怖と共に空を見上げていたものよ。
そして、いつの間にかこんな言い伝えが生まれたの。
『裁きの舟来たりし時、彼ら滅びをもたらさん』とね。
たぶん、そもそもは司法艦隊を意識してのものではなかったんじゃないかしら。
ただ、彼らにぴったりだったというだけ。
でも、その伝説は星の民の誰の心にも刻み込まれていた。誰もがそんな馬鹿な話と思いながら、どこかで信じていたのね。
そして、私が七つの時、彼らはやってきた。
何十隻もの艦が星の周りを巡り、それだけで人々は恐慌に襲われたわ。
人々は信じてしまったのよ。ついに裁きの舟がきたと。
それからの事は混乱しているし、私自身も語りたくない。おおまかでいいなら、こうね。
パニックに襲われた人々は、惑星全土を巻き込んで自殺をはかった。
……愚かな話。
私の故郷オルトゥトイに、いまは生き物の影はない。
生き残った住人は外宇宙へ散って行ったわ。私もその一人になるでしょう。
これが、私が第一艦隊を憎む理由。
彼らは、星国法を体現するとか言っておきながら、私の星を滅ぼした。
人々を……なによりも、その心を滅ぼした。
彼らに訊いてみたいもんだわ。人のために法があるのか、法のために人があるのか、どちらかとね。
人はしあわせになるために生きているんじゃないの?
いえ、別に何のために生きているか個人の話をしようというのじゃない。
ただ、法を護るためだけに生きているのじゃないことは確かよ。
しかも……古くさい星国の法をいまさら……。
あれは……害悪よ。
許してなんかおけない。
†
「嘘をついてるな」
「ええ。私もそう思う」
シュアの言葉に頷くと、水面が軽く揺れた。
アレクサンドリアのメインルームの中央には、いま、人の背丈の三倍ほどの大きさに調整した温水球が浮かんでいた。
私たちはその中にたゆたっている。
温水球浴は最近のお気に入りだ。スキンスーツからしみ入るお湯の温かさが心地よい。
「その証拠に……かどうかわからないけれど、さっきからやたらと『覗き見』しようとしてるわ、あの娘」
識空間で、合体型ウィルス三種、直接攻撃型エージェント二種、進化型ウィルス五種、調律型エージェント三つを発見しては封印して無効化している。
鬱陶しいことこのうえない。
「ほう。焼こうか」
シュアの個識周辺で、攻的エージェントがいくつか立ち上がるのを感じる。
ばしゃばしゃとお湯をはじかせて、止めに入った。
「ダメダメ。まだ相手の意図がわからないもの」
「……明らかな契約違反だぞ?」
「それはそうなんだけど……」
我ながら歯切れが悪い。お湯の中に鼻のあたりまでもぐり、ぶくぶくと息を吐き出す。
「カニさん」
シュアが吹き出した。毒気を抜かれた様な顔でこちらをながめてくる。
しかたないなあという呟きが聞こえてきそうな顔。
「……あなたが嘘をついてると判断した根拠を教えてくれる?」
体ごと球の表面に浮かび、流れに乗りながら問う。シュアが体を動かして、流れを加速しているのを感じる。
「表情と話している言葉の感情がずれていたのがひとつ。あまりに理路整然としているのがひとつ。話に矛盾がなさすぎるのがひとつ。あとは、まあ、経験からの勘だ」
「そう……」
勘というのは案外に侮れないものだ。
それは経験や知識の集積を基にした人間独特の『飛躍』だ。問題は個人の経験や思考が唯一無二であるために、再現性がきわめて低いということだろう。
根拠とするにはその人間を信用する必要がある。
もちろん、私はシュアを信用している。
「私は、彼女がなんで第一艦隊を追おうとするのか、それが知りたい」
彼女が嘘をついている、そのことは私も疑っていない。
あの『お話』は、単なる作り話だろう。いや、あるいはどこかから聞き取ってきたものかもしれない。
