第13.5話 おかえりなさいませぇぇ!!
少しずつ宵闇に染まる二色の空に、2つの月が昇る。ここは異世界…魔族の国『ルフェルディア』。
国を統べる王の居城である魔王城の中庭は、ドラゴンの口から水が吹き出す荘厳な噴水など、謎のアートに彩られ、王の心を癒す(であろう)趣深い造りとなっている。
そんな庭園の水辺に突如として光が生まれ、集まっていく。やがて集まった光は収束し、ゲートを形作る。
そしてそのゲートから、ぬっと長い脚が現れた。脚の持ち主は、豪奢な黒衣のマントと艷やかなロングロングヘアーを翻したこの国の王、ベルンシュタイン・セレネ・ルフェフシュリリィその人だった。手にはかわいい袋を下げている。
「…あぁ、思い出した…」
カツンと靴音を響かせ、石の床に降り立った彼は見慣れた国の空を見上げてため息のように呟いた。彼は、たった今、別の世界から帰還した。そして、この瞬間にあちらでは思い出せなかった転移時の記憶がフッと蘇ったのだった。
当時、彼はとにかく疲れていた。誰も彼の邪魔をしない、静かな場所に行きたかった。だけど、常に仕事を片手に追いかけて来る部下のお陰で、それは叶わなかった。追い詰められた彼は、もう何もかも、どうでも良かった。
「…月に願ってしまったのか」
この国には不思議な言い伝えがあった。
『2つの月が一つになる時、月の女神が願いを叶える』という、民話なのか伝承なのか分からないマユツバものの古い言い伝え。夜空を見上げて、なんとなく親から子へ語り継ぐような、そんな寝物語のようなものだ。
そして、どういう訳か、彼の心からのSOSに月の女神が応えた…のだろうか。
魔王は空を見上げるが、月は何も応えない。
「…フッ、まぁよい。そのお陰で、我は運命の出会いをしたのだからな」
バサリ、とマントを翻し月に背を向ける。世界を渡る前とは違って彼の足取りは軽く、魔王然とした余裕の微笑みを浮かべている。
「魔王さまぁぁぁぁ!!」
ドタバタと騒がしい足音と共に、鬱陶しいほど聞き慣れた声が魔王を呼びながら近づいてくる。
恐らく声の主は宰相のアインホルンだろう。その後ろから地鳴りのような騒音で走ってくるのは将軍のゴウエンか。
「おかえりなさいませぇぇぇ!!」
アインホルンは驚くべき俊足で魔王の前に辿り着くと、目にも留まらぬ速さで居住まいを正し、恭しく頭を垂れた。声がデカい。
魔王はやれやれと嘆息をつき、アインホルンに自分の服に着けられていたブローチを渡した。
「それの座標を特定しろ、何においても、先ずはそれを優先させるように」
「なっ…!?いえ、溜まっている書類が!」
「アインホルン」
魔王は彼をジッと見つめた。苛立ちや諦めではない、なんの感情も見えない凪のような視線に、アインホルンはグッと言葉を飲み込んだ。そして静かに深く礼をする。
「…御意」
「助かる」
そして、ドスンドスンとやって来た無駄にデカい男、ゴウエンに魔王は軽く手を上げて挨拶した。
「おぉ〜!魔王様、戻られましたか!して、あの御婦人は何処へ?魔王様の『いい人』なのでしょう?!」
「あぁ、それはこれから迎えに行く」
そう言ってたおやかに微笑む魔王の表情を見たゴウエンはガッハッハと大きな声で笑った。
「そうかそうか!そりゃーめでたい!!魔王様、押しが肝心ですぞ!!押して押して押しまくる!女ごころなんてもんはそうやって掴むもんですからなぁ!」
「………、まぁ…覚えておこう」
魔王は若干躊躇したものの、曖昧に笑って誤魔化した。ゴウエンはそんなんだから、毎度毎度、奥方に叱られるのだ。と言いたくなったが何とか耐えた。大人だ。
魔王は靴音を響かせ、晴れ晴れとした気持ちで自分の部屋に向かった。いつもの様に追いかけてきたアインホルンを横目に一瞥すると、ケロリとした顔でこう言った。
「今日はもう休む。お前も、たまには早く休め」
「えっ…?!で、ですが」
すると、魔王は柔らかく微笑んで人差し指をピッと立てた。彼の記憶のなかの人が言っていた事をなぞる様に声に出す。
「お仕事も程々に、だ」
「は…」
アインホルンはポカンと口を空けたままそこに立ち尽くした。
たった数日、行方をくらました魔王は、なんだかとてもスッキリとした顔で戻ってきた。いったい逃亡先で何があったというのか…彼は渡されたブローチを呆然と見つめた。
その後、宰相殿が魔王陛下の『運命の人』に出会い、一悶着あるのはまた別のお話…。
ここまで『お疲れの魔王様、拾いました。』をお読み頂き、ありがとうございます!
簡単薬膳をテーマに執筆した今作ですが、どうだったでしょうか?なんかの暇つぶしにでもなれていたら、幸いでございます。
猫ちゃんにも薬膳的効果があるのは驚きでしたね!猫カフェは理にかなった施設だったということか!!素晴らしいですな!!まぁ、私動物アレルギーなんですけどね…鼻水ドゥルドゥルになりながらモフりたいと思います。
もしよろしければ、次の作品も暇つぶしとかに覗いてやって下さい。私が喜びます。




