アフタヌーンティー
放課後、約束通りすみちゃんの家に行き、部屋で待っていると、アフタヌーンティーのセットを持ってきた。
「お待たせいぶ」
「凄いねすみちゃん。それ作ったの?」
マカロン、ケーキ、スコーンが並べられていて、お店と遜色ない出来だった。
「うん。ちょっと頑張ってみた。いぶが喜んでくれるかなって」
少し照れて、でも子どものように口を開けて頬を緩めながら、テーブルの上に置いた。
「すごく嬉しい。正直、喜ぶ通り越してちょっと驚きが隠せない」
口を開けて凝視していると、すみちゃんはマカロンを一つ手に取り、私の唇に触れさせた。
「ハッピーバレンタイン、いぶ」
歯を使ってマカロンを小さくし、口に入れて飲み込む度にすみちゃんは人差し指でマカロンを押していき、全てのマカロンが口に入ると、もう無いと教えるようにすみちゃんの指がほんの少し唇に触れた。
「美味しい」
「良かった。いっぱい食べてね。いぶの為のアフタヌーンティーだから」
私はケーキを一つ皿に取り、フォークで半分にして、縦に刺す。
皿はテーブルに置き、ケーキの下に手を添えながらすみちゃんの口元にもっていく。
「すみちゃんも一緒に食べよう。二人で食べたらきっともっと美味しいよ」
「えっと、じゃあ、いただきます」
食べさせるのが下手だったせいか、口の端にほんの少しクリームがついてしまったので、手を頬に添え、親指で拭うように取った。
「ありがとういぶ。私、一応自分でも味見してみたんだけど、いぶが食べさせてくれたからかな。その時よりも遥かに美味しかった」
「それは何よりだよ。じゃあ、よかったらこっちもどうぞ」
私はすみちゃんがしてくれたように、マカロンを人差し指で支えながら食べさせた。唇に触れないように気をつけて。
お互い、自分で食べずに相手に交互に食べさせあいながらだったからか、完食に結構時間を使った。
「すみちゃん、今日はありがとう。ご馳走様」
「こちらこそ、来てくれて、食べてくれてありがとう」
すみちゃんは言い始めは笑顔だったのに、言い終わる頃には寂しそうな表情を浮かべた。
セルフ恋人繋ぎをして、人差し指を擦り合わせながら忙しなく動かしている。
「あのね、いぶ、手、繋いでくれる?」
すみちゃんは指の間を少し空けた両手をこちらに向けて、俯きながら自信なさげにそう口にする。
私はそんなすみちゃんの手に指をそれぞれ交わせながら握りしめる。
私が帰ってしまうと思った故の提案だと考えると、おかしく、そして愛らしく感じる。
「うん、いいよ。繋ごう」
私にとってはなんてことない手繋ぎにすみちゃんはどれだけの感情を乗せているのだろう。
私にとっては日常の手繋ぎに、すみちゃんはどれほどの特別を見出しているのだろう。
こういう気持ちの差がすみちゃんを傷つけていたのだろう。今ももしかしたら傷つけているかもしれない。
私は知ってくれているありがたみを知らない。知ってもらえてない辛さを知らない。
だからこそ知りたい。私はどうしたらすみちゃんを好きになれるのだろう。特別に思えるのだろう。
すみちゃんは昔から可愛くて愛らしい。笑顔が素敵で声が優しくて、一生懸命で、そんなすみちゃんが大好きなのが日常で、だからこそ私は、到底特別に思えない。
私がすみちゃんに特別扱いされているのは分かる。でも私はすみちゃんを特別扱いしていない。
今やっていることも、すみちゃんだからじゃない。小夏がやりたがったら私は応じる。白葉ちゃんが求めてきても、一瞬動揺はすると思うけど応じる。
どうして私はすみちゃんが特別じゃないんだろう。
「すみちゃんは私のどんなところが好きなの?」
だから知りたい。特別に思えるヒントを。
「いぶは私を助けてくれて、手を伸ばしてくれて、いつも見捨てないでくれたから」
そんなことないよとは言わなかった。
私にそんな自覚はなかった。でも、すみちゃんはそんな私の知らない部分に惹かれている。それを否定したくなかった。
「そうなんだ。教えてくれてありがとう」
繋いだ手は温かいのに、すみちゃんの好きに共感できない私はなんて冷たいのだろうと、胸が痛んだ。