「確かに、第一艦隊への言及に関しては、あまり嘘と感じなかったが、しかし、相手の意図がわからずに追いかけるのは危険すぎないか?」
ゆったりと大きな波を私に向けておくってくるシュア。温水球の表面でくるくるとまわされてしまう。
「追いかけるなら、ね」
「ん?」
不思議そうに声をだすシュアに答えず、言葉を重ねる。
「それに、私、あの娘の嘘のつき方をよく知っている気がするの」
そう、懐かしく、直に見据えたくないくらいに。よく知っている気がするのだ。
†
セラフ・スイーフの公式の記録は連邦暦983年に突如として始まる。
当時、年齢は十二歳。惑星グリーチェにて銀河市民登録を受けている。
退行領域から連邦に併合された星系の住人や、難民として流れてきた人間にはよくある話だ。
その後、1024年にディーヴァに移住するまでの記録はなし。しかし、ディーヴァに着いた後は、アバターデザイナーとして台頭し、数年で独立を果たしている。
その後、十八貴族のひとつガーウェイングループの中でのしあがり、それなりの地位をしめるに到る。
そして、1043年、ガーウェインの会長、ドゥボルジャーク・C氏の第四婚姻相手に選ばれる。
「……見事なサクセスストーリーね」
アレクサンドリアの報告を手近に飛んでいた妖精に放り投げる。
エージェントはうれしそうに情報を咀嚼し始めた。
その様をぼんやりながめつつ、私は書庫の空間形態を、『深海』に変更した。
黒と見分けがつかないほどの暗い紺色の世界の中を、エージェントたちが光りながら行きかう。
妖精の様な姿は極度に薄れ、黒い世界を光だけが乱舞している。
そして、情報は小さな粒となって、雪のように舞い落ちては光に取り込まれ、あるいは対流にのってどこかへ流れてゆく。
「しっかし、何が目的なのかしら」
十八貴族の会長となると、婚姻相手は即ち、職業上のパートナーでもある。
たいていはお互い停滞睡眠についているから、接触は識空間のみでというのが一般的だ。
彼らは深く眠りながら、夢を見る。その夢が世界を動かし続けるのだ。
それを考えても、自らついてきた事が不思議に思える。
少なくとも数十年は中央星域を空けなければならないというのに。
「それに、なんで私なのか、ってことよね」
ガーウェインの財力をもってすれば情報商人を複数雇うことだって可能だろう。情報商人でなくても、様々な情報収集能力はあるはずだ。
「ガーウェイン側には秘密にしておきたいか。それとも……私に用事があるか」
なんにせよ、いまここで彼女を撥ね付けるのは簡単だが、後々に尾を引くようでは困る。
ガーウェインに睨まれても厄介だし。
「さて、どうするか。いや、どう、出るか……」
言ったところで、異変に気づいた。
書庫の天井近くの情報対流がいやに激しい。
「外部から、無許可の接触あり。現在迎撃中」
柔らかい女性の声が降ってくる。アレクサンドリアが音声信号を使うなんて珍しい。
それだけ切羽詰まってるって事か。背筋にぞくりと走るものがある。
それが恐怖なのか、それとも高揚なのか、いまは区別がつかなかった。
「いいわ、回して。こちらもその気で対処させてもらうから」
パンッと、己の両頬を張る。
アレクサンドリアと『直結』した。物理次元の体の全感覚は断たれ、識空間へと意識が相転移する。
杖つき猫のアバターに変化した私は、ざっと周囲を見渡した。アレクサンドリアが形作る識空間は戦闘態勢に移行していて、私の体をつつむ様に、360度情報の球体が出来上がっている。
装飾は全て取り払われ、情報の渦と真っ暗な空間だけが、そこにある。
「状況は?」
私の声に応じて、デッサン人形の様なのっぺりとした銀色のロボットの像が空中に現れた。
