恋バナ
今日は朝から校庭に出ている。そう、球技大会が始まった。
「うう〜寒いぞ〜」
「寒いね〜」
小夏は私の上着のジッパーを下げたと思ったら、私のジャージの中に入り、ジッパーを上げられるところまで上げた。
「あったか〜い」
「私も小夏が湯たんぽになってあったかい」
小夏は手を私の首に当てると、思わず声を出した私を見てケタケタと悪戯に笑った。
また触ろうとしてきたので、小夏の両手をぎゅっと握って、腕ごと下げさせる。
「相変わらずイチャイチャしてるね〜。依吹ちゃん彼女に怒られちゃうよ〜」
「ん〜どうだろう。もう別れてるからそこまで追求はされないと思う」
柔らかな笑みを浮かべていた橋野さんは、まるでサバンナで獲物を見つけたハイエナのような目をして一気に迫ってきた。
「えぇ〜別れちゃったの〜! なんでなんで! なんで今⁉︎」
表情は沈んで声は弾ませ、距離は近く目は輝いていた。
「あゆっち趣味悪いぞ」
「だって〜今恋バナに飢えてるんだもん。それとも小夏が提供してくれるの?」
「それは無理だな。無いものは渡せん」
「じゃあ口挟まないでね〜。で、なんで別れたの⁉︎」
すみちゃんは毎回これをのらりくらりと躱していたと思うと素直に尊敬する。
「簡単に言うと、友達の延長線上だと思っていたのがガチだったらしくて。生半可な気持ちで向き合っちゃダメだと思って別れたの」
「真面目だね〜。で、ぶっちゃけ付き合ってた時ってどこまでいったの?」
私が答える前に小夏が思いっきり橋野さんに頭突きした。
「痛った〜! 小夏ちょー痛かったんだけど〜!」
小夏も結構痛かったのか、涙目になっていた。
「依吹っちに変な事聞くのはあたしが許さないぞ!」
「とか言って〜小夏が聞きたくないんじゃないの〜? 依吹ちゃん女の子にモテそうだしね〜。小夏依吹ちゃんの事好きなんじゃないの〜?」
小夏は頬をぷっくりと膨らませ、橋野さんにアピールするように勢いつけてそっぽ向いた。
「依吹っちの事そんな風に見たことないぞ」
「ええっ、まじ? わたし冗談じゃなく割とマジで言ったんだけど」
「依吹っちの事は好きだけど、付き合ったら関係壊れそうだから付き合わないぞ。あたしはこの関係が一番幸せなんだ」
小夏はそう言って、指を絡ませて私と手を握り、ずっとにぎにぎしていた。
「あゆっちこそ、依吹っちに色々聞いて、気があるんじゃないか〜」
小夏はさっき私に見せた意地悪な笑みとは違い、もっと下心を孕んだ小悪魔的な笑みを浮かべ、ほんの少し身を乗り出して見上げるように橋野さんに顔を近づけた。
橋野さんは腕を組んだまましばらく黙りこくって、一定のリズムを刻みながら人差し指で腕を叩いている。
妙に静かな空気に包まれた私達を見つけたすみちゃんと白葉ちゃんが寄ってきて、すみちゃんは橋野さんの両肩に手を置き、自分の方に引き寄せて、綺麗な笑顔を向けていた。
「あーゆ。何話してたの?」
「よし、決めた!」
橋野さんは満面の笑みを浮かべて指を鳴らし、そのままその指を私に向けた。
「依吹ちゃん、わたしと付き合おう!」
表情を笑顔に固定したまま、誰よりも先にすみちゃんがは? と、低い声を出した。




