1-1 戦闘
「敵軍はどこまで来た」
ヒュービック大陸の中央に位置するアルカディア王国に秋が訪れた。遥か北東に見える霊峰マウント・ヒュービックの山頂は白い冠に覆われ、その麓から西に伸びる低山の木の葉は朱や茶に染まっていた。遠目には低山全体が赤く燃えているように見える。そしてその麓では、愚かな人間たちが血を流し合い、今度は大地まで赤く染めようとしていた。
「敵の先頭はそろそろ渡河地点に達しますな。」
ディックの視線は地図から離れず、手は微かに震えていた。
「水をもて!」
ディックがからからに乾いた喉を潤したのはもう何度目であろうか。簡易的に作られた司令部天幕の周辺では剣を研ぐ音、弓に張る弦の音が聞こえ、鎧の皮の匂いが漂っていた。
「司令部と思われる馬車列は?」
「あと一刻ほどで川へ入ります」
「上流の工作部隊は敵に見つかっていないだろうな」
「異常はありませんな」
ディックは用をたすために外へ出た。もう何度目だろうか。異常にのどが渇いて水を飲むからだ。それは分かっている。天幕に戻るとドギーに茶化された。
「坊っちゃん、唇が青いですぞ」
「あ、当たり前だ!お、俺なんかまだ入隊して二年目だぞ!」
「それは皆、分かってます。しかし坊っちゃんに掛けたんです」
「わ、分かってる。だけど怖いのは怖いんだよ!」
「坊っちゃんはまだまだお若いですからな。これほどの重圧に耐えているだけでも凄いことですな」
ディックはそんなドギーの気持ちを察する余裕がなく、必死に諜報員からの連絡内容を震える指先を押さえながら地図に落とし込み、全体像を把握しようとしていた。
「そろそろ最終命令だ。右翼は渡河後の敵を任せる」
そしてディックは地図の北側を指差した。
「遊撃部隊は工作部隊の護衛後は敵輜重を焼け。その後は反転して帝国軍を攻撃するように、伝えよ。いいな、伝令!」
「は!」
そしてディックは振り返り、ディック率いる左翼部隊の参謀に直接言った。
「我が左翼は高所に構えて敵を削る!いいな」
ドギーは各伝令に最終命令を伝えた。
川の上流では、工作部隊が完成させた堰の傍らで、決壊の合図を待っていた。堰き止めた川を決壊させると何分後に敵軍渡河地点に最大の破壊力が届くか。分単位の緻密な計算。失敗すれば味方を巻き込む極限の重圧の中、工作部隊員たちは息を詰めていた。手の皮は剥け、全身泥まみれになりながらも、彼らの心を支えていたのはただ一つ、ディック・シャドウ臨時司令への信頼だった。
「俺たちの計算が、ディック様の剣になる。絶対に間違うな!」
焼けて煤けた村落を横目に苛つきつつ進軍中の帝国軍の目の前には細い川が流れていた。当初は焼けた村落からの襲撃を用心していた帝国軍だったが、幾つもの村落を何事もなく通り過ぎていく度にその用心も無くなり、いつしか用心は慢心に変わっていた。
また、当初は村落を焼いた理由を疑っていた帝国軍だったが徐々に予定していた食料の略奪が出来ずに焦りを感じ、結果として村落を焼いた理由がこの焦りを誘うことだと理解した。
「前年までの腰抜けな王国軍なら、この川の手前で必死に防衛線を張っていたはずだ。影も形もないとは、戦わずに逃げ出したか」
先鋒隊が次々と渡河を成功させるにつれ、帝国軍内には大勝利を確信する楽観的な空気が流れ始める。