細身の円筒に、四肢がついているだけの単純なデザインは、私がほどこしたものではなく、アレクサンドリアが自ら作り上げたアバターだ。
単純ながら、細かいところを見ていくと、それぞれの間接を形作る球体のへこみぐあいや、全体が描く曲線などみるべきところは多い。
全体としては大雑把な人の模造であり、単純でありながら人を模しているとわかる部分が不気味にも、魅力にも思える。
「芳しくはありません。防壁が第六レベルまで突破されています」
自分でも、周囲にめぐる情報をながめて確認する。表層である第八レベルから、三階層も潜られてるとは。
「シュアには?」
「通常アラートを」
防壁のパターンに揺らぎを与えて調整する。
相手が防壁を解析するのに合わせて、合体型のウィルスを送り込んでいるが、足止め以上になりそうにない。
「アラートのレベルをあげて。彼に操船をまかせて、あなたはこちらに集中」
こくんとうなずく人形。
私のほうは、周囲の空間に流れる情報たちに指を走らせ、次々に指令を与え、書き換えていく。
思考を加速しつつ、相手の識覚に論理爆弾をかませるべく新しい術式を描く。
「識域遮断を試しますか?」
「もう遅い」
第五レベルにもぐりこまれた。
もはやアバターを維持するのももどかしく、光る球体に変化する。
体の各所から光の触手を出し、周囲を流れる術式を、書き換え続けていく。
「防壁パターンb-1253を起動。ケルンファイルを基本に、要素gyで揺らぎをつくってみて。モルフェウス、ヘスペロス、アイオロス同時起動……」
圧縮言語でアレクサンドリアに切れ目なく指示を与え続ける。ロボットの周囲に巨大なドラゴンが、次いで白銀のマスクをつけた男の姿、緑色の不定形の光る球体がそれぞれに現れる。
圧縮されていた他の識格たちを展開したのだ。
ウィルスを作成し、相手の識空間に送り込み、あるいはエージェントに相手の動きを解析させ、それを基に新たな迎撃子を組みあげ、破壊されたエージェントのかけらにまぎれさせた迎撃子を呑み込ませ……。
不意に、空間がゆがみ、真っ黒い空間を切り裂いて金と黒の姿が現れる。セラだ。
「なんだか騒がしいわね」
「セラ。悪いけど相手している暇はないの」
「あら、ひどい言いようね。援軍に来たんだけど」
一瞬だけ動きが止まる。何を言っているのだろう、この娘。
「残念だけど、必要ないわ」
「そうは見えないけどね」
周囲のエージェント群を新しいものに書き換えながら、私は声を上げる。
「わかったわ。バックアップお願い」
ふふんとひとつ笑って、金髪が軽やかに揺れた。
†
「おつかれさま」
自室でソファにもたれて寝そべっていたところにシュアが顔を出した。腹這いになっていた私は、ごろりとひっくり返り、彼の顔を見るとはなしに見る。
「久々に、手応えのある侵入者だったわ」
「正体はつかんだ?」
「こないだの仕事の相手よ。ほら、モルフェウスが奪取した凍結受精卵。あれの引き取り手」
頭の上に持ち上げていた手をひらひらと振る。
「証拠隠滅ってわけか」
一つ頷く。
それ以上なにか言う気力がなくて、腕をそのまま自分の胸の上に落とす。ちょうど胃のところにあたって、ぐぇっと変な声をあげてしまう。
「なにやってんだか」
まあ、いいのだ。
相手の正体は割り出して、手痛いお灸を据えておいたし、首謀者の近くで行動していた『意』の一人に命じて、行きがけの駄賃にいろいろ収集させておいたから。
最終的にはこっちが得をさせてもらった。
問題は……。
「ん?」
ちょいちょいとシュアのことを手招きする。耳を寄せる彼に囁こうとして、一拍ためらう。
不思議そうな表情を浮かべる彼に、腕を広げてねだると、その間に体を差し入れる様にして抱きしめてくれた。
その温もりを感じながら、ようやく囁いた。
「あの娘ってば……情報商人よ」
と。




