観覧車
白葉ちゃんと二人で観覧車に入り、外の景色を見る。
既に園内はライトアップされており、上からの景色がより一層綺麗だった。
後であそこに私達も行くのかと思うと、ちょっとワクワクする。
「綺麗だね、白葉ちゃん」
「そうだね。ほんと綺麗」
白葉ちゃんは私の肩を叩き、下の観覧車を見るように促した。
小夏と美浜ちゃんが目を輝かせて、同じようにイルミネーションに釘付けになっていた。
私達に気づいた小夏が手を振り、美浜ちゃんはムスッとして何か言っていた。
「覗かないで、趣味悪い。だよ。あとで答え合わせしてごらん。合ってるから。まったく、中学生とは思えない程可愛げがない。ごめんねいぶっちゃん。美浜に色々言われて傷ついてない?」
「全然。むしろ新鮮で、ちょっとだけ嬉しかったりするの」
白葉ちゃんは目を見開いて驚いた表情を見せた後、吹き出した。
「いぶっちゃん、そういう趣味あるの?」
冗談だって分かっているけど、顔が熱くなって、ほんの少し羞恥心が芽生えた。
「そ、そうじゃなくて……。私、昔からあまり人にむき出しの感情をぶつけられることがなくて。だから、人との衝突とかも経験したことなくて。あまり、憧れていいことではないって分かっているんだけど、友達同士で喧嘩だったり、秘密の共有とか、羨ましいなった思っていたの。私ね、幼馴染がいるんだけど、十年くらいの付き合いになるのに、その子の事何も知らないの。だから、どんな気持ちであろうと、真っ直ぐに私に対しての感情をぶつけてくれるのが嬉しいんだ。その人の事が知れるみたいで」
「そっか〜」
白葉ちゃんが席に座り直すと、ほんの少し観覧車が揺れた。
「それにしてもだよ。悪意すら受け入れる必要はないよ」
「美浜ちゃんの言動について言っているなら大丈夫だよ。悪意がないことは分かっているから」
「さて、どうだろうね。初っ端から敵作る言動をしているのに」
「でも、本当に私の事が嫌いなら、今日ここには来てないと思うから。それに、白葉ちゃんの前でしているから、きっと、白葉ちゃんが今みたいにフォローしてくれるって分かった上で言ってると思うんだ。白葉ちゃんに甘えられるから、自分を出せているんだと思うよ。私は、そういう甘えられる人間にはなれないから、白葉ちゃんが羨ましいな」
「美浜が聞いたら怒りそう。でもまあ、そうかもしれないね。でも大半はこなっちゃんに会いたかったんだろうね。こなっちゃん、あたしのせいで遊びに来なくなっちゃったから」
美浜ちゃんは深呼吸をした後、外の景色に視線を移した。
「ねえいぶっちゃん。甘えてほしいなら、今あたしが甘えようか?」
クリスマスのように明るい感じではなく、イルミネーションのように幻想的でもなく、冬の夜のようにどことなく寂しさが漂っていた。
「それが、白葉ちゃんに必要なら」
観覧車は頂上を過ぎ、下へと向かう。地上に降りるまでのほんの短い時間、白葉ちゃんは語った。
「あたしね、中学の時、ある子といるのが嫌になって逃げたんだ。明るくて、元気で、今と変わらない。いつもいつも、あたしを発見する度に後ろから声をかけて、横に並んで、たまに離れて他の人の輪に入ってた。あたしも別のグループに入ってった」
白葉ちゃんの笑顔が段々と崩れて、徐々に真顔になっていく。
「その子はね、結構クラス回すタイプの子で、グループの人達もそうだった。対してあたしのグループは、どちらかというとその補佐的な役割をしてた。あまりこういうこと言いたくないんだけど、カーストとしては同じところにいたんだよ。でもね、だからこそ、自分達より権力を持っているのが気に入らない子もいるの。そこで、一番目立って、でも大事にしない子をターゲットにして、裏から攻撃するの。するとね、それに同調して、段々と攻撃する人が増えるんだ」
私は何も言えず、ただ静かに聞くことしかできなかった。
「あたしもね、グループの人間として色々と聞かされた。個人的に仲良かった子の悪口に同調する気はなくて、軽く流してたんだけど、その陰口をね、本人が聞いているところを見ちゃったんだよ。その時何かが切れてね、ひたすらに口を閉ざそうと殴ったんだよ。友達を殴ったんだよ。親呼ばれて、学校中に広まって、孤立したのにその子は変わらずあたしに手を伸ばしてくれてね、見捨てないでくれたの。その子にね、あたし言っちゃったの。あんたのせいだって。その子はね、ごめんって、何も悪くないのに謝ったの。結局距離が離れていって、家に遊びにも来なくなった。その時初めて、美浜は泣きながらあたしに怒ったの。大嫌いって言ったの。気まずくなって、高校では自分を変えようとして、どうせならと彼氏の好みに合わせてたんだけど、結局浮気されて。……何が言いたいかって言うと、あたしね、まだその子に謝ってないの。心にもないこと言って後悔してるの。あたしはね、良い子になりきれなくて、悪い子のままでいたから後悔しているの。だからいぶっちゃん、後悔したくないなら、良い子のままでいないで、少しくらい悪い子になった方がいいよ。幼馴染だって、きっとそれを望んでいるよ。悪意の衝動が物理的に人を傷つけるとしたら、善意の抑制はきっと、精神的に傷つけるかもしれないから。悪い人間からのアドバイスだよ」
観覧車の扉が開くと、白葉ちゃんは真っ先に降りて、小夏達が降りて来ると、何事もなかったかのようにイルミネーションに向かって歩いていった。
「いぶっちゃん、おいで」
まるで、観覧車の中での一時が夢であったかのように、中で見せたような暗い表情から一変して、いつもの朗らかな笑顔を浮かべた表情を見せた。
それが逆に、今回話してくれた件は、白葉ちゃんの中でも整理のついていないことなのだと痛感させられた。
──後悔したくないなら。
すみちゃんとの関係、今のままで私は後悔しないと思えるのか、白葉ちゃんを見て考えさせられた。