王国軍は、帝国軍の長大な隊列の中から司令部の特定に時間を使った。そしてようやく一般部隊の馬車に偽装した司令部馬車を発見することができた。その馬車は負傷者運搬用馬車に簡易式の雨除け屋根を取り付けたものであったが、周囲を固める重甲冑兵と伝令の集中、そして時折馬車から降りる帝国軍司令官の軍服を着た人物の出入りから、物見兵は司令部の位置を特定していた。
やがて、巧妙に一般部隊に偽装した帝国の侵攻軍司令部馬車が川に架けられた簡易的な木製の臨時橋を渡り始めた瞬間、木の板が打ち鳴らす音が連続で聞こえてきた。王国軍の合図だったのだ。
「合図が来た!綱を切れ!」
本隊からの合図とともに工作部隊長以下何人もの兵士が川を堰き止めるため多くの丸太を引っ張っていた綱に向かって巨大な斧を次々に振り下ろした。
支えを失った丸太が軋み、次の瞬間、山そのものが崩れたかのような轟音が谷を揺るがした。堰き止められていた水が濁流となり、丸太と岩を巻き込みながら下流へ雪崩れ落ちる。
そして一瞬にして押し寄せた茶褐色の濁流は、濁流の壁となって帝国軍司令部とその直属部隊を直撃した。
悲鳴を上げる暇さえなく圧倒的な濁流に馬ごと押し流される馬車。馬車の周りで長槍を持ちながら流された重甲冑兵士。流されたがかろうじて岸へ這い上がった者もいたが帝国侵攻軍の頭脳は一瞬で消滅した。
「報告! 渡河を終えた敵先鋒に対し、黒人兵率いる右翼部隊が突撃を開始しました!」
「よし、左翼部隊。旗を立てろ、銅鑼を鳴らせ!」
ディック率いる左翼部隊は高所斜面に陣取っており、帝国軍司令部が川の水で押し流されるまでは存在をひた隠しにしていた。しかし帝国軍司令部が壊滅した後、逆に存在感を出して帝国軍を攻め上らせる必要があるため、目立つ行動を取った。
「報告!右翼の突撃で、渡河後の敵部隊は前後に分断されました!」
「報告!右翼、敵前方へ回り込みました!包囲して各個撃破しています!」
「ふっ、まさに戦場を支配する猛禽だ」
「おや?坊っちゃん、唇の色が戻りましたな」
「う、うるさい!」
確かにディックは水を口にする回数が減り、指先の震えも無くなっていた。
「帝国司令部が壊滅したことで、敵は大混乱に陥っていますな」
「当然だろう」
「報告!右翼の黒人兵が、渡河後部隊を率いていた帝国軍中佐を討ち取りました!敵の渡河を終えた部隊は組織的戦闘をやめた模様です」
「そうか、これで右翼はもう心配ないな」
「報告!渡河前の帝国軍がこちらへ向かって斜面を登ってきます!」
「登ってきたか。そのまま方向を変えて他の村が襲われても厄介だ。叩き潰すぞ。左翼部隊、出番だ!」
ディックの鋭い号令が響き渡る。高低差のある崖の上から、一斉に弓兵が構える。
「弓兵、構え! 地形を活かせ、味方に傷を負わせるな!」
「放て!敵前列を射崩せ!」
斜面を登る帝国軍に対して矢を射掛け、続けて岩や丸太を落とした。帝国軍は足場の悪い斜面を息を切らせて登りながら次々に矢傷を受けて斃れ、その味方が邪魔となり更に勢いが失われた。
そして帝国軍が王国軍陣地に接近する度に背後へ移動し、先程まで踏ん張っていた陣地を焼く。当然、背後へ退く度に木柵で帝国軍の進軍速度が落ちるようにした。
「それにしても、司令部が壊滅すると軍とはここまで弱くなるものなのか」
「坊っちゃん、初任軍事訓練でもよく教わったことですが、本当ですな。敵部隊は頭と胃袋を叩け。そのままです」
矢による攻撃で犠牲を出す帝国軍を見下ろし、ディックは短く呟いた。
「だが、感傷に浸っている暇はないな。まずは帝国軍を完全に削りきらなければ!」
左翼中央へ敵兵が取り付き、前列が押し返され始めた。
そしてディックが自ら白銀の剣を抜き放ち、先頭に躍り出る。
