第11話「妻の過去を知っても、愛せますか」
車内の景色が、突然歪んだ。
「……え?」
目の前が白くなる。
音が遠ざかっていく。
ちはるの声が聞こえた気がした。
「春樹……?」
手を伸ばすけれど、その手は何も掴めなかった。
そして―― すべてが真っ白になった。
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「……っ!」
僕は突然、目を開ける。
僕は深く眠り込んだしまったようだった。
「♪品川~品川~ご乗車の際は足元をお気を付けください。
そこは、電車の中だった。
僕は息を切らしながら周囲を見渡した。
「……え?」
さっきまで隣にいたはずのちはるはいない。
車内も違う。
窓の外の景色も違う。
「♪次は高輪ゲートウェイ、高輪ゲートウェイ。お出口は右側です。」
そして、僕は気づいた。
――戻ってきた。
2026年に。
「……ちはる」
僕はすぐに立ち上がり、扉の近くに立ち電車を降りる準備をした。
僕は、もう迷うことはなかった。
行く場所は一つだった。
ちはるがいる病院。
「♪次は新橋、新橋。お出口は左側です。地下鉄銀座線、都営地下鉄浅草線、ゆりかもめはお乗り換えです。」
僕は駅を出ると、急いで病院へ向かった。
走り、息が苦しくても、足を止めなかった。
何度も見た道。
何度も歩いた道。
見慣れた建物。
そして――
病院の入口が見えた。
僕は中へ駆け込んだ。
受付を見る。
そこには、いつもいる受付の神林さんがいた。
「……」
胸がいっぱいになった。
間違いない。
ここは未来だ。
僕は帰ってきたんだ。
「ちはるは……?」
受付を通り過ぎ、病室へ向かう。
廊下を走る。
そして、病室の前まで来た。
扉の向こうから、声が聞こえた。
「だから、今の状態のままだと――」
聞き覚えのある声。
ちはるの声だった。
僕は足を止めた。
そっと扉の小窓から中を見る。
そこには、ちはるがいた。
そして、その向かいには医師が立っていた。
ちはるが何かを話している。
その姿を見た瞬間、僕の胸に大きな安堵が広がった。
――いる。
ちはるがいる。
未来に戻っても。
僕の知っているちはるが、ここにいる。
そして、ふと思った。
僕たちは未来でも一緒なんだ。
未来でも、ちはるは僕のお嫁さんなんだ。
そう思うと、涙が出そうになった。
過去に戻って。
もう一度、ちはるを好きになって。
それでも最後には、ちゃんとここへ戻ってこられた。
僕は笑った。
「……よかった」
小さく呟く。
そして、扉に手をかけた。
早く会いたい。
早く顔を見たい。
早く、ちはるを抱きしめたい。
僕は勢いよく扉を開けた。
「ちはる――」
その瞬間。
ちはるの隣に立っていた医師が、こちらを振り返った。
僕と目が合う。
一瞬。
時間が止まったように感じた。
見覚えのある顔。
忘れるはずのない顔。
けれど、どうしてここにいるのか分からない顔。
僕の口から、言葉が漏れた。
「……森……先輩?」
医師は何も言わなかった。
ただ、静かに僕を見つめて、僕の横を通りすぎて行った。
そして僕は――
今まで何が起きていたのか、何も知らなかったのだった。
「あ、春樹来てたのね。」
ちはるが焦るように笑った。
僕は何のために過去に戻ったのだろうか...




