初詣
三十日。今日は年末。そして、日曜日。パパとママはリビングで過ごし、兄はどこかに出かけている。そして私は、すみちゃんと自室で過ごしている。
夏休みまでがピークだったのだろうか。花火大会以降、すみちゃんからお出かけのお誘いや話しかけることはめっきり減った。恋人らしい事として、勉強は教えてもらえるけど、それ以上もそれ以下もない。
すみちゃんの事を知るにも、きっかけというものは必要となる。
……一体いつから、きっかけを求めるようになってしまったのだろう。
「すみちゃん、お正月暇だったりする?」
肘をついて教科書をつまらなさそうに読んでいたすみちゃんに、少し近づいて話しかける。
「えっと……一応、誘われはしていて……」
すみちゃんは申し訳なさそうにそう言った。
「そっか……残念」
「で、でも! 一応……だから。いぶが誘ってくれるなら、嬉しいよ……」
すみちゃんは依然として視線は教科書に注がれているが、ペンを離し、両手を合わせ、口元に近づけて少し弾んだ声で喋った。
「えっと、じゃあ、明後日初詣行かない?」
「その、二人で?」
「うん、二人で」
「小夏ちゃんと約束とかは?」
「小夏は家族と過ごすって、嬉しそうに話してたから。予定はないよ」
「そうなんだ」
すみちゃんはスマホを手に取って立ち上がった。
「あの、ちょっとあゆと話してくるね。ごめんね、すぐ戻るから」
「ゆっくりで大丈夫だよ」
すみちゃんが廊下で電話をしている間、私は床に寝転んだ。
「悪い子って、私はすみちゃんに何をすればいいの? 白葉ちゃん」
あまり、良いとか悪いとか意識して過ごしていなかった。ただ、憧れの王子様のようになりたいって思って、王子様ならこう言う、こうする、こうなる、そう思って過ごしてきた。演じている気は全くなかったから、きっと、幼少期の憧れがそのまま私の人格になったのだろう。
もし、今の私のままでいけないなら、私は誰を見習えばいいの? どうすれば甘えてもらえるの?
「分からないよ」
だって、私は悪い子を見た事がないから。白葉ちゃん以外、誰も見せてくれないから。
「いぶ、ごめんね。お正月大丈夫だよ」
私は起き上がって、すみちゃんに笑顔を向ける。
「良かった。すみちゃんとの初詣楽しみ」
悪い子になれないならなれないなりに、すみちゃんとたくさん過ごして、すみちゃんの事知って、少しでもすみちゃんに心を開いてもらえるように私が歩み寄らないと。
◇◆◇◆◇
お正月当日、すみちゃんを迎えに家の前まで向かう。
「明けましておめでとう、すみちゃん」
流石にこの寒さでお出かけはきついのか、今日はスカートではなくジーンズを履いている。
「明けましておめでとう、いぶ」
すみちゃんを知る。その為に、意識的に観察するようにしたけれど、そこで一つ気づいたことがある。すみちゃんとはあまり目が合わない。視線の方向は合っているのに、視線が交わらない。
「それじゃあ、行こうか」
私が手を差し出すと、すみちゃんはほんの少し、一瞬目を伏せる。合わない視線がより一層顕著になる。
逆に、私が前を向いて歩いていると、すみちゃんは私の方を見ている。目もよく観察しているようで、ずっと横目ですみちゃんを観察していると、すみちゃんは前を向いて、どうしたの? と聞いてくる。
「可愛いなって思って」
知りたくて観察している。なんて、口が裂けても言えないので、今日見て一言目の印象をそのまま口にする。
すみちゃんは若干頬を染めると、マフラーを握り口元を隠す。
思えば、すみちゃんはよく口元を隠す動作をしていたように思える。照れた時の癖なのだろうか。
「わっ、人いるね〜」
「もうちょっと空いてるかと思っていたけどね」
皆、有名な神社に行っているものかと思っていたけど、意外とそうでもないらしい。
すみちゃんと離れないようにより強めに手を握り直すと、すみちゃんはほんの少し身体ごと近づけた。
並んでいる時に話すから、反応を見たくて顔を覗き込もうとするも顔を逸らしてしまうのに、頬をつついたり、ほんの少し身体的アクションをすると、すみちゃんは混乱したような表情を私に向ける。それでもやっぱり、目が合わない。
順番が来て、賽銭を投げてお願い事をする。
──今年はすみちゃんの事を知れますように。
──すみちゃんと目が合いますように。
──すみちゃんともっと仲良くなれますように。
「いぶ、どうだった?」
「吉です」
「私は大吉だった」
「やったね。すみちゃんが今年良い年を過ごせるって神様が保証してくれてるよ」
「そうだと良いけどね」
すみちゃんはそう言って待ち人の欄を見た。
『待ち人来る喜びあり』
私の方はと見てみる。
『待ち人来る驚く事あり』
「どっちも待ち人来るみたいだね。どんな人だろうね」
「うん……」
もしその待ち人が恋の意味であるなら、私達のこの関係も今年で終わるのかな。
すみちゃんはおみくじを持ち帰り、私は結んで帰る。
「ねえいぶ、いぶは神様になんてお願いしたの?」
「んー。すみちゃんと同じクラスになれますようにって」
本当の事を言うとお願い聞いてくれなくなる。迷信だとしても、リスクは踏みたくなかった。
「わ、私も同じ感じ。いぶと一緒に過ごせますようにって」
だから、すみちゃんのそのお願いが本当なのか、本気で信じることはできなかった。
今日一日過ごしたけど、やっぱりすみちゃんの事はまだよく分からない。