「ディック様をお守りしろ! 敵を一歩も近づけるな!」
「俺たちがディック様の盾となるんだ!」
左翼部隊の兵たちが、自らの危険も顧みず前に立ち塞がった。
「馬鹿者、前を塞ぐな! 死ぬなよ!もしお前たちが死んだら処罰だ!」
ディックは部下たちを叱咤しながらも、自ら最前線で敵を斬り伏せていく。
しかし帝国軍も延々と王国軍を追いかけて前進できるほどの体力はない。王国左翼軍との戦闘が劣勢だと判断した帝国軍の中級指揮官は攻勢限界点と判断し、撤退銅鑼を鳴らした。
しかし軍は撤退時ほど損害を受けやすい。それは今まで戦ってきた敵に背中を見せることになるからだ。王国軍は撤退を始めた帝国軍に対し残りの矢を連射した。更にディックを先頭に更に撤退を始めた帝国軍に突撃をした。
悲鳴と返り血が舞う中、彼の白銀の甲冑が冷たく輝いていた。
そしてこの戦いにおける最も重要な役割を果たした工作部隊は慎重に敵軍と距離を取りながら国境警備隊砦方面へ撤退を開始した。これは当初からの予定であった。
そしてその工作部隊の護衛という任務が終わった遊撃部隊が次の行動に移ろうとしていた。
「遊撃隊長! 工作部隊は撤退を開始しました」
「よし! 我らの次の役割は分かっているな。飛ばすぞ!」
遊撃部隊が一気に北方へ駆け抜き、帝国軍の輜重部隊の側面へと躍り出た。
「奇襲だーっ! 王国軍の遊撃部隊だー!」
「ひいっ! 逃げろ、撤退だー!」
突如として現れた遊撃部隊の迫力に、帝国の護衛兵たちは戦意を失い、物資も投げ捨てて脱兎のごとく逃げ出していく。遊撃部隊長は剣を高く掲げた。
「深追いは不要! 目標は敵の糧食! 荷車に火を放て!」
「火矢、放てーっ!」
次々と射ち込まれた火矢により、無数の荷馬車が瞬く間に燃え上がった。天を突くような黒煙が立ち上り、帝国の「胃袋」が完全に消滅したことを告げる。
「諜報員、渡河前の帝国軍の動きは?」
「は!渡河前の帝国軍は本隊左翼に向けて斜面を登って左翼と戦闘を始めたようです」
「よし、我らも即座に反転、帝国軍殲滅に加勢するぞ!」
もし帝国軍が撤退行動に入っていれば攻撃を見送る作戦だったが、戦闘が継続していれば遊撃軍も役割を果たさなくてはならない。
しかし、実際には帝国軍は王国左翼軍との斜面での不利を嫌い、予想以上に早く戦闘を切り上げて撤退を開始した。
ディックは、司令部を失った帝国軍が少なくとも半刻は混乱し、王国軍との戦闘もある程度続くと見積もっていた。だが、生き残った帝国軍の下級指揮官たちは予想以上に早く状況を判断し、兵をまとめ、北への転進を開始していたため、輜重部隊を壊滅させた遊撃部隊は不幸にも転進した帝国軍と予想よりも早く会敵してしまった。
こうなると多勢に無勢。司令部を失った帝国軍だったが、各部隊の下級指揮官たちは必死に兵をまとめた。圧倒的な兵力差を前に、遊撃部隊は包囲され、殲滅された。
「報告!遊撃部隊との連絡が途絶えました!敵中にて壊滅したものと思われます!」
「何だと!」
渡河前の帝国軍が一斉に北方面へ引き上げた後、ディックは遊撃部隊が全滅したと思われる場所に出向いた。
ディックは生まれて初めてここまで多くの遺体を目の当たりにした。地面を掻きむしった跡。短い時間ながらも追い剥ぎに遭ったのだろうか、乱れた装具。そして漂う血の匂いとそれに群がっていた野鳥。
ディックは目を逸らしそうになったが必死に耐え、見た。これは指揮官が背負うべき業なのだ。
「・・・」
