11.変わったことと変わらないこと
———それから、しばらくして
アデラインの部屋は、以前ほどは散らからなくなった。と言っても別に、アデラインが片づけるようになったわけではない。
エマが片づけることを、アデラインが止めなくなっただけだ。
「アデライン様、こちらの本は本棚へ戻しますよ」
「ええ」
「こちらの服も片づけますね」
「ええ」
「このカップも下げます」
「ええ」
「こちらの紙は?」
「捨てていいわ」
「承知しました」
以前なら、一つ動かすたびに、
『そこに置いておいて』
『どこに何があるかわからなくなるもの』
などと言って片付けさせてもらえなかったが、今では、エマが片づける横で平然と本を読んでいる。
予定を詰め込みすぎることも減ったし、新しい予定を入れる前には、その前後を確認するようにもなった。
そして疲れそうなら、どこかに回復する時間を取る。
…それでも疲れてしまった日は、
「…今日は無理」
そう言うようになった。
そんな日は、足湯だけ、顔を拭くだけ、髪飾りだけ外しておく、そんな感じで、全部できなくてもいい。できることだけやって、あとは明日にする。
そうエマも開き直れるようになった。
あとはエリオットの前でも、少しずつ完璧ではない姿を見せられるようになった。
少し乱れた髪や化粧をしていない顔、楽な部屋着。
それでもエリオットの態度は何も変わらなかった。
いやむしろ、以前より楽しそうに見えるのは、エマの気のせいではないと思う。
いろいろなことが、少しずつ変わった。
———だが
「アデライン様、湯浴みをいたしますよ」
「嫌よ」
これだけは、変わらなかった。
「昨日も入っておられませんよね」
「ええ」
「今日はお疲れですか?」
「いいえ」
「体調は?」
「とてもいいわ」
アデラインは長椅子に寝転がり、楽しそうに本を読んでいる。
顔色もいいし昼食もよく食べた。
今日は一日予定もなく、十分に休んでいる。
(…面倒なんだろうな)
「そうですか」
「ええ」
「シェフが、甘いのにほんのり塩気のある新作アイスを作ったとのことだったのですが」
ページをめくる手が止まった。
「……」
「湯浴みの後に召し上がっていただこうかと思っておりましたのに、残念ですね」
「…何味?」
「さあ」
「聞かなかったの?」
「新作としか」
「……」
エマは扉へ向かった。
「では、厨房に返してまいります」
「エマ」
「はい」
「せっかくの新作が溶けてしまうわ…」
「残念ですね」
「……」
「……」
「エマ」
「はい」
アデラインは本を閉じて言った。
「…湯浴みの準備を」
「承知しました」
エマは浴室へ向かった。
その背中に、アデラインの声が飛んでくる。
「急いでね」
「はい」
「アイスが溶けるわ」
「湯浴みの後ですよ」
「わかっているわよ」
エマは少しだけ笑った。
いろんなことが変わったけれど…
「エマ、早く」
「はいはい」
湯浴みが面倒なのだけは、どうやら変わらないらしい。