「坊っちゃん・・・」
惨状を目の前にただ溢れる涙を拭うこともせず、ただ見つめるディック。
「お前達、犠牲となったものの首輪章を・・・」
王国軍では入隊する全員に隊員番号と氏名が刻まれた首輪章が支給される。これは戦死したときに回収され、遺族に渡すものである。
「これは俺の責任だ・・・」
ディックと生き残った部下たちはこの遊撃隊の首輪章回収も怠らなかった。特にディックは与えられた罰と思って作業を行ったという。
こうして帝国軍は北方へ退き、東方国境における戦闘は王国軍の勝利で終わった。
戦いの喧騒が去り、煙がたなびく国境警備隊の陣地。
「やりましたな、坊っちゃん! 我ら王国軍の圧倒的勝利ですな!」
ドギーが興奮を抑えきれない様子で報告すると、ディックは静かに頷いた。
「だがな、残念ながら戦死者は出ているし遊撃部隊の全滅は俺の作戦失敗だった」
「確かにそうですな。ですが坊っちゃんの策で帝国軍は撤退したんです。功労者ですぞ」
「いや。今回の勝利の最大の功労者たちは、人知れず泥をすすった者たちだ。あとな、坊っちゃんはやめろ、何度言ったら分かる?」
そこへ、全身泥まみれの工作兵が前へ進み出て、深く頭を下げた。
「ディック様! 川の堰き止めと決壊、無事に完了し、全員無事に帰還いたしました!」
「よくぞ無事に戻ってくれた、工作兵。王国軍の誇りである」
「それと今回の紛争における戦功一番はあの黒人兵でしょうな」
「異論はない」
「特に敵軍中佐を討ち取ったことが大きかったですな」
近くにいた兵士が、まだ恐怖の冷めやらぬ顔で口を挟んだ。
「あの方一人で斬った帝国兵は五十人を遥かに超えてます。味方の俺たちでさえ、背筋が凍りました」
ディックは遠くで黙々と剣の血を拭い装備の手入れをする黒人兵の背中を見つめ、静かに呟いた。
「彼ほどの武人が味方にいてくれたことを感謝する」
一方、北へ撤退する帝国軍は騒然としていた。
「中佐殿。撤退の指揮をお願いいたします!」
「私より上の指揮官はいないのか?」
「確認しましたが、おりませんでした」
「そうか、わかった。しかしな、私は実戦指揮官だ。このような行軍指揮は取ったことがない。お主、誰か行軍指揮を取れるものをしらぬか?」
「一人だけ心当たりがあります」
「よし、呼んでこい!」
そうしてサトウ二等兵が呼ばれ、中佐のもとに駆けつけてきた。
「二等兵のサトウ・ジロウです、お呼びでしょうか中佐殿!」
「サトウ二等兵、行軍指揮ができると聞いたが誠か?」
「は!」
「承知した。では私を補佐せよ」
「は!」
「サトウ、歩けない負傷者はどうする?」
「背負うか担架で運びます」
「では至急手配しろ」
「は!副官殿、中佐からの命令としてお伝えください」
「わかった!」
こうして帝国軍侵攻部隊はサトウ二等兵の指揮の元で結束を固め直し、部隊を再編、王国軍の攻撃に対して即座に反撃できる体制を維持したまま整然と撤退したのだった。
翌日、帝国軍の動向を追わせていた諜報員が帰還した。
「坊っちゃん、放っていた諜報員が報告に参りました」
「通せ」
「ディック様、報告します。帝国軍は敗走しましたが、敵輜重隊が壊滅した後方の森林地帯で帝国軍が再集結しました」
「なに!また攻めてくるか!」
「いえ。敗走した帝国兵を集め、歩けないけが人を運ぶ担架を作るため木材を切り倒しておりました。そして急ごしらえの担架を担いで帝国領へ撤退していきました」
「それは・・・その撤退した帝国軍の隊列はどうだった?整然としていたか?」
「はい、見事に整列されておりました。負傷者を守り、できるだけ亡くなられたご遺体の遺品を集め、その後は追撃戦に対する最大限の防御反撃体制のまま、帝国まで撤退するところを確認しました。ですが・・・」
「ですが、何だ?」
「はい。ですが表向きは生き残った中佐が指揮を執っております。しかし実際の部隊再編や負傷者輸送、後衛配置については、名も階級も不明の兵士、恐らく下級兵士だと思いますが、その兵士が中佐へ進言していたとのことです」
「誠か。ならその中佐の裏に有能な補佐役がいたのだろうな」
そしてディックはすぐさま中央へ熱のこもった上申書を書き送った。
ディックは東方北部国境警備隊の臨時司令官として、中央軍副司令官へ戦闘報告書と上申書を送った。遊撃部隊を壊滅させた判断の責任は自らにあると記し、その一方で、工作部隊と黒人兵への恩賞と昇格を強く願い出た。自身への恩賞を求める言葉は、一行も記さなかった。
約二週間後、中央軍副司令長官から戦功査定の通知書が届いた。
「中央軍副司令長官から通知書が届きました」
「見せろ」
中央軍副司令長官からの通知書を見たディックは顔色を変え、力なく、だが怒りを込めた瞳が宙を見つめていた。それを見たドギーが力なく床に落ちた通知書を読んで思わず声を上げた。
「なになに?工作部隊は隊長の昇格と部隊全員への一時金と勲章。坊っちゃんの昇格は遊撃部隊の壊滅との相殺で無しですか。あとは・・・黒人兵の昇格と勲章は却下、その代わりに一時金の支給。金で我慢しろ、ということなのでしょうな、まったく・・・」
だが兵たちの間では、その黒人兵に一時金が支払われること自体が異常として囁かれた。
「おい、黒人兵に国から金が出るらしいぞ」
「馬鹿な、そんな前例があるものか。・・・・・・いや、待てよ。確か過去に一度だけ・・・・・・」
国境警備隊の古参老兵が言った。
「ワシが若い頃に聞いた話じゃ。百五十年ほど前、一人の黒人兵が帝国軍を退け、一時金を受けたことがあるらしい。それ以来じゃろうな。黒人兵に国から金が出るなど、伝説の中でしか聞いたことがない 」
「百五十年前の伝説、か」
遠くで黙々と剣を拭う黒人兵の背中を見つめ、ディックは短く呟いた。
「ドギー、俺が個人で黒人兵に報いてやることはできないか?」
「ディック様、あなたは今、平民なんです。伯爵家の坊っちゃんではありませんよ」
「そうだったな。では俺がブライトンに復帰したらできるか?」
「まあそのときはお好きにどうぞ。どうせ私が言っても聞かないでしょうからな」
それを聞いたディックは心に何かを決めたような表情に変わった。
「ところでドギー、帝国軍のあのときの撤退は見事だった。教科書通り、いや、教科書以上だった。今後その指揮官とは相まみえたくないものだな」
さらに後日、ディックが密かに調査させていた帝国軍の撤退指揮について、新たな情報が届いた。 人員と費用をかけてあの見事な帝国軍の撤退を陰で指揮した人物を調べさせたが、まったく分からなかった。
「ドギー、帝国軍にも見るべき人材がいるものだな」
「そうですな、同じように王国軍にも見るべき人材がおりますな」
「ん?そうか?」
「嫌ですね、坊っちゃんのことですよ」
「ぼ、坊っちゃんって言うな!」
ディックは本気で誰のことなのか分からなかったが、そんなディックをドギーは理解していた。
「ですが坊っちゃん、こんな大きなことになるなんて、二年前には想像できませんでしたな」




